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明るい夜と宇宙の話

四月も後半になって、日が沈むのが遅くなってきたことを如実に感じる。
少し前までこの時間(現在十八時過ぎ)は真っ暗だったはずだが、今ではまだカーテンを開けると青空が見える。こういった違いが我々の足元にある地球という天体の傾きによって生まれるものだと考えると、昼寝明けの眠気と昼食を抜いた分の空腹で呆けた頭が、さらに宇宙規模の距離と速度でかっ飛んで戻ってこなくなってしまうような気がする。

地球の自転軸は公転軸に対して約23.4度傾いているという。この傾きによって、公転一周の間に地表のある地点に対する日照時間が変化する。これが原因で季節が発生したり「四月も後半になって、日が沈むのが遅くなってきたことを如実に感じる」という書き出しの記事が生まれたりするわけだ。
日々を過ごしていると忘れがちになる、というか思いつくことすらないことだが、一度目を向けると我々の生活というのが極端に「物理的」に見え始める。物理的と言うと物理学畑の人に悪いかもしれないから、やはり「唯物論的」という言葉を使っておこうか。別に私は唯物論者ではないので、それはそれで唯物論者の方々に突っ込みを受けるかもしれない。まぁ要するに、ここまで書いたこともここから書くことも何らかの肩書がつく以前の「私」の世迷言であるので、あまり真に受けないようにしてほしい。

つまり、季節とか日が沈むのが遅くなるだとかいうのは結構詩的な言い方で、実際には地軸の傾きが何度という時空の話である、ということを書こうとしている。そうした観点から敷衍して考えると、例えば私なんかはタイムトラベルが如何に技術的に難しいのかとかそういうことを考え始める。

いきなり飛躍しすぎだろと思われるかもしれないが、まぁ聞いてほしい。
例えば、光の速さやら相対性理論やらのなんやかんやに関する研究が著しく発展して、時間的な移動が可能になったと仮定しよう。今日とされる時間的位置から昨日なり明日なりの時間的位置へと、ある程度任意の物質やら情報やら熱量を移動することが出来るようになったとする。この技術のみを指して、「タイムトラベル」と呼ぶことはできるだろうか。

否、と私は考える。何故なら我々の足元にある地球と呼ばれる天体は太陽の周囲を公転と呼ばれる形で移動しており、さらにそれ自体公転軸に対して約23.4度の傾きを持っているからである。単に時間的移動が可能になっただけでは、ほぼ確実に移動先は何もない宇宙空間になってしまうだろう。時間的移動先の空間的座標を決定する技術が併せて必要である。
そして、タイムトラベルという言葉に相応しい形で時間的空間的移動を成し遂げるには(例えば「明日の自宅に移動する」といった移動を可能にするには)、極めて高度な演算処理が必要になるに違いない。少なくとも、先に述べた地球の公転と自転を完璧に計算できなければならない。
完璧に、だ。そうでなければ、宇宙空間に放り出されることは回避できても、移動先の壁や床にちょっとめり込むくらいの事故が多発するであろうことが容易に想像できるからである。グロい。しかしまぁまぁそれくらいの問題なら、タイムトラベル専用の施設を建てて、移動者の全方向に対して莫大な空白空間を用意することで回避できなくもないかもしれない。
そして、少なくとも、と先に書いたが、これだけでは確実に不足している。何故なら、地球の移動を内包する太陽系もまた何らかの宇宙的集合の内部を移動しており、その何らかの宇宙的集合も恐らく何らかのより大きい宇宙的集合の移動の渦中にあり……ということを、観測不能が許されない規模で観測しなければならないからである。
そして、地球から見て外側にあるものほど観測が難しいのに、外側にあるほど重要度が高い。外側にあるほど単位時間当たりに移動する距離が大きい(つまり速い)からだ。
まぁある程度の規模を超えると我々の観点からすれば「見当違いの星外の座標に飛ばされる、移動失敗」と価値的には大して変わらないが、その星外の座標なるものは当然規模を増すごとに散らばっていくはずだ(観測不能な領域での移動があった場合、移動先の座標を割り出すことすらできず、「なんか知らんけど時間移動したら消えた」みたいなおぞましい結果になる)。

つまりタイムトラベルが実用化するには、時間的移動を技術的に可能にするのみならず、ほぼ宇宙全体を空間的に正確無比に把握する演算機能が必要なのである。
無理、とは言わないでおくが、2022年時点からしてそう形容しても差し支えないくらいには難しい目標なのは間違いないだろうと思う。

と、こんなふうに世迷言を垂れ流していたら日が暮れてしまった。こうしているあいだにも我々は物凄い速度で空間的に振り回されているわけで、途方もない話だよなぁとため息をつかずにはいられない。
今日も今日とて、観測不能な速度で振り回されながら、セブンの炒飯が電子レンジのターンテーブル上で回っているのを眺めることにしよう。これも言ってしまえば一つの宇宙なのかもしれない。宇宙ヤバい。

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