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その人に合った休み方を提案するアプリ「Mood」:Safamii・小平裕

テクノロジーの進化により「働くこと」へのアップデートが進んでいます。その一方、ストレスや不安に苦しむ方の数は増加の一途を辿っています。このギャップの解消のためには「働くこと」と同じ位、時代に合った「休むこと」にも目を向けなければならないのではないでしょうか。

株式会社Safamiiの代表、小平裕(こだいら・ゆう)さんは、一人一人に合った休み方をガイドするアプリ「Mood(ムード)」を開発、提供しています。

サービスの概要や事業立ち上げの経緯、今後の展望などを聞きました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。社会課題の解決に取り組むベンチャー企業を募集・採択し、メンタリングやネットワークによる支援などを通じてビジネスモデルの磨き上げと事業拡大を支援するプログラムです。KSAPの詳細はこちら


上手な休み方を身につけ、心が健康である価値に自ら気づける人を増やしていく

Safamiiが開発・提供する「Mood」は、ユーザーに対して、同社が選定したアクティビティや、休み方に関するガイドを提供することで、その人に合った休み方を提案するアプリです。「アタマとココロを空っぽにする時間の提供」をコンセプトに据えています。

「身内がメンタル不調になったことがあり、それを機に心の健康に強い関心を持つようになりました。実際、精神疾患を抱える人の数は増加傾向で、大きな社会問題となっています。もちろん個々人の性格や気質、働き方など取り巻く環境はさまざまですが、深刻化する前に、その人に適した心の休め方を提案することで、自分の心の状態に自ら気づき健康を維持できる社会にしたいと思い、この事業をスタートしました」(小平さん)

現在Moodは、主に企業で働く人に向けて開発しており、その中でも職種や役職、年齢、精神症状、気質など複数の切り口からセグメントを分けてサービスの仮説検証をしています。

特にペイン(課題)が強いユーザー層の例としては、HSP(*1)の人々を想定しているそうです。

「HSPの人は、外部からの刺激を受けやすく疲労しやすかったり、物事を複雑に考えすぎたり、共感力が強いため感情の起伏が激しかったりといった特徴があります。ストレスを溜め込みやすい上、他者からの理解がまだまだされにくいため、生きづらさを感じている人も多くいます。HSPは病気ではなく『気質』なので、治すのではなく、自分らしく暮らすための時間の過ごし方が必要だと、私たちは考えています。その過ごした方をサポートできるのが『Mood』です」

自分の心の状態に合った体験や過ごし方ガイドを見つけられる

Moodは、アタマとココロを空っぽに出来る時間を作り、穏やかな気持ちを保てる世界観を実現するために、大きく3つの特徴を備えています。

1つは、ユーザー自身の心の健康状態を可視化する機能です。

ウェアラブルデバイスと連携してフロー状態を計測するほか、ユーザー自身の性格や気質、好みの体験に合わせた「休養につながるアクティビティ」を提案したり、1週間のうちの休養時間を示すことで休養を促したりします。

またMoodでは、計測した心の状態をログとして貯める仕組みも搭載しています。

「体験後にどのような感情になったかをアプリから計測・分析でき、そのログデータを後から日記のように振り返ることもできます。データの蓄積に応じてデータがパーソナライズされ、より精度の高い提案が可能になります」

「Mood」の感情データ記録画面。訪れたスポットで感情を測定すると、そのデータはあとから日記のように振り返ることができる

特徴の2点目が、休養につながる体験の検索機能です。

「坐禅や茶道、サウナ、SUPのような分かりやすいアクティビティはもちろんのこと、街中に点在する自然公園や海辺、神社、博物館、雑貨屋、カフェなど約50のカテゴリから体験を見つけることができます。

ユーザーの位置情報や、心の状態を解析し、それに合った体験を提供できるような工夫も凝らしています」

1枚目:位置情報にあったマップのピンを押すと体験が表示される、2、3枚目:音声解析を通して状態をチェックした画面。偏差値のように”50”を標準として低い場合におすすめの体験をレコメンドする機能

「初期検証を行っていたため、現時点では神奈川県内での体験が主です。神奈川県の協力のもと、県内の各市区町村の観光課などを紹介してもらいました。今後は協力いただけるアンバサダーを増やしながら、登録地域を拡大していく予定です」

そしてMoodの特徴の3点目は、”休み方”をテーマとした音声コンテンツの企画・提供です。「一部は有料課金となりますが、時間帯や天気、気分に合ったコンテンツをつくっているところ」だと言います。

休み方ガイドの一例。スポットに訪れた時だけでなく、自宅や勤務先でも視聴が可能。

まちのウェルビーイング度を計測

Moodでは個人ユーザーに対してサービスを提供していくと同時に、観光レジャー産業においてその土地での体験が「ユーザーにもたらす感情の変化の把握」にも活用していきたいと小平さんは話します。

「Moodを活用し、『体験による感情への影響度を計測する取り組み』も進めています。ユーザーに、そのスポットを訪れたときの感情をアプリ上で登録してもらうと同時に、自分の声をアプリに記録することで、声から心の状態を数値化します。。この主観と客観の2つのデータから、ウェルビーイング度を算出する仕組みです」

実際2024年2月には『さがみ湖プレジャーフォレスト』内のイルミネーションイベント『さがみ湖イルミリオン』で実証実験を実施しました。

「イルミネーションを見たときの感情をアプリから登録してもらい、心にもたらす影響を確認しました。2日間で600程度のサンプルを収集できたため、体験前後での感情の変化や、他の実証実験でのデータと比較して、傾向を分析しているところです。

アプリの精度向上など研究開発の側面が強い取り組みですが、Moodに掲載しているアクティビティの価値をさらに伝えるための活動でもあるので、今後も続けていきたいです」

事業がうまくいかず落ち込んだ体験が、Mood発案のきっかけ

小平さんはリクルートやビザスクで新規ビジネス立ち上げなどの実績を積んだのち、2021年1月に起業。事業領域は最初から「心の健康」を貫いているものの、アイデア自体は何度か事業転換を繰り返しました。

「Mood」発案のきっかけとなったのは、2022年小平さんが「HATSU鎌倉(神奈川県が主催する起業家支援プロジェクト)」内で事業立ち上げに取り組んでいたときのこと。

「最初は、『花と緑』を中心とした身の回りの環境を整えるインテリアコーディネートサービスをつくっていました。植物をはじめとした自然に触れる体験が心の癒しにつながるというコンセプトのサービスで、花農家さんの協力のもと半年ほど取り組んでいたのですが、ユーザーを獲得できなくて断念しました。これまでやってきたことは何だったんだろうかと落ち込み、自暴自棄になっていました。

そこで、今まで働き詰めだった環境を離れようとしたんですが、SNSやメールなどでつながっているこのご時世では『何かを手放して休む』ことが極めて難しいと思ったんです。

そんな中で、スマホも持たずに訪れた海辺でぼーっとしていた時に、今まで何を生き急いでいたんだろうと思考が整理され、落ち着いた経験がありました。一例にすぎませんが、もっと日常的に『アタマとココロが空っぽになっている状態』を作ることで、本当に自分が大事するべき価値観を思いだせるようになるのではないか、と思い、今のサービスを作り始めました」

スピード感を重視して、ビジネス版のサービス開発も

最後に、今後の展望を聞きました。

「2024年は、着実にアプリ内のコンテンツを拡充し、UI/UXを向上させること、そして効果のエビデンス取得のために実証実験に力を入れていくことを考えています。特に効果検証については民間企業やアカデミアを巻き込みながら行うため、事業検証のための資金調達も実行したいと思います。

神奈川県では『未病』を重点施策に置き、健康寿命の延伸を図ろうと取り組んでいます。そうした県のバックアップも受けながら、健やかな社会の一助になれるように進めていきたいと思います」

株式会社Safamiiについて

*1:HSPは米国の心理学者、エレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念。神経が細やかで感受性が強い性質を生まれ持った人のこと。全人口の15~20%がHSPと考えられている。