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パン職人の修造67 江川と修造シリーズ Genius杉本 リングナンバー7


扉絵



パンロンド社員旅行 京都2日目の朝

 

「なあ、昨日夜指輪買いに行くって言ってたろ?早く寝たじゃん」と同室の藤岡が聞いてきた。

「え、風花が俺に試験の事を言い出して、、」

「逃げたな?受ければ良いじゃん」

「嫌ですよ勉強なんて」

「風花はお前のために言ってんだろ」

そこに江川が部屋をノックした。

「朝ごはんに行きますよ〜」

「江川さん朝から元気ですね」

「うん杉本君、今日時代村に行った後、修造さんとパン屋さん巡りするんだ」

「昨日も行ったじゃないですか。好きだなあ」

「パン屋さんが沢山あり過ぎて昨日随分計画を練ったんだ。バスや電車の乗り継ぎも色々あって」

「俺も行きますよ、杉本は風花と用があるらしいから」

「そうなの?じゃあ一緒に行こうね藤岡君」

「はい」

 

ーーー

 

時代村では親方がみんなの為に計画を練っていた。

入り口の所にある大きな土産物屋の奥に、『お江戸の館』があり、全員を連れて行った。そこでは好きな着物を選んで時代劇気分を味わえる。

「好きな衣装を選んで!記念撮影もしよう」

風花は町娘の衣装を選んで、江川は衣裳の1番派手な振袖若衆を、藤岡は新撰組隊士、など其々好きな衣装を選んでいた。

「修造さんは?」

「俺は良いよ」

江川は恥ずかしがる修造を奥に連れて行き、スタッフの人に「すみません、この人にも似合うのをお願いします」と引き渡した。

「どれにします?」

「じゃあ、、、この1番地味なのを、、、」



 全員が着替えて写真撮影の後、修造は着物の柄をシゲシケ見ていた。

「ちょっと!風花をジロジロ見過ぎですよ」

「え?違うんだよ杉本。俺はただ日本の文化を学ぼうと思って」

「えー?本当ですかあ?」

「ほ、本当だよ」

修造は忍者の扮装の唯一見える目の周りを真っ赤にして走っていった。

「あれ?修造さんどこ行ったの?」

「忍者はあっちに行きましたよ」

「探してくる」

と言って派手な江川侍も走って行った。

 

杉本は、新撰組の格好で爽やかに決まっている藤岡を見てにやにやしながら「お化け屋敷行きましょうよー!藤岡さ~ん」と背中を押して言った。

「えー!お化け屋敷!」

聞いただけで足がすくんで背中がゾワゾワした藤岡は「キャーっ」と叫んで走って行った。

「ちょ、みんなどこ行ったのよ?」みんな走って行ったので風花が驚いて言った。

「そのうち合うかも」

「そうね。私達も行きましょ。ねえ、お芝居見に行きたい」

2人は町娘と侍の格好で江戸時代調の建物の中を歩き、芝居小屋を探した。

 

「あ、あれ」

「うん」

芝居小屋の建物の前に忍者と芸者の格好をした人がいて、呼び込みをしている。

「もうすぐ始まるから入ってって下さい」
「はーい」

中に入ると薄暗い中、みんなそこに座っている。

「あ、杉本君こっちこっち」

江川やみんなが手招きした。

お芝居は抜け忍が悪と戦うストーリーで、音とか光とかで演出されている。

「殺陣がすげえ」

杉本はみんなの後ろに座りながら全員の背中を見て「ほのぼのしてあったけえ人達だな。うちのオカンとオトンの言う通りパンロンドに入って良かったよ。それに、、、」杉本は横に座ってお芝居を見ている風花の横顔を見た。


町娘の格好も可愛い。

杉本はキュンとした。

修造さんは良い先輩だけど風花は譲れません。

と、勝手にまだ誤解して思っていた。

よし!今日こそ指輪を買いに行くぞ。

 

ーーー

 

時代村を出て自由時間になった。

「夜までには昨日のホテルに戻ってきてね」と奥さんがみんなに言った。

「はーい」

杉本と風花は四条大宮駅まで移動した。

ここから河原町までの間に探すつもりだった。

こうなりゃ雑貨屋でも百貨店でも良いから指輪売ってるところを探すぞ。

色んな店に風花が入りたがって指輪の店には中々入れなかったが、それはそれで楽しい。

錦市場で食べ歩きを楽しんだりお土産を買ったり、細い路地に迷い込んで、こんな所にこんな店があるんだねとか、あちこち見て時間の経つのは早い。

「楽しいわあ。旅行に来れて良かったね」

「うん、風花そろそろ指輪見に行こうよ。俺サイズ分からないから」

「それは昨日言ったじゃない?合格したらね」

「なんでそうなるの?なんでみんな俺に勉強させたがるの?俺は遅刻も欠勤もしないで仕事してるのにまだ不満?」

不満と言われて風花も言った。

「不満じゃないわよ。でもやればできるのにそんなにやる気ないのって不思議なだけ」

「だから真面目にやろうとしてるでしょうが?」

「そうじゃないんだってば!ひょっとして磨けばもっと光るのに自ら曇らせてる気がして勿体ないの!」

「俺は修造さんみたいにガチ勢になるのはカッコ悪りぃんだよ」

「なにそれ!どこがカッコ悪いのよ!めちゃくちゃカッコいいじゃない!」

2人は寺町通りの通行人が大勢いる中でどんどん声が大きくなっていった。

風花は売り言葉に買い言葉で、とうとう修造がカッコいいと言い出した。


つづく



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