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100名超のプロダクト開発組織のミッション設定プロセスから学んだこと(GLOBIS学び放題)

グロービス学び放題の事業リーダーが、新たにミッションを作成するなかで得た知見をお伝えします。

はじめに

こんにちは!グロービスで「GLOBIS学び放題」の事業リーダーを担当しています、鳥潟(@ktori1127)です。

突然ですが、皆さんの組織・プロダクトにはミッションやビジョン、理念といったものは設定されていますか? 先日目にしたデータでは、ミッション・ビジョン・バリューを設定している組織は28.6%と1/3以下の状況のようでした。(未知株式会社調べ)一方で、従業員側が所属する組織を選ぶ際に、経営理念・ミッションを重視する人は70.2%という状況でもあるようです。(ワークポート調べ

これらのデータが示す通り、組織で働く従業員にとってミッションは重視されているのに対して、企業側は適切にミッションを設定できていないというギャップがあるようです。ミッションを設定していない理由は、「設定の方法がわからない」が4割となっているようです。(未知株式会社調べ

皆さんミッション等の重要さを理解しながらも、いざ設定・浸透しようとすると難しい・・・という具合でしょうか。

なお、私が担当するGLOBIS学び放題のミッションは以下の通りになります。(過去2回作っているので、最新版ミッションになります)

2022年からの新ミッション

今回の記事では、
なぜ私たちが上記のミッションを設定したのか?
どのようなプロセスでミッションを設定・共有したのか?
さらに、事業においてミッションは本当に必要なのか?
を紹介していきたいと思います。

事業概要とミッションの役割について

本題に入る前に、私たちが携わる「GLOBIS学び放題」について簡単に紹介させてください。このサービスは、ビジネス知識を動画で学ぶことができるサブスク型のサービスです。マーケティング、経営戦略、リーダーシップ、思考力などどの業界でも必要とされる知識から、最近ではIT/DXやデザイン、その他ビジネストレンドなど幅広いテーマを学ぶことが可能で、2022年3月時点で650以上のコースがあります。

2016年夏に法人向けサービス、2017年3月に個人向けサービスを開始して、おかげさまで順調に事業は成長しています。昨今のオンラインシフトの潮流、在宅勤務の拡大等で特に1-2年は顕著に利用者が拡大しています。なお、現在は100名超のメンバーと一緒に事業を進めています。

上記のように2016年にスタートし順調に拡大していく中で、メンバーから以下のような声が上がるようになってきました。

  • この事業に取り組む意義を知りたい

  • 売上拡大は良いが、その先に何があるかを理解したい

  • 教育という捉え所がない事業でもあるので、目指す価値を定義したい

立ち上げから数年は、Product Market Fitの検証、内製開発チームの組成、コンテンツの企画・推進など基本的に事業に向き合う時間を優先し、抽象的なミッション作成は正直あまり重視していませんでした。

一方で、人員が少しずつ増えていく中で上記のような疑問に答える重要性も同時に感じていたので、2019年当時に所属していた全スタッフ(20-30人くらい)で、事業の存在意義を議論・意見交換しました。

白状すれば、私自身が主体的にミッションを設定しようとしたのではなく、メンバーからの声をきっかけに受動的に検討を開始したという形になります。だからこそ、いざ設定しようと思っても知識・情報がない... ということになります。

そこで、ミッション、ビジョン、バリュー、経営理念、パーパスなど色々な関連書籍を10冊くらい読み漁りました。そこで気づいたのはミッションには定まった学説は存在せず、百人百様であること。だから自分が一番しっくりくる内容を言語化してみました。それが、

Why ≒ 社会に向けた存在意義

つまり、なぜ・何のためにこのサービスを運営しているのか、何のために売上を向上させ続けているのか?という根源的な問いに答えるモノです。有名なゴールデンサークルの「Why からはじめよう」という考えにも近いと思います。

yamagenmemo.blogspot.jp/2013/08/golden-circlenpono49.html より

1回目のミッション設定のプロセス

1回目のミッション設定の手法はとてもアナログで、全員に白い紙を配布して、その中に「事業に向き合う想い」を一人ひとり書いてもらいました。その後、グループで共有・発表してもらい、会議終了後に全員分を回収。

30枚のペーパーを読み込む中で、これまで見えていなかったメンバーの事業に対する想いや、拘りたいことなどがダイレクトに伝わってきました。(手書きというのがまた良かったのかもしれません^^)

その想いを1つ1つ確認しながら、リーダーである私の想いも重ねて、ミッションを設定しました。

以下が、2019年3月に設定した1回目のミッションになります。このミッションは2022年1月までの約3年ほど私たちの中心的な考え方となりました。

多くのスタッフが学ぶことの意義・楽しさについて言及していたのが印象的でした。私自身も、学びは苦しいものではなく、楽しいものであると実感していたので、「学ぶ楽しさ」という言葉は自然と生まれてきました。

「社会の創造と変革を実現する」は、グロービス全社のビジョンになります。私たちのサービスが広がることで、全社のビジョンにも繋がることを意識しました。さらに、分解としてそれぞれのメンバーがこだわりを持つ内容を言語化した形になります。最終確定の前には、当時のメンバーと何度も意見交換を重ねていきました。

3年後に改めてミッションを再設定しようと思った理由

ミッション設定からの3年間、色々な場面でミッションを発信したり、意思決定に役立てることができたと思います。例えば、「動画コンテンツの作成時に、この表現はあり or なし?」と議論になった時にも、”学ぶ楽しさ”が伝わるかな?という問いを持って判断したりしています。

採用やメンバーとの対話のプロセスの中でも、このミッションに言及する機会が多かったです。文字通り、ミッションが我々の成長を支えたと感じます。

しかし、3年が経過する頃になり、ミッションに対しての違和感を持つようになりました。小さな違和感は時間の経過とともに拡大し、もしかしたらミッションを見直すタイミングなのではないかと自問するようになりました。

ちょうど、翌年度の戦略方針のためリーダー陣と合宿する機会もあったので、改めてミッション見直しをする背景を考えてみました。大きく3つに集約されました。

  • 事業フェーズ、全社・社会からの期待が変わったから

  • リーダーシップ体制、メンバーの変化

  • 自分自身、しっくりきていない直感

1つ目、2つ目の理由は記載の通りです。3つ目は、私もうまく表現できませんが、ちょっとした違和感、メンバーとミッションに沿って対話している際の自信のなさ、などが存在していました。今思えば、「事業フェーズにあったもっと適切な言葉があるのでは?」という想いが根底にあったのだと思います。だからこそ、「メンバーは本当に共感してくれているのか?」という不安にもつながっていたのだと思います。

これにより問題が顕在化している訳ではありませんでしたが、本来誰よりもミッションに忠実であるリーダーが違和感を持ち続けるのは良くないことだと思いました。「直感は間違えない、間違えるのは(思考を通じた)判断」という言葉をどこかで聞いたことがありますが、まさに、考え過ぎずに直感を信じようと思いました。

2回目のミッション設定プロセス

実際の議論は以下のようなプロセスで進めました。

  1. なぜ、ミッション見直しをしたいのかの説明、対話

  2. リーダー陣がこの事業に関わっている理由、事業を通じて実現したいことの対話

  3. ミッションの言語化、ブラッシュアップ、ブラッシュアップ、ブラッシュアップ・・・

  4. なぜ、ミッション見直しをしたいのかの説明、対話

4つのプロセスに沿って説明します。

1.なぜ、ミッション見直しをしたいのかの説明、対話

リーダーの中には、ここに時間をかけるよりも次年度の計画作成に時間をかけるべきではという意見もありました。(貴重なリーダー陣の時間を投下するので、まっとうな指摘だと思います)ここに向き合わないまま、議論を進めてもその後の対話は身のあるものにはならないと思ったため、1ヶ月ほど前から個別に対話するなど時間を十分にかけてきました。幸いにも、リーダー全体から議論することの賛同を得られたので、スムーズに次の議論に進むことができました。

2.リーダー陣がこの事業に関わっている理由、事業を通じて実現したいことの対話

本来は事業に関わる100名超のメンバー全員と対話をしたかったのですが、それは非現実だと思い、メンバーの想いを誰よりも理解しているリーダー陣と議論を進めていくことにしました。いきなりミッションの内容を議論するのではなく、リーダー自身がこの事業を通じて成し遂げたいこと、社会に向けて提供したい価値についても丁寧に対話をしました。

議論前は、「ミッションはあまり興味がない、数値を上げることが重要だと思っている」と発言していた一部のリーダーも、対話を重ねていくうちに「xxの価値を社会に提供できていると感じるからこそ、今この組織に残って事業に向き合っている」というとても熱い発言をされていたのが印象的でした。その意味では、この対話を通じてリーダー自らが事業に向き合う意義を改めて自己認識し、加えて相互理解を深めることができたのだと思います。

各リーダーの想い・問いを丁寧に取り上げて、対話を重ねた

3.ミッションの言語化、ブラッシュアップ、ブラッシュアップ、ブラッシュアップ・・・

その後、リーダー陣の想いを汲み取った上で、ミッションの言語化を進めていきました。リーダーである私が言語化をして、リーダーに意見をもらい修正を加えていく。途中、リーダーがチームメンバーにもヒアリングをしてもらい、メンバーの意見も加えながらブラッシュアップを重ねていく。明確には覚えていませんが、多分15-20回ほど書き直したと思います。1つでも疑問が出たら、徹底的に対話をして最善の表現を目指すように心がけました。

最終的に完成したミッションはこちらです

2022年から設定した新ミッション

前ミッションから、「学ぶ楽しさ」は続投です。ただし、この学ぶ楽しさは人によって定義が異なり、ここの対話に多くの時間を費やしました。最終的には、①学びのハードルを極限まで下げることと、②学び・変わり・成長するというサイクルが楽しいという2つに集約されました。

「新たな一歩を後押しする」は、新しく設定した言葉になります。楽しみながら学んだ結果として、ユーザーさんにどうなっていただきたいのか?を考えました。結果として、①学びをきっかけに仕事や人生で新しい挑戦をすること、 ②新しい学びへ踏み出すことの2つに集約されました。ここは、多くのユーザーさんが既に実践されていることもあり、皆でイメージを持ちながら議論することができました。

このように、学びの楽しさを感じながら挑戦する人が増えることで、その方の人生が充実し、さらにはその方が所属するチーム・組織・会社が良くなり、その集合体として社会が良い方向に進んでいくと信じている、ということを言語化しました。

加えて、2500社以上に導入されている法人にとっての価値も改めて整理・言語化を進めました。「組織開発の目的に合わせて社員一人一人に学ぶ楽しさを広げ、個人の向上が組織の向上につながる」

そして、最後のフェーズは
4.なぜ、ミッション見直しをしたいのかの説明、対話
になります。これが、最も大切なことかもしれません。

新ミッションの共有をどのように進めたのか

ミッション設定後に行ったのが、事業に関わるメンバー全体へ共有することです。1回目のミッション設定時は全スタッフを巻き込んで進められましたが、今回はリーダー陣を中心に進めたので、この共有プロセスは特に重要だと考えていました。ともすると、「自分とは関係ない」「勝手にリーダー陣が決めたんでしょ」となってしまうリスクもありますからね。

社会に向けた存在意義がミッションであるならば、これからミッションを発表する私自身がどのような想い事業に向き合っているかを共有しようと思い、自らのパーソナルストーリーと合わせて共有することにしました。100名程度が集まる場で、私自身のストーリーを語るのは多少の迷いもありましたが、結果として共有して良かったと思います。

私から伝えたストーリーの一部を抜粋して紹介すると:

  • 23歳で友人と起業。10年ほど経営を担ったが、色々な地雷(≒失敗体験)を踏みながら事業を進めてきた。(黒字倒産しかけたこと、組織崩壊の危機、外部環境変化に翻弄されたこと、クレーム対処の失敗などなど)その後、グロービス経営大学院でMBA取得をした際に「もっと早く知りたかった。知っていたら、多くの失敗を未然に防げた。悔しい」と感じたこと。そして、これから挑戦するあらゆるビジネスパーソンに、「失敗をしないための知識」を広げたいと心から思っていること。

  • 英語MBAクラスで学ぶ中で、タンザニアからの留学生がいたこと。その学友は「自ら学ぶことで、国家の貧困を解決したい」と崇高な想いを持っていたこと。その学友が、「学びたくても、資金面などの問題で学べない同胞の友人が多い」という課題を聞いたこと。だからこそ、手軽な価格で・手軽な手段で質の高い学びを広げることに挑戦したいと思っていること。

  • 出身地である秋田の友人から、学びを通じて人生の目的が定まり、とても充実した人生を送っていること。(彼は数年前まで、体調を崩して仕事を続けることを諦めていた)将来的にはグロービスMBAへの進学も検討していることを聞いて、とても嬉しいと感じたこと。

このような私自身の想いを共有した後に、ミッション再設定の背景・プロセス・内容の説明を進めていきました。その際、私だけではなく各リーダーがどのような想いを持ってミッション設定に関与したのかを丁寧に共有しました。

議論プロセスで印象に残ったリーダーの発言を紹介もしました。

発表後にアンケートを送付して、発表を聞いたメンバーの感想やコメント、要望を取得しました。9割以上の方が共感・理解をしていただいた一方で、今後に向けた要望もいただきました。そのアンケート結果を、直後のリーダー会議で読み合わせをして今後に向けた動きを確認しました。

アンケートでメンバーからいただいた感想・コメント:

「新たな一歩を後押しする」大賛成です。僕がグロービスに入社した理由と一致します。

ユーザーさんと話すと「グロ放題で学んで仕事が楽しくなった!」という言葉を本当に何度もいただきます。
新たな一歩を踏み出したユーザーさんもたくさん取材してきて、この体験をより多くの人に広げたいと感じています。
なので、本日の鳥潟さんのお話&新しいミッションには強く共感しました。

ミッションが実現されることでハッピーな人(仕事を楽しむ、人生を楽しむ)が増えそうなイメージが持てる点が好きです。
組織ミッションの後半、「人の可能性を広げていく」とのつながりも感じました!

ここから現場に落としていくということですので、そこでのリーダー陣の"振る舞い""思考の深さ""視野の広さ"、
何より"言葉の選び方"を見たいと思います。

この言葉を自分たちが裏切らないよう、ミッションに沿って活動していきたいです
来年度の事業OKRのひとつとして「新たな一歩」関連の目標を掲げたら自己規定的に組織が動いていきませんかね?

これから取り組む予定のこと

前ミッションを設定した際もそうでしたが、ミッションは設定2割、浸透8割だと思います。アンケートでのコメントのとおり、まずはリーダー自身がどれだけミッションに忠実に日々の行動をするかが問われます。その意味で、最初にやるべきは私自身の考え・行動を変えていくことです。

次に、私たちのサービスを通じて、どれだけのユーザーさんが「新たな一歩」を踏み出しているのかを把握し、その量・質を向上する取り組みを開始する予定です。組織で運営しているOKR(≒Objective and Key Results)にもこの項目を加えて、組織全体で意識を向けられるようにしたいと思います。そして、コンテンツ、プロダクト、サポート・オペレーションなどあらゆる役割でミッションを意識した挑戦ができるように組織を整えていきたいと考えています。

さらに、これまで主に社内向けに共有してきたミッションを、これからはユーザーさんにも共有していく予定です。GLOBIS学び放題には、既に「学ぶ楽しさ」を感じてくださっているユーザーさんが数多くいます。そのユーザーさんと一緒に、「学ぶ楽しさ」を社会に広げていきたいと考えています。つい先日も、ユーザーMeetupで私から新ミッションを共有し、対話する機会をいただきました。社内で議論するのとはまた異なった意味で、新しい発見が多かったです。私が想像する以上に、ユーザーの皆さんが深く学び・挑戦をされているのだと感激しました。

これからもスタッフ・ユーザーさんと一緒にミッションに向き合っていきたいと思います。

いかがでしたでしょうか?少し長文になりましたが、これまで2回のミッション設定をした経験を説明させていただきました。改めて、私なりの学びを言語化すると:

  • 事業を行う存在意義としてのミッションは、売上げやKPI以上に重要であること

  • 事業フェーズに合わせて、ミッションは変化しても良いこと

  • ミッション設定のプロセスは、自己理解・相互理解の良い機会であること

  • ミッション浸透のプロセスは、リーダー自身の考え・行動がもっとも重要であること

あたりに集約されると思います。

これからミッション設定を検討される方、もしくは現在のミッションの見直しを検討しようとされている方などに少しでも参考になれば嬉しく思います。

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