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サン・テグジュペリ著『星の王子さま』読書感想文

震災の時、"絆"という言葉をよく耳にした。
およそ18年前、"世界に1つだけの花"という音楽が流行った。"絆"も"世界に1つだけ花"も、とても大事な事だ。だが、一見綺麗で何の害悪も無さそうな言葉が世間で流行る度に、私はいつも嫌な気分になる。

キツネ曰く、絆を結ぶにはそれ相応の時間が必要であり、世界に一つだけの花には責任が伴う。だがどうだろう。時間を節約し、生活が便利になればなるほど、時間を無くしてしまい、責任も無くしてしまっているのではないか。
あれだけ叫ばれていた絆も、めっきり聞かなくなった。見渡してみれば、絆も世界に1つだけの花も、今や無縁の世の中である。

私は理想や綺麗事を抱くことは、生きていく上でこの上なく大事な事だと信じている。しかし、世間に流布されるそれらの言葉は、往々にして時間も責任も伴ってはいない。
いちばんたいせつなことは、目に見えない。
心で探さなくてはならない。

冒頭のボアの絵を見る度に、如何に自分の脳味噌が凝り固まっているかを思い知らされる。
子供の頃の"僕"や、王子さまの話は、そんな凝り固まった脳味噌をほぐしてくれている様な気分になった。

大人は子供よりも知っている、などという思い上がりに牽制する気持ちを無くさない様にしたい。

王子さまは旅の中で様々な"へんな大人"に出会う。彼らの言い分に、王子さまは違和感を拭えないが、悲しいかな、彼らの言い分を一概に否定できない私も、王子さまからすれば、へんな大人なのだろう。 

子供でもわかる、シンプルな言葉で大事なことを教えてくれる素晴らしい物語だ。だが、子供でもわかることが、へんな大人にとってはこの上なく難しい。

理想を抱き、理想に裏切られ、そして自ら理想を裏切る。それでもまた理想を抱く。
そうです、私が変なおじさんです。

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