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だれもが自らの意志で、選択し生きることができるように④当事者視点での支援

施設から地域サービスへの転換をテーマに、スウェーデンをはじめとした、海外の取り組みを紹介し、日本の今後の制度、サービスのあり方について考える、シリーズ4回目になります。興味ある方は、①、②、③もご覧ください。


1.レッテルをはられることの影響

社会では、障がいを持つことは否定的に受けとめられ、知的障がいとレッテルをはられた人々は、社会から隔離されがちで、ともすれば忘れ去られてしまうことも多いと言えます。そして、こうした環境の中で個人の尊厳の侵害さえ起こってしまう現実があるのです。

行政、医療関係者、福祉関係職員、家族など、当事者を支える人々でさえ、当事者をコントロールしてしまう可能性をはらんでいます。様々なルール、規則はその一例と言えるでしょう。

隔離された環境の中で、彼らと意思疎通する人が限られる中、コミュニュケーションの技術は発達の機会が得られないという状況に置かれてしまうこともあります。また、生活経験の不足は、自信が持てないことにもつながってしまいます。こうして、彼らの潜在的にもつ能力は過小評価されがちなのです。

2.当事者視点での支援のあり方

(1)セルフ・アドボカシーへの支援

セルフ・アドボカシーとは、権利を獲得し、擁護する力を与えること(エンパワーメント)です。当事者が自分で生活をコントロールしようと、望む方向へ一歩踏み出すことなのです。

そして支援サービスに関わる、専門職、支援者は彼らの生活の変革を願い、彼らのセルフ・アドボカシー、あるいはグループ・アドボカシーを支援することが必要になります。

(2)施設職員が目指す方向として

スウェーデンにおける施設解体や地域生活支援について研究され、スウェーデン、イギリス、ドイツと日本の地域への移行プロセスの調査もされている、河東田博立教大学教授の著書「福祉先進国における脱施設化と地域生活支援」には、当事者の地位への移行支援における、施設職員のマニュアルが記されています。とても参考になる内容なので、ここで簡単に紹介したいと思います。

①基本的な姿勢

・支援プログラムは当事者が主体となり、一人ひとりに応じて作成され、実行されなければならない
・地域移行プロセスに関わる全ての事柄に関して当事者が自己決定する機会を提供するように最大限の努力をしなければならない
・当事者に心理的負担を与えず、安心して地域移行できるように努力しなければならない
・当事者の親族の意向に配慮しつつも、当事者の自己決定が実現されるように最大限の努力をしなければならない。

②具体的な支援の内容について

◇説明
・当事者が心から信頼し、気持ちを許せる施設職員が説明する。
・地域生活の経験がある当事者が説明し、地域生活のメリット、デメリットを体験を交えながら話し、質問に答える。

◇見学・体験
・様々な事業所が運営する、グループホーム、アパートなどを見学する機会を提供する。
・就労の場や日中活動の場を見学する機会を提供する。
・当事者の関心のある場所を見学できるようにする。
・見学先の居住場所周辺の地域資源を見学する機会を提供する。
・グループホームやアパートなどで宿泊体験する機会を提供する。
・就労の場、日中活動の場を実習体験できる機会を提供する。
・見学、体験後に感想や意見を尋ね、本人の印象や希望を把握する。

◇希望への対応
・他の居住場所に移行したいかどうかを、すべての当事者に尋ね、障がい適度にかかわらず、その希望が実現されるように支援する。
・現在使用している家具などの私物を移行先に持っていけるようにする。新たに購入する際は当事者と一緒に買い物に行き、彼らが選べるようにする。
・ケアホーム、グループホーム、アパートなどの移行先は、自立能力(生活・経済的自立)を基準にせず、当事者の希望が実現されるように支援する。
・当事者が共同入居者についても選べるように支援し、同棲、結婚を希望する場合はその希望が実現されるように支援する。
・移行先のサービス提供事業者や支援先を選べるように支援する。
・当事者の将来の目標や夢を尋ね、それらが実現するように支援する。

③支援を実施するために

地域移行支援を実施するためには、支援環境が整うことが必要だと、本書は述べています。具体的には、①支援者及び施設の改革②当事者による協力③親族による協力④社会支援体制が整うことが条件になるのだといいます。

◇施設職員として
福祉に携わるものとして専門家主義(専門家のみが当事者を良く理解していると思い込むこと)、福祉的配慮(当事者のために最善の取り組みをしていると思い込み、保護的なかかわりをすること)により、当事者の判断を誘導する傾向があることを自覚しなければなりません。

また、施設支援の見直し、評価のために当事者やアドボカシー(権利擁護)団体が評価する仕組みを作る必要があります。

◇当事者による協力
地域生活に対するイメージがもてるよう、すでに地域で生活しているまたは、見学・生活体験している当事者と交流の機会を持ち、地域生活の意義や課題について話し合う機会を持つことが大切になります。

◇親族による協力体制の構築
親族の理解、協力も不可欠です。以下のようなことが求められます。

・当事者が施設での生活で、どのような苦労を抱えているかを知ってもらう
・支援環境が整えば、障がいが重くても地域生活が可能であることを親族に理解してもらう。
・親族に介護負担を求めることなく、親なき後も含め、責任をもって当事者を支援することを保障する。

◇社会支援体制の整備
施設福祉サービスから地域福祉サービスに転換し、地域移行支援を進めていくためには、予算や社会資源の整備を早急に進め、以下の条件を整えていかなければなりません。

・ケアホーム、グループホーム、アパートなどの居住場所の開拓
・支援者の養成
・就労、日中活動の場の開拓
・余暇、社会活動の場の開拓
・経済保障
・重い行動上の障がい、医療ニーズがあっても地域生活を可能にする仕組みづくり
・地域住民の理解を深める取り組み

福祉の仕事に関わるものとして、先に記した、専門家主義(専門家のみが当事者を良く理解していると思い込むこと)、福祉的配慮(当事者のために最善の取り組みをしていると思い込み、保護的なかかわりをすること)という点では、折に触れて、自分自身を見つめなおしていかなければと、改めて感じました。

また、施設においては、単に施設職員個人の意識が変わればそれでよい、というわけにはいきません。運営する組織が、どのような支援を目指すのかという方針は、個人の職員にも大きく影響を与えるからです。

さらに、施設職員、法人等の組織だけでなく、当事者が地域で生活するうえで必要なニーズに見合う制度、施策が不可欠です。これらすべての環境が整ってはじめて、当事者の望む地域移行支援が可能になるのだと思います。

今回このシリーズを記していく中で、今後の目指す方向を示してくれる、様々な書に出会えたことはとても貴重でした。

次回は施設職員をはじめとした、支援者がどのように支援に携わるのがよいのか、当事者の視点からの提言についてまとめていきたいと思います。

※以下が今回の参考文献です。


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