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「送迎さえなければ私は......」子供の習い事の裏側に潜む社会課題を解く:hab・豊田洋平さん

子供の頃に習い事をしていた人であれば、親に送り迎えをしてもらった経験があるのではないでしょうか。

子供の頃には気づかなかったものの、大人になって振り返ると、親が時間や自分のやりたいことを犠牲にして送り迎えをしてくれていたことに気づかされます。

今回話を聞いたhab株式会社代表取締役の豊田洋平(とよだ・ようへい)さんが開発中のサービス「håb(ハブ)」は、「世の中から不要な送迎をなくす」サービスです。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

「送迎さえなければ、私の人生はもっと......」

2022年8月にhab株式会社を創業した豊田さん。これまで、MaaS(Mobility as a Service)領域での新規事業の立ち上げに従事していました。

豊田さんの起業の原点は、共働き世帯へのユーザーインタビューです。

50名を超える子育て層へのインタビューを通じて、見えてきたのは、共働きの子育て層を苦しめる「魔の時間帯」でした。

「ユーザーインタビューで明らかになったのは、家事のタスクが密集する15時〜17時の"魔の時間帯”です。多くの人がここにストレスを感じており、なかでも特に深刻だったのが習い事などでの『子供の送迎』でした。私自身も学生時代に母に送迎してもらっていましたが、助手席から見た母の疲弊した表情が印象に残っています」(豊田さん)

送迎のストレスと聞くと、まず思い浮かぶのは、送り迎えに伴う時間的な負担でしょう。しかし、問題はそれだけにとどまりません。

家事で疲弊した状態で運転をすれば、交通事故などのリスクも高まります。また、そもそも車や免許を持っていないがために、子供に習い事を諦めさせなければならない場合の罪悪感も精神的な負担になり、親子関係の不和にもつながってしまいます。

ユーザーインタビューの中で豊田さんが特に印象に残っているエピソードがあると話してくれました。

「ある人は、送迎があることで、勤務時間を調整せざるを得ず、正社員になれないと話していました。『送迎さえなければ、私の人生はもっと変わっていたのに』と。これが強烈に僕の頭に残っています。送迎時間が物理的な負担になっていることはもちろん、それ以上に子育てをしている人たちのキャリア形成にも大きな影響を与える重大な社会課題であるということを実感しました」

送迎車両を地域でシェア「håb」

豊田さんが開発している「håb」では、送迎車両を地域でシェアすることで、こうした課題の解決を図っています。

「大手のスイミングスクールなど、一部の事業者は、自社で車両を所有し、生徒をまとめて送迎することができます。しかし小規模事業者が導入するには、コスト面がハードルになります。そこで『håb』では、習い事専用の送迎車両をその地域内でシェアし、複数の習いごと先に子供を送迎します」


しかし、地域でシェアする場合、単独事業者の送迎とは異なり、子供たちの目的時間や乗降時間はバラバラなので、運行ルートやダイヤを決めるのは容易ではありません。

「håb」では、これまで勘と経験に頼っていた運行設計を、機械学習で最適化します。

「送迎を依頼したい人には、スマホアプリから、子供の習い事の時間や希望の乗降場所などを登録してもらいます。そうして集約したユーザーの情報をもとに、翌月の最適な運行ダイヤとルートを自動で設計します。既存の習い事事業者の場合、送迎車両の稼働率の低さが経営課題ですが、håbではできる限り運行のロスをなくそうと試みています」


東京都主催のビジネスコンテストでも最優秀賞を獲得、2023年リリースに向けて

håbは地域で送迎車両をシェアするという事業の性質上、多くの事業者に参画してもらうことで、事業としての精度も高まってきます。

そこで現在は、実証実験と並行して、習い事事業者への営業も積極的に推進。主には、地域に根付いている100名程度の生徒を抱える事業者を対象にしているそうです。

事業者からすると、追加のコストを支払ってまで送迎を依頼することにどのようなメリットがあるのでしょうか。豊田さんは「広告宣伝・マーケティング費として考えてもらいたい」と言います。

「地域の習い事の事業者さんに話を聞いていると、そもそも広告宣伝費をほとんど使っていないことがわかりました。年度が切り替わるタイミングなど、繁忙期にポスティングをする程度で、年間でならすと月に2万円程度。というのも、『ちゃんと効果が出る広告手段がない』らしいんです。地域に根ざしている分、顧客層にダイレクトに届く広告でないと、無駄が多くなってしまう。håbが送迎のプラットホームの中に広告としての機能を実装すれば、リーチしたいエリアに住んでいて、かつ習い事への意欲も強い顧客層にリーチできるようになります」

håbは、横浜市スタートアップ社会実装推進事業2022に採択され、MVPでの実証実験を開始しています。走行期間は2023年3月1日~15日ごろ。このMVPローンチを経て、さらなるサービス向上を進めています。

また2022年11月に開催された東京都主催のビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2022」では、1,000件を超える応募の中から最優秀賞を受賞。今後は首都圏をはじめ、ニーズの大きいエリアで実証実験も進めていくとのことです。

håbについて>