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【論文紹介】イギリスにおける女性取締役登用の歩み(著:本間美奈子)

今日は、久留米大学法学部の本間美奈子教授の書かれた研究ノートを読んでみたので紹介します。

全文PDFへのアクセスは下記リンクから可能です。

p.20ページ以降の「Ⅳむすびにかえて」が簡潔で分かりやすかったです。
自分の理解のために、ちょっとまとめます。

論文の狙い

 2013年、EU議会において企業の役員における女性比率を向上させる勧告が可決されたことにより、各国でクオータ制を法律義務化する動きが見られた。この中、イギリスはクオータ制への導入に抵抗したが、企業の自主努力により女性役員比率を25%以上まで向上させ、一定の結果を出すことが出来た。日本は女性活躍施策においてクオータ制を導入していない中で、企業の自主努力の情報開示に委ねられている。こうした日本の現状を打破する上で、イギリスの施策が参考になると考えられる。

企業主導型アプローチの結果

 2011年2月には女性役員数は12.5%であったが、2015年11月時点では26.1%と、当初目標の25%を上回り、およそ4年8か月で倍増という結果になった。

デーヴィス報告書の作成経緯

 2011年2月に公開された「取締役会における女性(Women on Boards)」という報告書のことを指す。イギリスのコーポレート・ガバナンス・コードにおけるジェンダーダイバーシティの原則に基づき、取締役の引き立てには当該人物の真価(スキル・能力等)に基づき判断することを重視した。そのため、引き立ての障害になるものに政府と産業界が共同で施策を打つべく問題の検討をした上でまとめられたのが本報告書である。
 本報告書に基づき、「デーヴィス報告書勧告」という10個の改善指針が打ち出された。2015年には、取り組みの成果を報告する「デーヴィス・レビュー」が公開された。

デーヴィス報告書勧告

 デーヴィス報告書に基づき、10個の勧告が出された。

  • 企業経営に求められること
    ①取締役会における女性比率を25%以上になるように目標設定すべき、また女性比率についても、レビューすることを期待
    ②役員層・管理職層・従業員全体における女性比率を毎年開示することを要求されるべき
    ③取締役のダイバーシティに関する目標と進展を毎年開示するよう要求されるべき
    ④上記①~③について企業内で変更があることを報告する、勧告を支持する宣言書に署名する
    ⑤取締役選任のプロセスを開示する
    ⑦企業の広報活動として、非業務取締役の地位にある者にダイバーシティを適用するように定期的に周知する

  • 投資家に求められること
    ⑥会社の取締役に対して批判的な役割を果たす、その際勧告①~⑤に細心の注意を払う

  • エグゼクティブ・サーチ・ファームに求められること
    ⑧取締役の選任に関しする適切な採用基準やプロセスに関する自主的な行動規範を作成する

  • ステークホルダー全体への協力が求められること
    ⑨これら①~⑧を達成するために、2つの異なる女性集団を認識し育成する
     ・企業部門内からの管理職(メンタリングや訓練が有効)
     ・企業外部からの女性

  • 運営委員会に求められること
    ⑩6か月ごとにこれらの諸策の進展について検討し、評価を毎年報告する

デーヴィス・レビュー

  • 次の段階として、5つの勧告
    レビューのサマリーでは、取り組みの成果を認めている。そして次の段階として、更に5つの勧告を出した。
     ①自主的アプローチが機能していることを認める
     ②より高い目標を作り、より多くの会長を選び、すべての上場企業による行動を促す
     ③管理職層に焦点を当てる
     ④独立した運営委員会を運営する
     ⑤勢いをそのままに、次の段階へ

成功の要因

  • アプローチと熱意
     
    産業界に対して、平等の問題として働きかけるよりも、説得力のあるビジネスケースを用いて企業が理解できるように勧告した。世界的な信用、評判への影響、イギリス経済の長期的安定、世界におけるイギリスの競争上の地位について議論した。
     また、クオータ制を導入するよりも、実際に産業界から支持のあった自主的アプローチを取った。
     目標の25%という数字は野心的ではあったが、5年間で「どのようにしたらよいか」を具体的に示した

  • 利害関係者の取り組み
     それぞれのステークホルダー・グループの中において、デーヴィス報告書勧告を早期に採択した者の リーダーシップと際立った行動が、進展の助力となった。企業主導のア プローチが機能していることを示す多数の優れた実例を提供することにも つながった。
     エグゼクティブ・サーチ・ファームが進展の主要な推進力となった。標準行動規範や強化行動規範を起草し、多くのファームに署名されることになった。
     投資家には今後のコミュニティ全体の機運が高まるのを待つ。

  • 人材
     女性労働力、活躍する女性の絶対数は増えている。女性の活躍が推進されることは、取締役会にとっても、企業にとっても、イギリス経済にとっても良いことである。
     取締役のうち、業務執行・非業務執行いずれにおいても女性の数は増えている。ほぼすべての分野において、25%目標を達成できている。取締役の女性の、学歴、経験範囲、現在の任務、分野の経験、職務上の経歴を特定し開示されている。


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