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スマートファクトリーを失敗に導く、DX2つの勘違い

こんにちは、ゴール・システム・コンサルティング(GSC)の但田(たじた)です。当社は20年前の創業以来、製造業の生産や開発のフロー(流れ)を良くするコンサルティングを多く実施してきましたが、近年では、そうした工場改革にも、デジタル活用が欠かせなくなってきました。

「製造業DX(製造業のデジタル活用)」や、「スマートファクトリー化」を自社の課題として、製造現場の変革に取り組んだり、検討をしている製造業関係の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

2020年代の今も後を絶たない「デジタル投資の失敗」

世の中的にも「DX」というキーワードを見かけない日は無いくらい、デジタル活用が重要視されています。私たちが行っているTOC(制約理論)を活用したコンサルティングにおいても、小説『ザ・ゴール』や、小説『チェンジ・ザ・ルール』が出版された20年以上前と現在では、デジタル技術を巡る環境は全く異なってきています。

しかし、GSCのCCSO(チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー)で、日立製作所時代に多くのDX案件に関わってきた渡辺薫は、「デジタル技術が格段に進歩した一方で、デジタル投資の失敗が後を絶たないことは、20年前も今も変わらない」と明言します。

そこで、今回のnoteでは、渡辺へのインタビュー形式で、デジタル投資の失敗に導いてしまう、「DX担当者が抱きがちな、2つの勘違い」についてお話していきます。

そもそも、DXってどういうこと?

但田:渡辺さん、よろしくお願いいたします。お話の中身に入る前に、まずは、そもそもDXってビッグワード過ぎてイメージしにくいので、わかりやすく説明していただけますか。

渡辺:ではまず、DXとは何か、ということを簡単に説明しておきたいと思います。DXは「デジタルトランスフォーメーション(digital transformation)」の略称です。

この言葉の意味は、「デジタル技術を活用して、ビジネスをトランスフォーメーション…つまり、変革する」という意味です。デジタルが手段で、トランスフォーメーション(変革)が目的という関係にあります。

但田:なるほど、手段と目的の関係…、変革をするために、デジタルという手段を使うということなんですね。

渡辺:そうです。しかし、デジタルという手段が目的化することによる失敗は未だに後を絶ちません。

勘違い(1):「まずはデータを見える化して、課題を発見」

但田:ではさっそく、そうした失敗につながりがちな勘違いの一つ目はなんですか?

渡辺:僕は常々言っているんだけど「とりあえずデータを見える化して、課題を発見」というのは、実際には、できないんです。

但田:え?そうなんですか?「現場のデータを集めることで、御社の課題を明らかにします」っていう謳い文句は、よくありそうですが…。

渡辺:そうだね、じゃあ想像がしやすいように、病院で診察してもらう例え話で説明をするね。もしも、病院に来た人が「どこがってわけじゃないんですけど、なんか具合が悪いんです。検査してどこが悪いか見付けてください」って言ったとしたらどう思う?

但田:うーん、ちょっと漠然としすぎてて、頭が痛いとか、お腹を壊しているとか、そういう情報がないと、どの検査をすれば良いのかわからなくて困ってしまいます。

渡辺:そうなんです。病院で検査をする時には、病気についての仮説がある。「肺の炎症を見付けたいからCT検査をする」とか、「頭の血管を調べたいから、MRIやCTや頭部血管造影検査」とか。

課題の仮説が無い状態では、どんな風にデータを集めて、どう見える化するかが分かりません。病院に行って「なんだか具合が悪いから、検査して調べて」って言っているのと同じことになってしまうんです。

だから本来、データの見える化は、仮説を立てて、仮説検証としてやるものなんです。でもなぜか、DXやIT化を考える時に「データをたくさん集めれば、何かが見えるのではないか」という誤解をしている人はとっても多いんです。

補足:データを役立てるにはグラフが必要

但田:確かに、IT業界の人と飲み会をすると「AIを使って何か良いことやって」みたいな相談が多くて困る、みたいな話もよく聞きます。

渡辺:よくあるよね。ここからは少しマニアックな補足説明をしておくね。データ活用に、仮説が必要な背景についてです。それは、「仮説がないとグラフが作れないから」なんです。

但田:グラフが作れないから…?もう少し詳しくお願いします!

渡辺:データは、分析して活用できるようにするためには、グラフにする必要があります。そして、とても沢山あるデータからグラフを作るためには、2つのステップが必要です。

一つ目は、グラフにするためには、10枚とかじゃなくて、「1枚の表」にする必要があります。沢山あるデータから1枚の表をどう選ぶかが、最初の難しさです。そして二つ目は、表をグラフにする時に、どのようなグラフを選ぶかです。グラフって、折れ線だの円だのヒストグラムだの、いろんな種類があるので、「どういうデータを見たいのか?」という仮説がないと、有効なグラフにすることができないんです。

但田:なるほどです。確かに自分が資料作成でグラフを使う時も、最初に「こういうことを示したいから、こんなグラフが欲しい」というイメージが無いまま作業を始めると、何が言いたいのかわからない資料になっちゃいますもんね。

勘違い(2):「データを活用すれば、何かできる」

但田:「とりあえず見える化すれば、課題が見付かる」っていうのは無理だということが理解できました。2つめのよくある誤解ってなんですか?

渡辺:2つめはね「データを活用すれば、何かできる」っていう誤解です。デジタル化を考える時に、「データの活用をすると何ができるか?」について、よくわかっていない人が多いんです。

但田:これも、よくありそうです。明確な課題が見えていない限りは「ウチもデジタル活用しなきゃ」っていう漠然とした意識からスタートするんじゃないでしょうか。

渡辺:実際、そういう始まりは多いんだよね。そうした初期段階で、「データでいろんなことができる」と漠然とした広いイメージを持っている方が多いです。でも、「いろいろできる」って本当でしょうか?ここでいったん、データに何ができるのかを整理しておきましょう。

ファッション業界・食品業界・運輸業界でイメージしてみます。まず、データを着ても、暖かくありません。データは食べられません。そして、データはモノもヒトも運べません。

但田:当たり前っちゃ当たり前ですけど、データはサービスや商品そのものではないですもんね。

渡辺:そう、データは価値そのものを提供するわけではありません。価値そのものは、洋服・食品・バスや電車が提供しています。

じゃあ、「データには何ができるのか?」これをちゃんとわかっておくと、迷わなくて済むんです。データは、有形なモノや、サービスの価値を引き出すため、そのためだけに使っているんです。

たとえば、衣料業界で言えば、服がムダにならないように、欲しい人に欲しい服が手に入るようにする。食品を、なるべくフードロスが少なく供給できるようにする。そういう風に使って初めて、データの価値が出るんです。

つまり、データは、リソースをどうやって有効活用するかを考えるために活用するんです。

但田:なんだかTOCっぽくなってきましたね!

渡辺:データ活用って基本的にそういうものなんです。東京から京都まで長距離バスを運行する30人乗りのバスがあるとして、それがデータの力で40人乗りになるわけじゃない。でも、「なるべく満席になるように工夫をして売りたい」とか、バスというリソースを使いこなすためにデジタル技術を使うと役に立つんです。

例えば、毎時に夜行バスが出発するとする、今はPM9時、10時、11時の三便だけど、もしかしたら、9時半、10時半、11時半の方が良いかもしれないし、スループットを最大化するためには、若干空席率が増えても4本にした方がお得かもしれない、あるいは2本にした方が良いかもしれない。
こんな時に、データを使うと役に立ちます。

「データは、リソースをどう有効活用するか考えるために使う」と考えるとわかりやすいし、TOC(制約理論)はそもそも希少リソースを使って考えているからデジタル活用とは相性が良いんです。

但田:なるほど、デジタル活用の着眼点がわかってスッキリしました。

やりがちな「勘違い」、どうすれば良いの?

但田:今日は、スマートファクトリー化などの、デジタル投資を考えるうえでやりがちな、2つの勘違いについてお話を聞きました。「勘違いについては分かった。それじゃあ、どうすれば良いのか?」ということについては、noteでは書ききれないので、6月21日に無料のオンラインセミナーでお話いただけるんですよね。今度のセミナーのポイントを教えてください。

渡辺:今回は、特に、ディスクリート型製造業(※自動車や家電製品など、部品を組み立てて最終製品を作るタイプの工場のこと)の生産工程のスマート化を対象として、まずは、この記事でも触れたような、デジタル活用において誤解されがちなキーワードについて説明します。

そのうえで、TOCの考え方も適用しながら、工場でのデジタル化を考えるうえで必要な観点や進め方についてお話していきます。あわせて、エンジニア領域の最新のトレンドもご紹介します。他社の事例も含めて、スマートファクトリーの検討をどのように始めたら良いかまでお話していきます。

製造業DXや、スマートファクトリー化に興味関心はあるけれども、どうも、わかったようなわからないような情報ばかりで、自社についてどう考えれば良いのか迷っているなど、モヤモヤしている方々がスッキリできるお話をしていきます。

但田:渡辺さん、どうもありがとうございました。
6月21日のオンラインセミナーは16時~17時の1時間開催ですが、もしも質問が多い場合は最大30分延長し、視聴者の方の質問にしっかりお答えしていきますので、ぜひ皆さんご参加ください!

▼6月21日(水)16時~17時開催、無料オンラインセミナーのお申込みは以下のページからお願いいたします。

渡辺 薫 (わたなべ かおる)
ゴール・システム・コンサルティング株式会社 
執行役員副社長 兼 チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー(CCSO)

プロフィール
ハイテク企業でR&D、経営企画、マーケティング等を経験したのち、90年代のデジタルマーケティングの黎明期にはエバンジェリスト&コンサルタントとして活動。その後、外資系ITサービス企業等でITサービスのマーケティング、コンサルティング等に従事し、2010年日立製作所に入社。超上流工程のコンサルティング手法の開発と指導にあたるとともに、日立グループ内でのTOC活用に尽力。2018年からは日立製作所社会イノベーション事業推進本部エグゼクティブSIBストラテジストとして、日立グループのデジタルトランスフォーメーションの戦略策定・実行のサポートと人財育成に注力し2021年3月に退任。
TOCICO認定Jonah(思考プロセス)
TOCICIOからThe TOC Company of the Year を受賞(2018年)
TOCICO理事(2018年~)
日本TOC推進協議会顧問(2018年から2021まで理事長を務める)
(TOCICO=Theory of Constraints International Certificate Organization)

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