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こんにちは、ゴール・システム・コンサルティング&リ・デザイン研究所です。今回からは、当社CCSO(チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー)渡辺薫による連載をお届けします。TOC(制約理論)や、教育のためのTOC(TOCfE)を学んだり、活用している方の一助になれば幸いです!

渡辺薫のこれまでのコラムは、以下のマガジンからご覧いただけます。

誤解されがちなTOC

私は、最近になってTOCに関する「誤解を招きやすい説明」が増えていることを憂慮しています。

多くは短絡的であったり、説明不足だったりするものですが、論理的に誤った説明や、科学的な態度(姿勢)に反する説明も散見されます。こうした説明によって、TOCの実践が困難になったり、十分な成果があげられなかったりする可能性があります。またその結果として、TOCへの信頼を損なう可能性もあります。「誤解を招きやすい説明」がゆえに、生産的とは言えない議論に長い時間をかけるケースも見受けられます。

今回のシリーズでは、上記のような「誤解を招きやすい説明」による弊害を抑制するために、TOCの理論を丁寧に説明しようと思います。しかしながら、あまりにも正確性にこだわりすぎると「読みにくい」ものになってしまうおそれがあります。ここでは学術的な正確性ではなく、TOCを実践する人にとって「読みやすく」かつ「そう理解しておいても弊害は起こりにくい」ことを目標としています。ですから、本稿には専門家から見れば「学術的には正確性に欠ける」「諸説あるはず」「記述が不十分」という部分が少なからず含まれるであろうことを、あらかじめお断りしておきます。

TOCは理論か

TOCはTheory of Constraintsの略称です。そのまま日本語にすると「制約の理論」です。またTOCは「科学的手法」である、もしくは「科学に基づいた手法」である、とも説明されています。まず、このことについて丁寧な説明を試みます。「科学」「技術」「理論」の関係から始めたいと思います。ここではシンプルな説明にとどめます。

科学は手短に言えば「客観的法則性=再現性が検証された因果関係」のことです。すなわち、「Aが起こったら⇒Bが起こる」という因果関係の再現性が実験等を通じて検証されたものです。(再現性の検証とは何かについては、後述します。)科学は因果関係を理解するため、原因の結果を予測するための法則性であり、何らかの目的(ゴール)を達成するためのものではありません。

技術は「客観的法則性の意識的適用」です。すなわち、何らかの目的(ゴール)を達成するために科学を使う、ということです。その意味では科学に基づかない技術というのは存在しない、ということになります。

理論は、科学と技術の両方を指し示す言葉として使われます。物理学の中の「相対性理論」は明らかに科学です。一方様々なマネジメントの理論、投資の理論などは、明らかに何らかの目的「ゴール」を達成するための方法であり、先の定義に従えば技術であるということになります。

前述の定義にかかわらず、私たちは技術を「自然科学を意識的に適用」することを示す言葉として使っています。すなわち「目的(ゴール)の達成に自然科学に基づく知見を使うこと」のみを技術と呼称する習慣がある、ということです。一方「客観的法則性の意識的適用」であっても、その客観的法則性が社会科学もしくは人文科学に属するものの場合は、技術ではなく理論という言葉を使うのが一般的だと思われます。

ここまでの説明を図示すると以下のようになります。私たちはあまり意識することなく、このように科学、理論、技術という用語を使い分けているということです。

科学・技術・理論

TOCは、経営の目的(ゴール)を達成するために、客観的法則性(再現性が検証された因果関係)を活用して開発された実践的な手法です。そしてTOCが基づいている客観的法則性には、自然科学、社会科学、人文科学の全てが含まれています。つまりTOCは上記の図の赤枠の範囲ということになります。こうした観点から、TOCは「理論」と呼ぶのが最も自然なのではないかと思います。
また、「科学に基づいた手法である」が、「科学そのものではない」と考えるべきとも思います。

科学、技術、理論と再現性

科学である、技術である、理論である、というのは「再現性が検証されている」ということです。
より具体的には、そこに示されている因果関係が「再現性を検証することが可能な形で記述されており」「実験等を通じて再現性が検証されている」ものを私たちは、科学、技術、理論と呼ぶということです。

これが科学、技術、理論であることの必要条件です。誰かが「これは科学である」とか「これは理論である」と主張したとしても、それが科学や理論として認められるわけではありません。また「再現性を完全に検証する」ことは現実的には、実行不可能です。(詳細は後述)すなわち、科学、技術、理論というのは、かならず「ある範囲で再現性が検証された」ものということになります。

この議論から容易に導かれるように「TOCは理論だから、再現性が保証されている」という言明は、「TOCは、再現性が検証された範囲で、再現性が保証されている」と言っているのと同じです。つまり、どの範囲で再現性が検証されているかの説明がなければ、単なる同義反復に過ぎない、ということになります。

このシリーズでは、TOCの適用限界と再現性の範囲(どの範囲で使えるのか)についてもなるべく詳しく解説していきたいと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。次回は、TOCでよく使われる「全体最適」について掘り下げて考えて行きます。どうぞお楽しみに!

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