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痛いような…ね。
左足の小指の付け根に刺さったガラスの破片は私に喜びを与えてくれた。
上京してからずっと大事にしていたお気に入りのガラスのコップが床で粉々、外から必死に鳴くアブラゼミの声、どっかにいったエアコンのリモコン。「はあ、片付けよ。」
片付けるといっても一人暮らしの部屋には破片を集めることのできるような道具なんてなく、目に入ったのはティッシュ。もう何でもいいとティッシュを取りにリビングへ向かっていると意に反して足が止まった。
ガラスが足の裏に刺さっている。
でもそれは怪我っていうよりも、あたかも生まれた時から私の体の一部としてあったかのように存在していた。だから私は片付けを優先することにし、散らばった破片をティッシュで集め始めた。集めても集めても破片はなくならないから、もうお好きにどうぞって感じでその後適当に掃除機をかけて片付け終了。
まだ集めきれていない残りの破片を処理するために足の裏を見てみると、さっきよりもちょっと深く刺さったガラスがいた。指では取れないからピンセットで破片の端を引っ張ってみると、案外すぐ取れて、そして血が流れ出した。
破片を取らなければ血は出なかったわけで、取ってしまったことを後悔した。でも破片が刺さり、そして血が出たことで、破片に自分という存在が知覚されているんだなって少し嬉しかった。
だからしばらく止血することなく、ぽたぽた床に流れ落ちる自分の血を眺めていた。別にそういう趣味とかではないが、何だかその時はそうしていることが自分にとって最善であるような気がした。
私の眼にはあなたがいるのにあなたの眼には私はいない。あなたを前にすると言葉が出てこない私はその状況をただただ見つめるだけ。せめて目を逸らすくらいしてよ。どうやら知覚すらされないのって結構キツイみたい。でも知覚されたらされたでこうして血が出るわけで、知覚されなければ流血も痛みもない。
正解はないんだろうけど、今が不正解だってことは何となくわかっている。
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