風を迎える
5月から続いたアパートメントの外壁補修工事もようやく終わり、足場とともに建物を覆っていた防護ネットもすっかり取り払われた。これで思う存分家じゅうの窓という窓を開け放つことができる。
工事中の室内は一日中どんよりと薄暗かったし、作業のため窓を開けられない日も多かった。
なんといっても、虫カゴのように黒いネットで覆われた部屋で目覚めると、なんだか自分がグレゴール・ザムザにでもなった気がする。
ここ数日、やっとエアコンを必要としない陽気になり、いまは朝いちばんに家じゅうの窓を開けてまわるのが楽しい。たったそれだけのことなのになんだか嬉しくなる。
開け放った窓から一陣の風を迎え入れるときなど、あたかも旧友と再会したかのようななつかしさすらある。
やあやあ、ようこそようこそ
沈んだように静かだった一人の部屋が動きだす。
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