夢のはなし 第一夜『始まりの季節、妖しい体験』③

カッパがいるという場所は、ヤマグチと出会った大学の裏手、鬱蒼と生い茂る木の間が入口らしい。
人の敷地なのではないかと戸惑いながらもズンズン進んでいくガイドを見失わないように夢中でついていく。

狭い敷地に見えた木々の群れは、案外広くて驚いた。
草木をかき分ける。けもの道とは到底言えないような植物たちの合間を縫って行く。進んでいくと、背の高さよりもある葦の群れが生えた池が僕たちを待ち構えていた。

こんな広い場所に辿り着くことは予想もしていなかった。
するとヤマグチは躊躇せず先ほどのけもの道を進むように池へと足を突っ込んだ。
驚いていると、奴はやはり水を何とも思っていないようにズンズンと歩き進めていく。
ここまで来るともう訳も分からなくなり、夢の中にいるような感覚で何も考えず僕も後ろをついて池に入った。
葦をかきわけながら水にだんだん沈んでゆく足元を考える暇もなくヤマグチの背中を追う。
今考えると、この後顔は完全に池に沈んでいたのだが息苦しくなった記憶は無かった。

水中に潜ってしまうと、あたりはすっかり池の中で少し遠くに土のような色の魚たちがちらほら見える。足元は紺色のグラデーションになっていて、住宅街のど真ん中とは思えないほどにかなり深そうだ。
水中追いかけっこを夢中でしていると、水面が近くなってきた。
あと3秒ほどで外に出るというところで突如、カッパのようなしわくちゃの干からびたような顔が横切った。
その瞬間はスローモーションのようで、はっきりと鮮明に今まで見たことのない生物を確認する。
恐怖と驚きで心臓が跳ね上がるのと同時に自分の体がふわっと宙に浮かぶ。

すると、カラスと接触しそうになった。が、そのカラスの顔もさっきのカッパらしいものとよく似ていて目を見開いたまま体が硬直した。

そのままドシンとおしりから着地した。
いつのまにか自分は大学近くの田んぼの前で腰を抜かしていた。アスファルトに落っこちたはずなのにそんなに腰を痛めなかったのは幸いだ。
勢いよく振り返ると、見えるのは水が張った小さな田んぼで、池はどこにもない。何事もなかったかのようにヤマグチは腰を抜かしている僕を冷静に見下ろしながら
「な、いるだろ。」
とだけ言った。

つづく

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