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保育士を企業に派遣「ペアサポ保育」で職場環境を改善する:ピクニックルーム・後藤清子さん

子育てには何かと不安や悩みがつきものです。働きながら子育てをしている人にとっては、時間もない中で、身近で相談できる相手は限られています。こうした現状に対して、株式会社ピクニックルームでは、保育士を企業に派遣し、職場の中で相談を受け付ける「ペアサポ保育」事業を展開しています。

同社代表取締役の後藤清子(ごとう・きよこ)さんに、事業立ち上げのきっかけや、現在の保育業界における課題を聞きました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

子育ての身近な相談役「ペアサポ保育士」

ピクニックルームでは、保育士を企業に派遣し従業員の育児を支援する「ペアサポ保育」事業を展開しています。

「ペアサポ保育士とは、従業員に伴走する保育士です。企業に派遣された保育士が、産業医や産業カウンセラーのように子育てに関する相談を受け付けます。従業員にはより働きやすい環境を提供することでQOL向上に貢献すると同時に、保育士には、保育園以外での新たな活躍の機会を提供します」(後藤さん)

子育てに関する課題はさまざまありますが、後藤さんは「悩みは、聞いてもらえるだけでも軽減される」と感じています。

「子育て期の悩みは、赤ちゃんから中高校生くらいまで、多岐にわたります。個別の事情もあるので、すべての解決策を提供するのは難しいですが、多くの人は『聞いてもらえるだけ』でも助かると感じています。しかし、いくつかの調査を見ると、主な相談先はママ友/パパ友です。それ以外はほとんどが児童館や行政の相談窓口といった公的施設で、なかなか民間の相談窓口は充実していません」

そこでピクニックルームでは、企業に対して保育士を派遣することによって、子育ての悩みを解決しつつ、企業側の生産性の向上にも貢献しているのです。

また保育士だけではなく、キャリアコンサルタントや社会保険労務士などの専門家によるチームを組成し、より幅広く、専門的に対応できるのがピクニックルームの特長です。

専門家と連携し、事業発展のサポート

「子育て支援を人材育成の観点からとらえ、子ども、保護者、家庭、そして地域と連携しながら“楽しく生きる未来”を考える企業」としてさまざまな展開をしてきたピクニックルーム。

前職でエンタメ事業に従事していた後藤さんは、 6年前に知り合いからの相談を受けて保育事業を始めました。そこから少しずつ保育業界の課題を捉えながら、サービスを開発していきました。

「はじめは『保育って何だろう?』と手探りでしたが、その中で、企業主導型保育事業の存在を知りました。従業員の働き方に応じた柔軟な保育サービスを提供するために、企業が設置する保育施設に対する助成制度です。企業がお子さんを保育するというコンセプトのもと、近年始まった制度ですが、ここから着想を得て新規事業を考えていきました。お子さんに対して、ベクトルが向くような新しい考え方が必要だと思うようになったのです」

「子育ての悩みがスピーディに解決することで、 QOLが上がり仕事の生産性といったパフォーマンスは向上していくと考えています。今は実証実験中です。まずは従業員と子育て世代の方とお話をしたあとで、レポートを提出し、フィードバックを行なうという流れです」

子育ての悩みの多くは、基本的には自力での解決が求められます。専門機関の助けが必要になっても、公的機関の受付は17時までのことが多く、働いていると、相談することすら簡単ではありません。

ピクニックルームのサービスでは、自分が相談したいタイミングで、必要なサポートを提供できます。また、重要な課題が出てきたときには、レポートのフィードバックの中でプライベートに隠れた個々の課題に事前に気づき、予防措置をとることもできるのです。

「子どもが長期に病院に通わなくてはいけない時のエビデンスにもなります。会社の理解を得るという意味では、一般社員よりも、管理職以上への理解が大事なのを実証実験でも確認できています。社内データを分析したり、社労士と共に就労制度を検討したりと、子育て支援策を具体的に提案しています。離職防止や人材採用の施策としても機能しています」

このように、各所の専門家とも連携した上で子育て支援策を構築し、事業発展に向けたサポートまでできるのが、ピクニックルームのユニークなポイントです。

会社で働きやすくなるきっかけづくりにも

実際にピクニックルームでは、これまで4社の企業に向けてサービスを提供していますが、9割以上が満足しているとのことです。

「相談を通じて浮かび上がってきた悩みや不安を、ピクニックルームが会社にフィードバックすることで、会社側から「あなたの話を聞かせてください」と働きかけることができます。それだけでも、『会社にほっとかれているわけじゃないんだ』と安心感を持てた方もいました。

そのほか、『就労時間内に子どもを支援施設に通わせたいが、会社への伝え方に悩んでいる』といった悩みに対しても、レポートを提出することで通わせやすくなった、リモートや就労時間をずらせた」といった声もいただきました」

保育業界のアップデートへ

昨今は、保育業界の問題がニュースになることも増えています。これに対して後藤さんは「以前からあった問題が露見したに過ぎない」と指摘します。

「今求められているのは、保育士そのものの質を高めることです。じゃあどうするか?という問いへの選択肢として、「ペアサポ保育」のような制度を用意しておくことが大切だと考えています。保育士の資格は一度取得したら、そのまま70歳まで働くことが可能です。しかし現状の制度では、保育園以外での活躍の場が限られてしまいます。産業保育という形で、保育士をちょっとアップデートすることで、保育士たちが社会性を得ながらさらに成長する機会を得られると考えています」

ピクニックルームでは、子育ての悩みや企業の課題を解決するだけでなく、保育士の新たな活躍の場をつくり、保育業界自体をアップデートしていくことにもチャレンジしています。

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