生存者バイアスに基づく、国際機関職員の家族のあり様

以前、国際機関職員の配偶者にまつわる問題について記事を書いたのだが、長く読まれているようだ。私だけでなく皆が悩むトピックなのだろう。

↑では、各パターン毎にこのような場合があるよねという体で執筆したが、国際機関で長く働いている職員と話をしていると、家族のあり様に一定の傾向がありそうだと分かってくる。そこで本稿では、その国際機関で「生き残っている」職員の家族形態の中で、比較的多いパターンをいくつか列挙し説明したい。


仕事一本で独身を貫く

国際機関のDレベルの職員で独身を貫いている方は少なくない。特に女性が多い。身も蓋もない話だが、仕事に全振りするなら独身を貫くのがベストだ!ということなのだろう。家族ができる/増えることは、自らではコントロールすることができない、不確実性が増えることを意味する。例えば、家族が海外駐在に不適応を起こしたり、病気したり、妊娠・出産というライフイベントに直面したり…あなたの仕事を邪魔する出来事はいくらでも起こり得る。家族がいなければ、こうしたライフイベントには見舞われない。

しかし我々は生存者バイアスに留意しなければならない。と言うのも、我々が見ているのは、仕事に全振りして、競争を勝ち抜き、出世した国際機関職員である。Dレベルまで到達したら、仕事一本の人生に後悔は一ミリもないかもしれない。でも仕事に全振りしたが、競争に敗れ or 仕事に嫌気がさし、国際機関を去っていた者もいるだろう。彼らは仕事に全振りした人生選択を後悔しているかもしれないが、国際機関を去った手前、なかなか表には出づらいだろう。なので「出世したければ仕事一筋」という単純な話でもない。

ちなみに、独身なのは女性職員ばかりで不公平だ!という意見をしばしば耳にする。気持ちは分からなくもないが、(邦人に限って言えば)そもそも国際協力にキャリアチェンジする前に結婚している男性が多いのだ。例えば、私のJPOの同期をザッと見てみても(=概ね30歳前後の時点で)、男性は既婚者が多い反面、女性は独身が多かった。国際協力の仕事をしながら婚活するのは男女共に難しいので、スタート時点での差が10~20年後に反映されるのだろう。

配偶者を専業主婦/夫にする

過去記事でも散々書いたが、配偶者が海外赴任先で仕事を見つけることは困難なので、帯同するのであれば配偶者は専業主婦/夫になる場合が多い。国際機関職員本人にしてみたら、配偶者が家を守ってくれれば、自身は仕事に専念できるというメリットがある。

しかし、これも生存者バイアスを考慮するべきである。このパターンがうまく機能する条件は「配偶者が駐妻/夫生活に適応できれば」である。Twitter/Xでは、配偶者の海外駐在への帯同生活への不満をぶちまけている匿名垢が散見されるが、配偶者が海外生活に不適応を起こせば、そのケアをしなければならない。仕事に集中するどころではない。結局、家庭に問題を抱える職員は、どこかのタイミングで国際機関を去るか、↓のように別居/離婚した上で仕事を続けることになるのだろう。

意外に思われるかもしれないが、女性職員が配偶者を専業主夫にしているケースも多い。ただし邦人女性職員の場合だと、東南アジアやアフリカ出身の配偶者がいる場合が多い印象がある。外国人との出会いが仕事柄多いのか、日本人男性が海外赴任への帯同&専業主夫を嫌がるのか…。専業主夫になる=キャリア志向の男性は結婚相手に向いてないので、その点(偏見かもしれないが…)低・中所得国出身の男性はフレキシブルなのかもしれない。

いずれにせよ、このパターンにハマるためには、海外駐在への帯同&専業主婦/夫をOKしてくれる配偶者を探さなければならない。女性はいわんやをやだが、男性にとっても難しい。昨今の婚活市場ではキャリア志向の女性が増えているので、海外転勤ありの男性は嫌厭される傾向がある。一方で専業主婦志向の女性は男性依存的であることが多く、海外で仕事に邁進したい男性の負担になるかもしれない。この「国際協力従事者にとっての理想の結婚相手とは?」は重要なトピックだが書き始めると長くなりそうなので、いずれ別項でまとめたい。

離婚(±シングルペアレント)

離婚経験のある国際機関職員は多い。やはり国際協力の仕事をしながら家庭を維持するのは大変なのだ。特に国際機関だと、いつ・どのタイミングで・どの国に赴任するかはっきりしないので、家族のストレスも大きい。一方で職員本人も、仕事が忙しいと十分に家族のケアができないかもしれない。

ちなみに職員本人が男性だと、単身で(=独身だった頃のように)仕事を続けていることが多い。一方で女性の場合は、子供を連れていることが多い。特に子供が小さい頃は、子供の面倒を見ながら仕事で成果を出し続けるのは大変だろう。それを乗り越えて出世してる女性職員もいるので、頭が下がる。

別居婚(±子)

夫婦共にバリキャリで、しかし同じ国で仕事が見つかる訳ではないので、別々の国で各々仕事をしている。海外&海外の場合(国際機関職員同士のカップル)や、海外&日本の場合(配偶者が日本で働く)の両方があり得る。

ちなみに国際機関職員同士のカップルで長年国際協力を続けている夫婦は、子供がいない/できなかった場合が少なくない。恐らく妊活〜出産〜育児のタイミングで、否応なしに働き方を見直さざるを得ないからだろう。↑の同居&どちらかが専業主夫/婦や離婚パターンに移行する場合もあり、相対的にこのパターンが減っていく。

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