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スループット会計【前編】

こんにちは、ゴール・システム・コンサルティングです。当社CCSO(チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー)渡辺薫による連載をお届けします。今回からは、Theorem 1(※後述)の環境において、全体最適を実現するための2つの技術についてお話していきます。

TOC(制約理論)や、教育のためのTOC(TOCfE)を学んだり活用している方や、「全体最適」という言葉をよく使う方の参考になれば幸いです!

渡辺薫のこれまでのコラムは、以下のマガジンからご覧いただけます。

ここまでに、以下の客観的法則性を紹介してきました。(復習です)

Theorem 1:
以下の特徴を有する生産システムの場合、
・リソース(生産のためのヒト・モノ・カネ)が有限である
・複数のサブシステムから構成されており、サブシステム間に順序性・依存関係がある
・需要およびリソースのキャパシティ・稼働状況に変動性やバラつきがある
 
●個別最適の範囲を生産サブシステムとする場合
個別最適(それぞれのサブシステムにおいて、財務会計上の利益を向上する)の積み重ねが、全体最適(生産システム全体で業績を向上する)を実現するとは限らない。
(これは自然科学の領域における客観的法則性に該当すると思います)
 
●個別最適の範囲を製品とする場合
個別最適(製品ごとに、財務会計上の利益を向上する)の積み重ねが、全体最適(生産システム全体で業績を向上する)を実現するとは限らない。

「全体最適③TOCにおける全体最適」より再掲

そして、TOCでは、このTheorem 1の環境において全体最適(生産システム全体で業績を向上する)を実現するための二つの手法(技術)を開発しました。「スループット会計」と「5 Focusing Steps」です。今回は「スループット会計」の基本についての説明です。

企業の業績は最終的には財務会計によって評価されるもので、この会計手法は企業の事情によって変えることはできません。(上場企業の場合は、公認会計士によって監査された「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」を公表する義務があります。また上場していなくとも納税のために財務会計によって所得を計算しなければなりません。)

「スループット会計」は管理会計の手法(正しくは「考え方」)です。管理会計は企業における計画立案や意思決定のための手法であり、企業が自分で自由に選択することができます。つまり管理会計は財務会計とは「異なる目的で」かつ並行して使うものということになります。もちろん「当社は全てを財務会計の考え方で行っており、他の管理会計の手法は一切使わない」ということも可能です。しかしながら私の知る限り、ほとんどの大規模な企業は、計画立案や意思決定に向けて何らかの管理会計の手法を取り入れています。

【財務会計とスループット会計における「利益」】

財務会計においては、利益を以下で計算します。

利益=(売上 - 製造原価)-販売管理費
製造原価=期首仕掛品棚卸高 + 当期製造費用 - 期末仕掛品棚卸高

以下のように表記するとより分かりやすくなります

利益=((売上+在庫増分)-製造費用)-販売管理費

以下の2つのポイントを押さえておいてください。
財務会計の利益計算では、

 原材料、仕掛在庫、製品在庫は、販売できるもの(資産と考える)としてプラスに評価する
 仕掛在庫、完成品在庫に関しては、その仕掛在庫や関税品在庫を製造するために要した費用も(棚卸高として資産評価し)プラスに評価する

スループット会計においては、利益を以下で計算します。

利益=T(スループット)-OE(業務費用:Operational Expense)
=販売によって得られた収入 – 直接変動費(原材料費・外注費)

財務会計との大な相違点は以下のとおりです。

✔ 原材料、仕掛在庫、製品在庫は販売されるまでは収入とみなさない。(評価価値=ゼロとみなす)
✔ 製造費用を個別製品に配賦しない(製品原価の計算を行わない)
✔ 製造に使った全ての費用が費用とみなされる。(棚卸高として資産評価されることは無い)

このように「在庫」を、どう評価するかが最大の相違点です。
スループット会計における利益「稼いだお金」の考え方は、財務会計の「キャッシュフロー計算書」の中の「営業活動によるキャッシュフロー」における「増えたお金」の考え方と同じです。ただしキャッシュフロー計算書では「キャッシュの移動(簡単に言えば銀行口座のお金の出入り)」を厳密に反映する計上方法となりますが、スループット会計では「現実に購買や販売が行われた時点で計上する」発生主義をとっています。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
渡辺薫の次のコラムでは、引き続きスループット会計をテーマに、「スループット会計による意思決定」と、「生産システムにおける最適化とスループット会計」についてお話していきます。どうぞお楽しみに!

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