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(掌編小説)猫が好きだから、とっても好きだから…

猫が大好きな鈴木家は、亮介(33歳)、妻(30歳)と娘(5歳)と猫ちゃんの3人と1匹で、なかよく暮らしていた…はずだったのに…


 郊外の閑静な住宅地の一角で、かわいくニャーンと鳴く黒猫ちゃん。娘のまどかちゃんが生まれる少し前に、鈴木家にもらわれてきた女の子だ。名前はタマちゃん。まどかちゃんと一緒に育ってきた大事な家族。だけどまどかちゃんは最近外で遊ぶのが大好きで、今日も近所のお友達の家に行ったきり。奥さんの華さんの膝に座っていたタマちゃんは、気持ち良さそうに眠り始めた。
「亮くん。ちょっとタマちゃんの爪切ってくれる?私お昼ご飯の準備するよ」
「はいよ!」
 亮介はタマちゃんを抱っこしようと手を伸ばしたが、タマちゃんは嫌なのか華さんにしがみついたまま。華さんはニヤリと笑うと亮介の顔を見て言った。
「お昼ご飯、オムライス作ろうと思ったんだよね。私が爪切るから、亮くん作ってね」
 華さんはニコニコしながらタマちゃんの頭を撫で続けた。またまたとても気持ち良さそうなタマちゃん。亮介はそんなタマちゃんを横目でチラッと見た後、渋々キッチンに立った。
「まどかちゃんは帰って来るのかな?」
「心配しなくてもお昼ごはんには帰ってくるよ」
 華さんは勝ち誇ったような顔をして、口角を上げながらそう言った。




「亮介くん!どうしたの?その猫ちゃん!」
 ある日の仕事帰り、スーツ姿の亮介は子猫を2匹連れて帰ってきた。
「いやあ、ごめんごめん。会社の人の家でね、困ってたんで連れて帰って来たよ」
 亮介は無邪気に笑いながら、段ボールに入った子猫をまどかちゃんに見せると、まどかちゃんも大喜び!
「パパ!ありがとう!かわいいー!!」
 まどかちゃんはニコニコしながら2匹の子猫ちゃんを抱っこした。遠くでいぶかしげに見ている華さんと、華さんに抱かれてる先住猫のタマちゃん。
「猫ちゃんは好きだからいいけどさあ、普通は相談してからもらってくるんじゃないの?」
「ごめんごめん!許してよ」
 亮介は平謝りしながらも、猫が増えたことがうれしくてうれしくて仕方なかった。

 それから数カ月。子猫ちゃんも立派に育って、先住猫のタマちゃんともなかよしになっていた。亮介は猫の毛の舞うカーペットの上に寝転んで、お腹の上に成長したミイちゃんとケイちゃんを抱いたまま、うっとりとした表情を浮かべていた。タマちゃんはそれを横目で眺めている。遠くで妻と子供の声がした。亮介はただぼんやりと、恍惚の表情を浮かべたままそれを聞いていた。
「ゴホ…ゴホ…」
「まどかちゃん、猫アレルギーかな?」
 華さんはまどかちゃんにマスクをつけた後、天国にいるような顔で昼寝をしている夫の亮介に向かって声をかけた。
「亮くん!まどかちゃん猫アレルギーかもしれないよ!」
 カーペットの上で寝ていた亮介はぞんざいに体を起こすと、突然タマちゃんミイちゃんケイちゃんの大運動会がはじまった。亮介は頭をポリポリかいた後、華さんに一言。
「猫がいるからしょうがないよ」

 季節も巡って初夏。太陽も夏への衣替えを終え、日差しは容赦なく全ての人に降り注ぐ。眠っていた悪魔が、明るい祭り人を気取って地に降り立つのだ。そんな夕暮れ時、亮介はニコニコしながら会社から帰ると、華さんが玄関で仁王立ちして待っていた。

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