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【地球列車旅第1章】ユーラシア大陸横断鉄道の旅 #2 北京を歩く

2日目 (車中泊)~北京

 目が覚めると、窓の外はすっかり明るくなり、列車は快走していた。海外で初めての夜行列車、寝られるかどうか心配だったが、ぐっすり眠ったようで、北京まではもうあと2時間で到着だ。
 中国の鉄道は線路のメンテナンス(保線)が行き届いているらしく、時速140kmほどで走る客車列車でも揺れがほとんどない。重量のある貨物列車が頻繁に行き来する大陸の鉄道は保線が重要だと言うが、それを実感する走りである。
 北京が近づくにつれ、乗客が降りる支度を始め車内が賑やかになる。車窓の景色も次第に建物が増え、マンションや高層ビルが次々と現れる。
 8時50分、列車は定刻通り北京駅に到着した。

小雨が降る北京駅前

 地下鉄で今日泊まる宿に荷物を置きに行ったあと、まず向かったのは天安門からほど近い中心部にある王府井小吃街。朝から何も食べていなかったので、腹ごしらえをしようと思ったのである。

 王府井というのはその地域一帯の地名で、北京のど真ん中の賑やかなエリアだ。高層ビルが立ち並び、歩行者天国になっている目抜き通りには洒落た構えの店が軒を連ね、さながら銀座あたりを歩いているかのようである。
 その一角にあるのが「小吃街」で、小吃=軽食を食べ歩きできる屋台が広がっている。
 入り口には横浜の中華街で見たことがある立派な門が建っていて、清朝時代を模したという狭い路地は、多くの観光客で賑わっている。
 そこで10元(≒160円)の「春餅」という名の春巻きを食べた。

横浜の中華街にある門にそっくりだが、もちろんこれが本家本元
食べ物の屋台とお土産屋が立ち並ぶ王府井小吃街
ちょうど雨が止んでくれて、楽しい食べ歩き


 さて腹は満たされたが、この後行かなければならないところがある。
 2日後に乗るモンゴル行きの国際列車の切符を北京の旅行会社で受け取る手筈になっているのだ。
 街歩きや食べ歩きも楽しいが、何しろこの旅の最大の目的は列車に乗ることなので、切符はなんとしてでも手に入れなければならない。それで日本にいるうちから北京の旅行会社に連絡を取り、手配しておいてもらった。

 王府井から歩いてすぐの灯市口というエリアにある中国婦女旅行社へ向かう。
 なぜ婦女旅行社というのかは謎だが、男である僕の列車の切符もちゃんと手配してくれていて、マンションの3階にある「日本部」という名の部屋に行くと、日本語を話す社員の人が出迎えてくれた。

 無事切符を受け取れたので一安心して、いよいよ中国の象徴、天安門と故宮へ向かう。
 地下鉄の駅を出ると通りは大混雑で、数百メートル先に見えている天安門になかなか近づけない。
 中国政府がアフリカ諸国の首脳たちを招いて国際会議を開催しているらしく、通りの一部が封鎖されている。だからこんなに混んでいるのかと思ったが、困ったことに天安門広場も立入禁止になっている。
 天安門広場に立ち、中国激動の歴史に思いを馳せてみたかったのだが、断念せざるを得ない。
 2013年に天安門広場に車が突っ込むテロがあってから、天安門周辺の警備はかなり厳しくなったと聞いたが、なるほど辺りを見渡すとこれでもかというくらい監視カメラが設置されている。
 天安門事件が起きたこの場所で中国政府の強権ぶりを垣間見たが、幸い門の手前の歩道には立ち入ることができて、間近から天安門を見上げることができた。
 テレビや教科書で目にしたことがある光景を自分の目で見るのはなかなか痛快で、旅立ちからまだ2日だが、早くも来て良かったと思う。

テレビで見た光景が目の前に
幾重にも柵が置かれ厳重警備の天安門広場

 天安門の脇を少し回り込むと故宮の入口、午門がある。故宮は言うまでもなく歴代の皇帝が居を構えた宮殿で、南に面した午門は皇宮の正門にあたる。
 まだ中に入る前だというのに、見上げんばかりの迫力ある門に歴代中華王朝の威厳を感じる。

ここが故宮の入り口

 チケットを買い中に入ると、何万人も収容できそうな広場の奥に、何本もの朱色の柱に支えられた黄色の大きな屋根が見える。この建物は太和殿といい、皇帝の即位や婚礼などの儀式や、詔書の頒布などといったまつりごとが行われた場所だという。そしてこの広大な広場に多くの官人たちが集い、皇帝の前に首を垂れた。
 ここは、いにしえより日本を含め広くアジアに影響を与えた「中華世界」の中心ともいえる場所なのである。

かつて官人が集った広い広場に、今は観光客が集まる

 さらに奥へ進むと、皇帝とその親族が居住していた内廷に入る。内廷の建物で面白いのが、建物に掲げられた扁額に満州文字が記されていることである。ついさっきまで天安門広場で共産党政権の存在を感じていたのに、少し歩くとタイムスリップし、満州族の王朝である清の時代を実感できる。

漢字の右に書かれているのが満州文字

 見るものすべてが興味深く、あちこち写真を撮りながら歩き回ったのだが、何しろ故宮はとても広大で、裏門に当たる神武門から外に出たときは少し疲れを感じた。

3時間くらい観光

 神武門の正面には小高い丘があり、景山公園という名がつけられている。この丘に登ると、故宮を裏手から見下ろす形になり、その景色を見ようと多くの人でにぎわっている。
 奥のほうには北京の近代的な街並みが広がっているが、眼下に広がる橙色の屋根の連なりは、まさしくいにしえの中華帝国の光景であり、とても美しい。しかも登ったらちょうど雲が切れ、青空が広がってきた。

青空と橙色の屋根のコントラストが美しい

 時刻は18時。そろそろ夕飯の時間だ。昼は春巻きしか食べていないので腹が減っている。
 北京に来たらぜひ食べたいものがある。ガイドブックとかを読むと必ず登場する「北京ダック」。
中国語だと烤鴨と書くが、これをぜひ本場で食べてみたい。
 そんなわけで事前に目をつけていた店へ向かった。

風情のある古い街を歩き、烤鴨の店へ

 店に入り通されたのは円卓のある大きなテーブルで、一人で食事をするようなところではない。周りを見てもみんな家族や友人でテーブルを取り囲み、楽しげに皿の上の品を分け合っている。
 しかしここは北京。そんなことを気にしたら本場の烤鴨は食べられない。

 注文をすると程なくして、薄くて丸い餃子の皮みたいなもの(薄餅)と千切りのきゅうりとねぎ、タレが運ばれてくる。この薄餅にきゅうりとネギを少々、そして甘いタレを付けた薄切りのアヒル肉を挟んで食べるのが烤鴨だ。
 少しして焼きたての肉が運ばれてくる。お作法通りに薄餅に一通り包み、口に運ぶ。
 パリパリした皮を纏ったジューシーな肉にきゅうりとネギがアクセントとなり、もっちりとした薄餅の食感がたまらない。運ばれてきた時には一人で食べるには多いのではと思ったが、たちまち平らげてしまう。

美味しそう
薄餅に全て載せたところ

 追加注文した炒飯も美味しくいただき、すっかり良い気分になり宿へ帰った。
 悠久の歴史と絶品の中華料理を心ゆくまで堪能した北京での一日が終わった。


○2日目 2018/8/30   北京観光


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