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人生の価値観と事業がぶつかったところにマーケットを見つけた:ワンダートランスポートテクノロジーズ代表・西木戸秀和さん

GOBでは、毎週月曜にランチ会を開催。日々の学びなどをシェアするとともに、一部の会ではメンバーや各事業部の課題感に合わせてゲストを招いてお話を聞く機会をつくっています。(*現在はオンライン等で適宜開催)

今回は、ワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社代表の西木戸秀和(にしきど・ひでかず)さんに話を聞きました。

西木戸さんは現在、貸切バスのオンデマンドサービス「busket/バスケット」をはじめとして、快適で豊かな移動体験を提供する「ワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社」を運営しています。

*2019年12月16日に開催したオフィスでのランチ会の様子を記事化したものです。


「移動で世界の自由度をあげる」ワンダートランスポートテクノロジーズを創業

西木戸秀和さん(以下、略):2019年10月で、ワンダートランスポートテクノロジーズを創業してから丸7年になりました。現在は8期目を迎えています。

大学在学中から、DJイベントを開催したり、就職活動時の時期にヨーロッパを旅したりと自由に過ごしてきましたが、2006年に初めて個人事業主として独立します。

アメリカのTIMES誌が毎年、「Person of the Year(今年の顔)」を発表していますが、2006年の表紙を飾ったのは「You」。ソーショルメディアが台頭してきて、個人の情報発信が盛んになったたタイミングでした。

私も、ずっとコンテンツ側にいたプレイヤーとして、すでに流通しているコンテンツではなく、自らで何かを発信していくことの価値が高まっていることを感じ、独立を決めました。

チケッティングサービス「BANANA」をリリースも......

独立してからは「サメラボ」の屋号で事業を開始。当時は資金を集めるために、レコード会社や、インターネット広告企業のお仕事を手伝っていて、2年後にサメ株式会社として法人化しました。

その頃に立ち上げたのが、「BANANA(バナナ)」というチケッティングサービスです。

BANANAウェブサイトより

当時、私の遊び場はクラブのような場所でした。なんとなくクラブに集まって、遊び終わったら朝方に富士そばに寄ってぐったりしながら帰る、みたいな“若者らしい時間”を売りたいと思ったのがきっかけです。コンテンツにお金を還元したいと考えたときに、コンテンツにお金が流れる動機は一緒に行く人がいることなんじゃないか、と思ってスタートしまし。

例えば、イベントを主催したい人がBANANA上で、イベントページを制作します。私たちは、その主催者から手数料として5~7%の手数料をいただくビジネスモデルなので、5000円のチケットが1枚売れれば、200〜300円くらいです。

サービスを立ち上げた時に初めてベンチャーキャピタルからの資金調達も経験します。VCの方が私のアイデアを評価してくれてスタートしたようなものです。当時の僕は登記の仕方すら知りませんでしたから。でも、こうやって応援してくれる人がいたことで、初めて個人事業主から、「起業家」になろうと決意しました。今思えば、よく資金調達できたなと思います。

そんな私なので、色々と失敗も経験しました。上のようなビジネスモデルなので、一度にまとめて手数料が振り込まれるんですよ。キャッシュフローの概念がなかった私はお金がたくさんあると錯覚してしまって、翌月に大変な目にあったこともありました。

結果的には、やはり資金繰りが厳しくて、好きだけど続けられない状況になります。お金がなくなって初めて「自分がやりたいこと、解決したい課題は何なのか」に気づくだと知りました。

バスに着目、貯金のために和式トイレの家へ引っ越し

結果的に、BANANAはそのまま継続しつつ、サービス形態を旅行会社に近づけて行こうと決めます。

そこで目をつけたのがバスを活用したサービス(現在の「busket」)でした。

ただ、問題なのはこれが旅行業法で制限された、旅行業者にのみ許されている行為だということです。旅行業を営むにはまず、国内旅行業務取扱管理者の資格を取得利なければいけません。しかし、次の試験は約1年後。また、会社の純資産も700万円以上が必要でした。

そこでまずは、規定をクリアするためにお金を稼ぐことにしたのです。

私自身も気持ちを入れ替えるためにも引っ越しをしました。和式トイレで、ベランダに簡易シャワーが置いてあるような部屋で、恵比寿で54000円という格安物件でした。今思えばかなりワイルドな生活でした。

増資に成功し、旅行業者として再スタート

お金を稼ぐために、始めたのはエンジニア業務の受託でした。

私の共同創業者が、19歳ごろからの友人だったのですが、彼がエンジニアだったためです。手っ取り早く単価の高い領域に行こうと思い、SI(システムインテグレーター)の領域へ。それを3年ほど続けましたが、それでも自分たちが食べていく分のお金しか入ってはきませんでした。このままぼんやりと続けていくわけにはいかないタイミングに差し掛かっていました。

当時、2017年ごろは資金調達のトレンドも上向いていたので、思い切って会社をたたみ、もう一度エクイティで資金を集めることもできたのかもしれません。

しかし、私としては最初に投資してくれたVCに起業家マインドを育ててもらったと感じていましたので、増資を求めて舵を切ります。エンジェル投資家の前で、なぜ旅行業者として再スタートする必要があるのかをプレゼンし、結果的に3人からの資金調達に成功。このタイミングで現在の「ワンダートランスポートテクノロジーズ」へと商号変更しました。

アナログな課題を抱える旅行業界に、バス×チケットの「busket」

busketウェブサイトより

これまでの数年間、サービスを続けながらいろいろな旅行会社やバス会社に話を聞いていると、非常にアナログな課題を抱えていることがわかってきました。

バスやタクシーといったチャーター系の交通手段はどれも労働集約型のビジネスモデルで、ここに制限があるために、人々の動きが活性化しない状況がありました。自分たちでツアーを企画したくてもそこは旅行業法で規制されていますし。

そうした課題解決のためのサービスとしてリリースしたのが「busket(バスケット)」です。サービス名はBusとTicketを掛け合わせました。 

busketでは、個人が自由にツアーを企画し、オンラインでチケットを販売できる。従来、旅行業法の規制があった部分を、ワンダートランスポートテクノロジーが間に立ってオーガナイズすることで、クリアした。

「人生の価値観と事業がぶつかったところにマーケットを見つけた」

僕にとって、busketのリリースはピボットという言葉ではなく、自分の人生の価値観や自分の思いと事業がぶつかったところにマーケットを見つけた、という感覚です。

おそらく、自分の中にもともとやりたいことや解決したいことはあったんです。でも、そこ切り込む角度や会話の仕方一つで周りを巻き込めるかどうかは大きく変わってきますし、もっと言えばお金の取り方も変わってきます。

どういう思いがあるのかはとても大切だけど、その次にはそれをどういうマーケットに属して動かしていくかが大事だと思っています。つまりシンプルに、大きいマーケットに行けば行くほど、商売しやすいという話で、それは現在も身をもって体感しているところです。

バスの領域はインフラにも関わらずガラ空きの状態です。それなのに、今はドライバー不足で赤字事業だという見方をされています。なぜかといえば、結局、人件費の問題で、全国でおよそ5万車両が運行している中で、実働率が45%ほどしかないためなんです。今だにFaxでやりとりするようなアナログな業界なので、ドライバーの配置が全く最適化できていない。

それに対してbusketでは、従来の問題を解決するために、フォーマットに行程を入力するだけで金額を算出できるようなシステムを整えたり、ツアー企画のためのクラウドファンディングページを用意したりといった取り組みをしています。バス会社に対してもツアー企画の案件を一覧で見れるようにして、国交省指定のフォーマットを出力すると取引ができるようにしています。

これからは、乗り物が過疎地域で病院や診療所としての役割を担ったり、コンサート会場で託児所として機能したり、はたまた郊外でマルシェを開催したり。箱自体が動き、あらゆる場面で活用されるようになってもいいと思うんです。提携しているバス会社にもこうしたビジョンをインストールしていきたいですし、このビジョンに近づくために、busket内での流通額を伸ばしていきたいと思っています。

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