5種類の全体最適
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ここまで、ザ・ゴールにおける、すなわち「生産システム」における全体最適について説明してきました。これはあくまでも、渡辺が見分している状況をもとにした個人の見解ですが、TOCの活用を考える際には、これを含めて以下の5種類の全体最適が意識されているのではないかと思います。下記の全てを全体最適と呼ぶことについては、意見を異にする方もいらっしゃると思います。渡辺自身も、「TOCはこの5つの全体最適を実現するための理論です」と表現することには抵抗があります。
しかしながら、現実には以下の5つが全体最適の対象として扱われていると思われますので、頭の整理として提示します。本シリーズは、「生産システム」における全体最適を対象としています。それ以外の領域の考え方の詳細については、別の機会としたいと思います。
以下、それぞれについて「個別最適」と「全体最適」の関係について説明していきます。
「1、生産システムにおける全体最適と個別最適」の背景にある客観的法則性(Theorem)については、すでにご紹介しました。他の4つについても、その背景には客観的法則性が存在しますが、(説明があまりに長くなりそうなので)ここでは割愛させていただきます。
1,生産システムにおける全体最適と個別最適
個別最適:それぞれのサブシステムにおいて、財務会計上の利益を向上する and/or 製品ごとに、財務会計上の利益を向上する
全体最適:生産システム全体で業績を向上する
関係性:個別最適の積み重ねが全体最適を実現するとは限らない。
2,企業における全体最適(継続的成長)と個別最適(今期業績)
個別最適:今期業績を最大にすること
全体最適:毎年毎年、業績を向上させ続ける継続的成長
関係性:個別最適の積み重ねが全体最適を実現するとは限らない。
3,サプライチェーンにおける全体最適
個別最適:サプライチェーンの他の参加者との関係をゼロサムゲーム(一方が得をしたら、必ず他方が同じだけ損をする)ととらえ、サプライチェーンの他の参加者との「分け前の奪い合い」で自社の業績を向上する(得をする/有利になる)
全体最適:サプライチェーンの参加者の業績の総和を向上する。つまり全参加者の「分け前を増やす」ことで、自社の業績を向上する。
関係性:全体最適を目指すほうが、(個別最適を目指すよりも)より多く「自社の業績向上」を実現できる場合がある。
4,エコシステムにおける全体最適
個別最適:エコシステムの他の参加者との関係をゼロサムゲーム(一方が得をしたら、必ず他方が同じだけ損をする)ととらえ、エコシステムの他の参加者との「分け前の奪い合い」で自社の業績を向上する。また「分け前を奪われないように」競合関係にあるプレイヤーのエコシステムへの参加を阻止する。
全体最適:エコシステムの参加者の業績の総和を向上する。つまり全参加者の「分け前を増やす」ことで、自社の業績を向上する。エコシステム全体を大きくするために競合関係にあるプレイヤーのエコシステムへの参加を歓迎する。
関係性:全体最適を目指すほうが、(個別最適を目指すよりも)はるかに多く自社の業績向上を実現できる。「できる場合がある」ではなくエコシステムの場合は、全体最適を目指す方が『必ず』はるかに多くの自社の業績向上を実現できる、ということである。また、エコシステムに参加するプレイヤーの全員が個別最適を優先する行動のみをとった場合は、エコシステム全体の業績低下(結果としては自社の業績低下)を招く場合がある。
5,社会における全体最適
個別最適:私だけが幸福になる
全体最適:社会の参加者全員が幸福になる
関係性:個別最適の積み重ねでは、全体最適を実現できない。社会の全てのプレイヤーが個別最適を追及すると自身の個別最適が損なわれる場合がある。
ここまで全体最適の5つの類型を説明してきました。この5つの全体最適を実現する上で、TOCの基本的な考え方や姿勢、そして思考プロセスは有効だと思います。また1~3の全体最適については、TOCは実践的な手法を提供しており、(環境が適合する範囲で)十分に有効であると思います。もちろん1~3の全体最適を実現する上でも「TOCだけがあれば大丈夫」というつもりはありません。
しかしながら(あくまでも渡辺個人の見解ですが)「エコシステム」「社会」の全体最適を実現するという観点では、TOCの中に実践的な手法があるようには思えません。
渡辺は、エコシステムについて、市川芳明氏(多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授/サステナブルビジネス研究所代表理事/日立製作所OB)から多くを学びました。
また、社会の全体最適に関しては、内田樹氏(神戸女学院大学名誉教授)の著作とブログから多くを学んでいます。
持続的成長に関しては、以下のような新たな研究成果や手法が紹介され、多くの企業が実践を始めています。
クレイトン・クリステンセン著:イノベーションのジレンマ
チャールズ・A. オライリー & マイケル・L. タッシュマン著:両利きの経営
ジェフリー・ムーア著:ゾーン・マネジメント
渡辺は、全体最適を考える際には、
✔ 5つの異なる全体最適を区分して考えること
✔ TOCの役立つ範囲が、領域によって異なること
✔ TOC以外にも全体最適の実現のための理論や実践的手法が存在すること
を意識して取組むことが大切だと思います。
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