パンの職人の修造78 江川と修造シリーズ Annoying People
修造が短髪の方の男の首根っこを掴んだまま玄関のドアを開けると藤岡と有田が飛び込んできた。
「修造さん大丈夫なんですか?」
「ああ!今からこいつが白状するから聞いてみよう」
2人の男は藤岡を見て「こっちが正解だったんだよ」と言った。
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5人は壊した椅子を片付けて部屋の真ん中に突っ立って話をしだした。
「私たちは鴨似田フードって言う会社の中途採用で入ったばかりの社員です。私は歩田、こちらは兵山と申します」と短髪の方の男が話しだした。「3日前、会社が仕切っているレセプションパーティーがありまして、材料を料理教室で作って私達が会場に運ぶ予定だったんです。それでこっちのイケメンがパンを配達に来た時に奥さんが一目惚れしまして、、次の日はもうパーティーが終わってんのにまたパンを頼んだらその日はものすごい大男が来て、次の日にもう一度頼んでこっちのイケメンが来たら連れてくる様に言われてたんです」
「それで俺を捕まえたのか」
「はい、すみませんでした。実はここの何軒かの空き家は鴨似田が買い取ってマンションにする予定で、今日はそのうちの一軒を使ったんです」
「連れてくるなんて簡単に言われたけど凄く難しい様に思えて、それで捕まえて連れていくことにしたんです」
「俺を連れて帰ってどうするつもりだったんだよ」と藤岡が冷静な口調で言った。
「お金でなんとかできると思ったんじゃないでしょうか?」
「そんな訳ないだろう!車もお前達がやったのか?」
「あれは私が裏口から回ってこの建物の裏に隠してあります」ロン毛のほうの男が答えた。
「ちょっと調べればすぐ足がつくだろう!」
「だな、そろそろ警察を呼ぼう」修造も呆れて言った。
修造が電話をしかけた時、なぜか有田が遮った。
「え?」
「あの〜そのレセプションパーティー、私も出ておりまして」
「そうなんですか?」
「はい、うちと取引があるんです。奥さんの鴨似田夫人は存じていますがそんな悪い方ではないと思います。警察沙汰になって鴨似田フードに何かあって納品が滞るとうちの会社も他の会社も困るんです。それに大会前にシェフの名前がこんな所で上がるのはどうかと思いますし」
なんと有田は手を合わせて隠蔽を頼んできた。
「仕方ないな、その奥さんを呼べよ。俺が説教してやる!」
「え〜」っと修造以外の全員が言った。
「踵落としは勘弁してくださいよ」
「ガツンと言ってやる!」修造が力強く言った。
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鴨似田夫人を怒鳴りつけてやると息巻いていた修造だったが、案外だらしないもんだと藤岡は修造を冷たい目で見た。
「あのー奥さん、困りますよこういうの。俺が攫われそうになっちゃうし、仕事にも支障をきたしてますし」
「この度は私の勝手な思い込みによりご迷惑をお掛け致しました」
高級菓子折りを渡されて修造は頭をかきながらつい受け取ってしまった。
「色々誤解があった様で申し訳ございません」幸代はややくねりながら頭を下げた。
「藤岡さんには次のパーティーに花を添えて頂ければと思ってお願いしようと考えておりましたが、この様な事になってしまい申し訳ございません」
「具体的にはどんな事を望んでらっしゃったんですか?」
「次のパーテイーでパンとサンドイッチのコーナーに立って頂ければと考えておりました」
それが本当だとするとお前らどんな受け取り方をしたらこんな事になるんだよ。修造はそんな眼差しを、歩田達に向けた。
「すみません」
2人は小さくなっていた。
「私が悪いんです。2回目と3回目の注文は関係ないのにしましたし、きっと熱が篭ってたんですわ」と言って藤岡を見つめた。
それを見て修造は考えた。
確かに藤岡はイケメンだが再びトラブルになるのは本人も周りも困るよな〜。。そうだ!
「奥さん、こいつめっちゃ頭と足が臭いし性格も悪いし客受けが悪いったらないですよ」と藤岡に指を差して幸代に向かって言った。
「な、、、!」
藤岡は悔しそうに修造を睨みつけた。
毎日一緒の職場にいれば修造がこんな事を言うような人間じゃないとわかってはいるが腹が立つ!
「グ〜」藤岡は喉の奥から声を出した.
「ねっ!こんな顔をいつもしてるんです」
「はい」
夫人の顔から少しずつ血の気が引いてる気がする。
「おっと!俺そろそろ分割の時間なんで帰ります」と言って振り向き「車を出してこい!」と2人を走らせた。
物凄く不機嫌な藤岡はそのまま出て行き、自転車で帰ってしまった。
車を持ってきた2人は修造に言い訳をした。
「確かに奥さんはどうやってもあのイケメンを連れてきて!って言ってたのになあ」
「本当すみませんでした」
「今回は有田さんの手前許してやったけどさぁ。藤岡には2度と迷惑かけないでくれよ」
と言って2人を後始末に戻らせた。
修造はもう一度江川に電話して「ごめん、分割しといて。もうすぐ帰るよ」と言って有田の方を見た。
「修造シェフ、お怪我なくて良かったです」
「あのぐらい全然平気ですよ。。それより有田さん。なんで藤岡と一緒に入ってきたんですか?」
「はい、実はもう一度話を聞いて頂こうとしてここまで追いかけて来ました。で、藤岡さんと修造シェフを探していました。会社へのメンツもありますが、さっきの鴨似田さん達を見ていて金や力づくでは人の心は動かないと思い直しました」
「すみません、力になれなくて」
「今日はいい勉強になりました。私も応援していますから」と言って青い軽自動車に乗って帰っていった。
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パンロンドに戻ると江川が慌てて出てきた「修造さーん!大丈夫なんですか?」
「全部藤岡に聞いた?」
「はい、凄い怖い顔してますけど」
「えっ」
ひょっとしてまだ怒ってるのか?と江川の小さな身体の陰に隠れて藤岡を見た。
「おい修造大変だったな」と声をかけてきた親方の後ろに回り、隠れたまま親方を押して工場の奥へ進んでいく。
すると藤岡が言った「丸見えですよ、何隠れてるんですか!」
「藤岡ごめん、嘘も方便だよ。」ひょっこり顔を出して修造が申し訳なさそうに言った。
「もう良いですよ、あれで事件が解決したんですから」まだまだ悔しそうだったが自分を納得させようとしてるのは分かった。
「クッ」と時どき藤岡の方から聞こえる。
「ねぇ修造さん、藤岡さんがあんなに怖い顔してるのは何故ですか?」江川が藤岡を観察しながら言った。
「えっ?さあなあ」
もう一度掘り返す勇気はない。
修造はとぼけた。
おわり
Annoying People 迷惑な人々
どんな時もパンチと分割の時間は忘れない。
パン職人の修造 noteマガジン1話〜 江川と修造シリーズ
https://note.com/gloire/m/m0eff88870636
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