川端康成著『抒情歌』読書感想文
私は千里眼や予言のような、いわゆるスピリチュアルにまつわるものは信じていない。竜枝の語る、幼少期の荒唐無稽な霊感めいた話は、ただの狂人の戯言か、あるいは彼女が都合良くついた嘘にしか思えなかった。ただ、彼女が語る輪廻転生に関しては、唯一共感するできる事ができた。
恋人を亡くした彼女は、物語の始まりから終わりまで、終始ぶっ飛び続けている。その様々な妄想の中でも、"あの世で恋人になるのではなく、この世で花になり、花粉を運ぶ蝶に結婚させてもらう"、という終盤の彼女の仕上がり具合には、アンチスピを自負する私も、その世界に片足を突っ込まざるを得ず、彼女が思い描くその美しいイメージに思わず魅了された。だが同時に、それらの想像力がどれだけ美しかろうが、あくまで自分にとって都合の良い身勝手で傲慢な妄想でしかない事実が悲しかった。人間がどれだけ想像力を駆使して美しいイメージを描いたとしても、生きている限り、人間である事実からは決して逃れられないのだ。
彼女がそうであったように、多くの人が宗教心や、この世のものではないスピリチュアルなものに目覚めるのは、死に直面した時ではないだろうか。これまで、あらゆる危機的状況を乗り越えてきた人間だが、未だに死は決して逃れる事ができず、そしてその悲しみを癒す事ができる明確な方法というものも存在しない。死という悲しみに対して生きている人間ができることといえば、せいぜい自分自身を慰める為の物語をこしらえる事くらいだ。死者を思う時の物語というのは古今東西、様々なものがあるが、彼女の、現世の自然や植物に死者を重ね合わせる思いに、そしてそれがどれだけ愚かであったとしても、自分にとって都合の良い物語を描かざるを得ない彼女の姿に、私は深く共感した。こんなご時世である、もし、、、という思いを馳せるくらいの希望は持たせて欲しい。
読後、年譜を読んで、氏が15歳で孤児になっている事実を知って驚いた。
15歳で家族を皆亡くし、そして晩年に自ら死を選択した男は死に対してどんな思いを抱いていたのだろうか。改めて氏の作品を読もうと思う。
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