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2021年公開映画 ベスト

2021年公開映画の中から極めて個人的で、内省的な理由で選んだベストを記す。

  • 草の響き
    斉藤久志監督

俳優、東出昌大の人間性などといった話はとりあえずどうでもよろしい。ショットにおさまる彼の貌、身体性が移動キャメラの動きに還元される様を見れば、この映画が静かな美しさを放ち続けることを確信するしかない。

全国民を敵に回した男。当記事では東出昌大を応援しています。


  • 偶然と想像
    濱口竜介監督

すぐれて”令和的”な女性映画であり、溝口にも増村にも似ていない。強いて比較を挙げるなら、その小気味良い会話劇という点においてエリック・ロメールだろうか。キラー・ショットの不在というよりは、静謐で劇的なショットの飽和という異常事態にいつしか観客は冷静ではいられなくなる。濱口のショットは過不足なく映画であり、観客はまたしても「映画」を目撃する。第3話は特に素晴らしかった。息子が帰宅し、階段の足元と家の中が映された時、あまりにも聡明で美しいショットに、ただ涙を堪えるのがひたすら無駄な努力であったことをここに告白しておく。

第3話、2人の女性の会話がこんなにも映画的になることに衝撃を覚えた


  • ドライブ・マイ・カー 
    濱口竜介監督

またしても濱口竜介である。この作品もまた素晴らしかった。ブレッソンを意識してるのかと思ったら、濱口自身の演出法を映しているのだとか。

西島秀俊も三浦透子ももちろん素晴らしいのだが、なによりもこの映画が輝くのは「手渡す」という極めて映画的な身振りだと思う。特に、海沿いの公園で2人が煙草を吸うシーン、これはあまりにも美しかった。このロケ地には自ら足を運んだ。

これを撮影したのはこの記事の執筆者、私です
広島のごみ処理場。せっかく広島なので「ヒロシマ・モナムール」のロケ地巡りも行った。これについてはまた別の記事で書きたい。


今年もいろいろ映画を見たが、新たに封切りされたものとしてはやはり邦画に優れたものが多かった。蓮實重彦の言う「日本映画第三の黄金期」がいま来ているのだろう。来年はどんな作家が出てくるのか楽しみである。

翻って洋画は、ただ残念だったと言いたい。『アメリカン・ユートピア』が良かったなどと妄言を吐くつもりはないので聡明な読者には安心して欲しい。せいぜい良かったと言えるのは侯孝賢の『黒衣の刺客』、ジェーン・カンピオン『パワー・オブ・ザ・ドッグ』くらいであろうか。したがって今年はレトロスペクティブばかりを観ていたと記憶している。ライカート、ジャームッシュの特集は特に素晴らしかった。アメリカの移動神話を見つめ直す時期なのだろうか、特集ではロードムービーが特に多かった。ルネ・クレール、ソクーロフ、ブレッソンあたりのレトロスペクティブも記憶に新しい。作家を再評価する意味でも意義があるのは間違いない。

ライカート特集についてはこの記事をご覧ください。


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