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だれもが自らの意志で、選択し生きることができるように②スウェーデンの知的障がい支援

前回、スウェーデンにおける、施設から地域サービスへの転換の経過をたどりながら、日本の制度の今後について書きました。ご興味のある方は、以下をご覧ください。

今回は、自己決定、自立した生活という面で最も困難な状況にある知的障がいのある人々のために、スウェーデンでどのような施策、地域生活支援が具体的に行われてきたかについて、また、当事者運動についても記していきます。


1.知的障がいのある人に関するスウェーデンの法律


1982年の「社会サービス法」が施行され、個人の自己決定やプライバシーの尊重、地域社会の生活参加、社会共同体への関与が盛り込まれました。

さらに、1986年の「精神発達遅滞者等特別援護法及び同施行法では、入所施設や特別病院の解体の方針を初めて明示しました。社会庁(社会保障・社会福祉制度を管轄する国の行政機関)は入所施設を地域での援護活動の比較を通して以下のように整理しています。

①目に見えるものから目に見えるものへ
入所施設では入所者を個人として見たり、理解することが難しく、集団で処遇されることが多い。地域では個人として尊重されるようになり、情緒的安定がはかられる。障がいのある人たちも職員も共に社会の一員となり、一般の人々から、より大きな関心をもって見られるようになる。

②隔離された状態から、社会の構成員として
入所施設は地域から遠く離れ、隔離されたところにあることが多い。独特の規範と運営システムを持つ特殊な施設文化が形成されてしまい、社会的コントロールがきかなくなってしまう。地域では社会参加が容易になる。

③機械的な仕事から変化のある仕事へ
入所施設では、介助の仕事を決まりきったものにすることが多い。地域での支援活動では個人的なニーズや関心に重点を置いた活動が必要とされるようになる

④集中管理から地域分散化へ
入所施設では集団指導体制がとられ、上部の移行によって活動が左右されることが多くなる。地域での支援活動では、様々な生活環境下で余暇活動や日中活動が行われ、職員もいろいろな役割を持つ。

⑤保護から社会的援助サービスへ
入所施設は職員が活動の内容を決めることが多い。合理性優先の保護となる傾向がある。地域では形態や内容を自分で決めることが必要になり、職員の役割も変化する。

⑥不平等から意思の尊重へ
入所施設では利用者のニーズをコントロールしたり、制限をすることが多くなる。地域では、自分の住居を持ち、質の高い物質的基準・より広い居住スペースを得ることができるようになる。日中活動の中で住居や利用者相互の交流が容易になる。

2.地域での支援の内容

(1)地域の住宅


ここでは、スウェーデンのストックホルムモデルを例に、地域での生活支援の内容を紹介していきます。

①地域の住宅
小規模のアパートタイプの住宅は、支援付きのものとそうでないものとに分かれており、支援付きアパートには、職員が24時間、週7日、支援が提供できる体制をとっています。支援付きでない場合も、職員は24時間連絡が可能で、必要に応じて、職員が駆けつけるか、もしくは利用者が支援付きアパートに職員を訪ねる形式をとっています。また、特別のニーズがある人を対象に、より小規模で、心理士、精神科医、ソーシャルワーカーが連絡を取り合って対応するタイプの住宅もあるということです。

②支援付き日中活動支援
40人規模が参加できる日中活動センターも地域で展開され、このセンターは地域の人々が日中活動を行う場所に設置されています。

③専門相談チームの支援
社会、心理、医学的支援も、地域生活支援サービスの枠内で利用できるようになっています。自治体を福祉地区に分け、各地区に心理士、レクリエーション指導員、理学療法士、言語療法士、医師、看護師、ソーシャルワーカーの専門職が配置され、支援を受けられるようになっています。

(2)生活保障給付について


①所得補償~疾病補償金と活動補償金~
疾病や障がいによって長期にわたり労働が制限される人に、収入の補填として支払われる給付には以下の2種類があります。

・疾病補償金(30~64歳)
・活動補償金(19~29歳)

仕事をしている場合には、この金額は、本人の給与に応じて計算されます。

②介護支援として~障害補償金~

障がいのある人は19歳から障害補償金を受けます。支給の条件は、日常生活、仕事、学業を行う上でほかの人の援助を必要としていることで、障がいの程度によって三段階に分かれていて、医師の診断を必要とします。なお介助付き住宅で生活する場合には支払われません。

③障がい児への介助支援として~介護助成金~
病気や障がいのある子どもを養育する家庭は、子どもが19歳になるまで介護助成金を受給できるます。金額は病気や障がいの程度に応じて4段階に分かれています。

④移動支援として~自動車購入・改造助成~
障がいがあり、移動に困難を伴う以下のケースは、自動車購入・改造助成金を受けることができます。

・65歳未満で仕事、学業、リハビリのために自動車の利用が不可欠な人
・65歳未満で疾病補償金、活動補償金の受給資格がある人
・上記以外の障がいを持つ人で、18歳以上50歳未満の場合
・同居の18歳未満の子どもを持ち、子どもの移動に自動車を必要とする人
・障がいのある子どもを育てている親で、子どもとの移動に自動車を必要とする人

自動車購入の助成は所得にかかわらず、上限額が設けられている。さらに免許を取得しようとする人は教習の費用を受け取ることができる。

しかしながら、これらの生活保障は労働市場への参加を前提に構成されており、救済という意味合いではなく、労働環境や法律の整備、介助や介護のサービスなどの自立生活の支援策の充実を通じて、生活と雇用を結びつけようとするシステムだといわれます。個々人の自律を前提としていることは間違いないようです。

3.ピープルファーストによる、セルフ・アドヴォカシー


1973年アメリカのオレゴン州で開催された、当事者による会合で「わたしたちは『しょうがいしゃ』であるまえに人間だ」と発言したことがきっかけで生まれました。

その後カナダで、知的障がいを持つ人たちが、施設を出て地域で生活する権利を求め、初のグループが立ち上がり、この動きはカナダ全土に広がっていきました。これらはセルフ・アドボカシー活動として、1980年度の終わりには「ピープルファースト カナダ」として公式な団体となり、アメリカでもピープルファーストの組織化が進み、変革、エンパワーメント、インクルージョンの発展のために活動を続けています。

日本では、2004年9月に、「ピープルファーストジャパン」が結成されました。国をはじめとした、行政機関へ要望書の提出、権利侵害が起こった際の抗議活動などを行っています。

ピープルファーストジャパンのホームページでは、団体が実現を目指していることについて、以下のように書かれています。

 1.「わたしたちは、しょうがいしゃである前に、人間である」という考えを、最も大切にして、困難を抱えていても地域で当たり前に暮らせる社会をつくるために活動します。 
・入所施設をなくす
・自立生活をするための地域のサービスを増やす
・差別、虐待をなくす
・ピープルファーストを広めること
・その他必要と思われるときは、その時々に話し合いによってきめる
※ピープルファーストジャパン会則 第2条より

当事者のによるセルフアドボカシー運動の重要性は非常に重要です。また、彼らの声を生かした福祉システム・サービスの実現は、日本において、特に知的障がいを持つ人々については、これからの領域ですが、変革の波はすでに来ていると言ってもよいと思います。

次回は、アメリカのピープルファーストの活動を紹介しながら、当事者によるセルフアドボカシー、福祉システム・サービスの実現について考えていきます。また、当事者視点での、直接支援の在り方についても書いていく予定です。

【参考文献】
・スウェーデンにおける施設解体-地域で自分らしく生きる、ヤンネ ラーション(著), 河東田 博 (翻訳)、現代書館
・スウェーデンにおける施設解体と地域生活支援、ケント エリクソン (著),  河東田 博 (翻訳)、現代書館
・スウェーデンー自律社会を生きる人びとー、岡沢 憲芙 (編集), 中間 真一 (編集)、早稲田大学出版


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