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もう一度あの舞台に立つために/竹本章人選手(レイジェンド滋賀FC)

誰もが予想すらできなかったコロナ禍の2020年。かつて強烈なインパクトを受けたスペインのビッグスタジアムへ戻るため、滋賀県の琵琶湖畔から再出発をした選手がいる。膝の故障と闘いながらも地域リーグで身体を張り続け、堅守でチームを支えてきた。世界が先の見えない不安を抱える中、度重なるトラブルを乗り越えて、シンプルに夢の続きを追い求める竹本章人に話を聞いた。​

どんなに辛くても、もう一度あの舞台に立ちたい

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竹本がスペインの地を踏んだのは20歳のときである。5部リーグからのスタートだったが、順調にキャリアを重ねて1年後には3部のクラブに所属し、さっそく大舞台を経験する。

「21歳の夏にスペイン3部のグアダラハラと契約しました。その年のコパ・デル・レイ(スペイン国王杯)で、あのアトレティコ・マドリードと対戦することになって。解体前のカルデロン(マドリードにあったアトレティコのホームスタジアム)で、5万人の大観衆の中、カラスコ(ヤニック・フェレイラ・カラスコ、ベルギー代表)とマッチアップしました。強烈な経験でしたね。あの鳥肌が立つようなスタジアムの雰囲気は、5年が経った今もはっきり覚えています。」

スペインで2年プレーした後、ヨーロッパ1部リーグを目標にモンテネグロへ移籍することになった。しかし、思い描いていたようなステップアップの機会には恵まれず、不遇の時を過ごす。24歳の夏、当時所属していた2部のチームがモンテネグロカップの決勝まで勝ち進んだ。街全体が盛り上がる独特の空気感に高揚したが、決勝直前のリーグ戦で頭から地面にたたきつけられ意識を失う。やっと巡ってきたチャンスを目の前に帰国療養を余儀なくされた。

「帰国後はひたすらリハビリの日々でした。しんどかったですよ。リハビリはもちろんですが、いちばん辛かったのは、ボールを使ったトレーニングができるところまで回復して、いざ蹴ってみたらまともにトラップできない蹴れないってなったときです。ああこれはもう引退するときかなと思いました。でも、そこで思い出すわけですよ、あの5万人の大観衆を。あの雰囲気を一度でも経験してしまったら、普通の生活になんて満足できない。どんなに辛くても、もう一度あの舞台に立ちたいと、そう思いました。」

地域リーグで2年ぶりの公式戦出場へ

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リハビリとコンディション調整、国内外での練習参加などを経て、関西1部のレイジェンド滋賀FCで再起に向けて準備を始めた竹本に、さらなるアクシデントが重なる。26歳の誕生日翌日、練習中に膝を痛め、半月板損傷と診断されたのだ。

「手術はしないという決断でシーズン開幕に向けて調整しましたが、コンディションが整わないまま開幕戦を迎えることになってしまいました。90分、膝も痛いし身体もまったく思うように動かなくて、個人的にはひどい出来でしたね。それでもモンテネグロから怪我で帰国して以来2年ぶりの公式戦で、またピッチに立てたことは純粋に嬉しかったです。これで身体が仕上がればもっとできるはず、とモチベーションは上がりました。やはり公式戦に出場するのは大事ですね。」

今シーズンの関西リーグは新型コロナ禍の影響で、例年14試合のところ7試合のみの開催となった。竹本が所属するレイジェンド滋賀はひとつも勝てないまま5敗2引き分け、最下位でシーズンを終えた。

「こんなに勝てないシーズンは今までのサッカーキャリアの中でも初めてで。精神的にもきつかったです。それでも、失点数は7試合で11点、最下位のチームにしては悪くない。守備は堅いと評価されて、そこは自信になりましたね。シーズン終盤はゲームキャプテンも任されて、自分のコンディションも上がってきていましたが、チームとしては最後まで勝てずに終わってしまいました。1つでも勝ちたかったです。」

再出発のとき、まずは日本で全力を尽くす

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12月12日(土)には、関西サッカーリーグ入替戦が控えている。この試合、1部のレイジェンド滋賀は引き分け以上で残留となる。

「入替戦は2部の上位チームとの試合になるので、確かに相手チームの方が勢いはあるかもしれません。一発勝負なので精神的にもタフな難しい試合になるとは思いますが、ここまでディフェンス陣とは連携を高めてやってきましたから、失点はしない自信はありますね。」

「21歳の時にスペインで経験したあの鳥肌が立つようなスタジアムの雰囲気を、忘れたことはありません。あれから5年が過ぎてしまい、本当にいろいろなことがありましたが、日本で教えていたサッカースクールの子どもたちや保護者の方々、いつも気にかけてくれた周りのたくさんの人たちに背中を押されて、やっとここまで来ました。またあの舞台に立つために、まずは日本でやるべきことがあると思っていますから。最後にこのチームで勝って終われるよう、全力を尽くします。」

竹本章人(たけもとあきと)選手
1994年6月30日生まれ。静岡県浜松市出身。181cm、78kg。
2014 AD Alherdiga(スペイン5部)
2014 Real Aranjuez(スペイン5部)
2015 CD Guadalajara(スペイン3部)
2016 FK Ibar(モンテネグロ2部)
2017 FK Igalo(モンテネグロ2部)
2020 レイジェンド滋賀FC(関西1部)


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