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サプライチェーンの最大距離をいかに短くするか:ESG経営のポイント

「ESG×新規事業」をテーマにした鼎談の後編をお届けします。

前編はこちら

話し手は、新規事業の立ち上げを専門にしてきたGOB Incubation Partners株式会社の山口高弘さん(社長)と高岡泰仁さん(副社長)、そして​​株式会社パソナJOB HUBの加藤遼さん(旅するようにはたらく部長)の3人です。

前回の記事では、ESG的な事業を作る上でのポイントを「既存の業界構造を転換すること」だと指摘しました。今回も引き続き、資本主義の時代に“作られた“業界構造やサプライチェーンを乗り越え、ESG経営を実現するまでの道のりを考えます。

資本主義で失われたもの

高岡泰仁「資本主義で損なわれてしまった、人々の、特に日本では神社などに象徴される環境との共生や持続性を重視するというマインドやコミュニティ(共同体)に、事業としてどう価値を提供していくのかはこれからのポイントですね。

とはいえ、ダイレクトに行動や意識を変えるのはかなり難しいので、事業を通じて経済システムを書き換え、今までだったら非合理だったところを合理に変えて、経済価値を重視しているかのようにソリューションを届けていくことが今後求められるのではないでしょうか」

加藤遼「シェアリングエコノミーはその典型ですね。Airbnbは、それまでのホテルなどと比べると利便性や統一性が損なわれるという不合理に対して、安いという経済的なメリットがあって、かつその割に人との交流による温もりがある、みたいな」

山口高弘「もう一つあるのは、資本主義の根本的なロジックである「もっとより良い自分になりませんか」という問いかけを、いかにして乗り越えるのか。資本主義はそういったプレッシャーを与えて個の消費を喚起させます。個を単位とした闘争心が掻き立てられた結果、人々はつながりを失ったり、不安になったりしています。

だとすると、今後のビジネスが対象とすべき単位は『個』ではなく『対』や『パートナーシップ』『集団』になるのではないでしょうか。顧客の捉え方を変えていく必要があるように思います」

「サプライチェーンの最大距離」をいかに短くするか

かねてから加藤さんは、社会課題の原因を「生産と消費の距離が離れたことにある」と指摘してきました。

資本主義の時代に作られたサプライチェーンを、私たちはどのように作り変えていくことができるでしょうか。

高岡「企業が商品を生産してから顧客に届けるまでのサプライチェーンが長く、そして複雑になったことで、分業化が進みました。これは大量消費の時代に、全国各地から消費の中心となる都市部への供給を効率化し、需給のバランスを取るという良い面ももたらしました。しかし一方でそれが行き過ぎた結果、生産者と消費者の距離が遠くなり、人が機能として分断されて『個』に近づいたようにも思います。生産者も消費者も、それぞれの価値や活動が社会システム全体に消費されている感覚が強いから、幸福感も低くなるのかもしれません。

一緒に事業を作っている起業家の中に『職人たちをアップデートする』ことを目指している方がいます。その彼と地方の職人回りをして、話を聞いてきました。すると、資本主義によって、職人たちから販売能力が失われていることがすごく大きな問題として浮き彫りになったんですよ。

職人たちが持つ技術は、少し前までは“最先端”でした。しかし高度経済成長を経てサプライチェーンが組み直され、消費者と分断されたことで、生産者である職人たちはものを作ることに専念するようになりました。その結果、生産者たちから、販売するとか、顧客と接点を持つという能力を経済が奪ってしまったのです。今では、“伝統工芸”などと言われ、衰退の一途をたどっているというこの事実は、経済システムがもたらした一つの結果と言えるのではないでしょうか」

加藤「例えば『御社の事業や製品サービスは、それを通じて人と人をつなげているか。人と自然をつなげているか』みたいな経営指標はどうですか」

山口「いいですね。加えてもう1つ、『サプライチェーンの端と端の最大距離をいかに短くできるか』も重要だと思います。そもそも人の倫理観は、身体的、物理的に近づかないと発動できないので、サプライチェーンの端から端までの距離が遠すぎると、それを思いやることができなくなってしまうんですよね」

高岡「サプライチェーンの距離を短く構築し直すことが、もしかしたら、伝統がもう一度最先端に戻っていく1つのきっかけになるかもしれませんね」

ESG時代になくなる「ビジネスライク」という言葉

加藤「あとは人口の多さもあるかもしれません。東京の大手町駅で電車を降りると、タックルされるんですよ(笑)。人が多すぎるがあまり、人を人として認知できなくなっているような気がします」

山口「確かに東京でタックルする人も、地元ではやらないでしょうね。かつてヒトラーがやったような『非人間化』、つまり人を人ではないものと見立てることによっていくらでも排斥や攻撃ができてしまうということが、小さく都会で起こっているのだとすると、際立ってまずいですね」

加藤「だからこれからは、人間を人間としてちゃんと見ようという方向に向かっていくのでしょうね。人を人として見るって至極当たり前のように思えますが、都市部のビジネスでは、意外と当たり前じゃないですよね」

山口「今の話を聞いていて、言葉はESG時代の経営になくなる言葉が思いつきました。『ビジネスライク』ってたぶん無くなりますよね。

あれを言い換えると、『非倫理的であれ』ということじゃないですか。もう20年くらい前からずーっと違和感があって......」

加藤「確かに! よく考えたらすごい言葉ですよね」