見出し画像

食品輸出の基本知識⑤「アジアのビジネスパートナー華人を理解する」

~海外のビジネスパートナー華人と華僑の違いを知っておく~

海外に何度も出張している海外経験が長い人でも、華僑の意味を誤解している人を多く見かけます。そして大失敗している人が多く見てきました。

そうならないように、最初に理解しておく必要があります。海外に食品を輸出しようとすると、海外のディストリビューターの経営者と話をすることになります。

海外で食品ディストリビューターを経営するのは、日系企業か中華系の企業が多いです。そのため華人と商談することが多くなります。今回は、華人との付き合いをするための基本情報を説明します。


アジアでビジネスをするには、華人を理解する必要があります。中華人民共和国の方だけでなく世界には多くの中国系の方がいます。中国系の方を総称すると、英語ではCHINESEとなります。

日本語では中国系とか華人という言い方になりますが、華人という言葉と華僑という言葉は意味が異なります。華僑と華人という言葉の違いを理解しておかないと知らず知らずに痛い目に合うので注意が必要です。

私の友人にマレーシアの大手文具ディストリビューターの社長がいます。彼は1984年にマレーシアのジャスコ1号店で文具の棚1本を売上仕入条件で商品供給するために脱サラしました。

そしてその企業は2000年にはイオンマレーシアの衣食住全体の取扱額で並み居る大手日系企業を押さえTOP10に入る会社にまで成長しました。そして私の仲間たちは親しみを持って彼を「アセアン文具の帝王」と呼んでいました。

帝王は1990年代に中華人民共和国で多くの文具をOEM製造しマレーシアに輸入して販売していました。当時から帝王が何度も言っていたのが華人との付き合い方の重要性であり、華人と華僑の違いでした。

帝王は『俺は、華人であって華僑ではない。華僑と言われることが大嫌いだ。』と言っていました。そしてそんな華人経営者が多いとも言っていました。

日本から売り込みに来たメーカーと商談をした後の食事で起こったことを、帝王は話してくれました。

日本からきたメーカーの経営者のことを帝王はこう言いました。『あいつは何をしにマレーシアまでやってきたんだ?商品を売り込みに来たのではないのか?それであいつは何度も華僑・華僑と話していた。日本語でカキョウとは華僑(フアチャン)のことだと分かっている。私は華僑ではない。彼は私を華僑だと思っているのか?そんなことさえ知らずに海外まで商品を売りに来たのか?その程度の知識もなく、相手を不愉快にする人間を私は全く信用しない。彼が私の顧客であり売先ならこんなことは言わない。彼は私に商品を売りにきたのではないのか?そしてそんなことさえ知らないのか?

帝王によると会食の雰囲気は非常に良かったそうですが、その日本のメーカーの経営者はその日以降私の友人である帝王と一切連絡が取れなくなり商談は失敗しました。商談がうまくいき、会食もうまくいったと思って帰国したら突然連絡が取れなくなったのですから、その方は不思議だったでしょう。

そして帝王は、そんな失礼な話があることはよく聞いていたそうですが、まさか自分がそんな目に合うとは思わなかったと言っていました。

華僑ではないのに、華僑と勘違いをされ、何度も華僑と言われたことが、帝王には耐えられなかったのです。

私が日本人は中国大陸でよく騙されるという話をしたとき、帝王は日本人の間違いを教えてくれました。『中国人は関係(グワンシー)を非常に重視する。まず10回食事をするまで仕事の細かい話はしない。そして相手が自分を信用してから仕事の話をする。』それが華人の基本であると教えてくれました。

相手が自分を信用したがどうかは、「相手の家に訪問して家族を紹介してくれた」というのが彼の基準でした。家族ぐるみの付き合いなしで仕事の話をしようするから失敗をする。それが帝王の教えでした。『相手の家にも招待されず、家族も紹介されていないでビジネスするなんてありえない!』それが帝王の感覚でした。

そんな帝王が非常に重要なこととして覚えておいた方が良いと言っていたことは「華人が共通して大切にする3つ」でした。

『華人が大切にするのは皆同じだ。』と言う彼が教えてくれた1位は「親」でした。『華人は親を大切にする。2位は「家族」。華人は家族を大切にする。3位は「親族」。華人は親族を大切にする。そして4位は何か知っているか?』と聞いていてきました。そして『4位はラオパンヤオ(老朋友)だ。』と帝王はそう言い『華人は日本人と異なり性善説で生きてはいない。騙し騙されることが非常に多い。そんな社会でどうやって信頼できる人を見つけるのか。それが、ファミリーであり、老朋友なのだ。仲が良いという話ではなく、長期間かけて築いてきた信頼関係があるから信用でき友になれる。』ということでした。

帝王は私のことを老朋友と呼んでくれ、大切にしてくれます。因みに老朋友と言われたのは、知り合ってから15年たってからでした。そして『華人と付き合うなら老朋友と呼んでもらえる人を何人作れるか。それが非常に大きなポイントだ。』と教えてくれました。

日本人が海外で簡単に騙されるのは、出会って間もない人をうかつにも簡単に信用してしまうからである。信頼できる人に紹介してもらい、信頼関係を築く前にビジネスを開始しようとするから失敗する。』そう教えてもらいました。

華人はそんな関係(グワンシ)の世界で生きています。そんな世界に飛び込んでいって初対面で名刺交換して、その後メールしても当然返信は来ません。あなたが買い手であれば話は異なりますが、あなたが売り手であれば当たり前の話です。信頼されていないから返信が来ないのです。

帝王は中国の多くの工場で文具のOEMを行いマレーシアに輸入して販売しました。自分が買い手であるにも関わらずまずは10回食事をして、相手の家族を紹介してもらい、相手の自宅に遊びに行って、友人関係を構築してから商売を開始したのです。この視点が日本人には決定的に欠けています。そのため簡単に騙されるのです。

時間がないときはキーマンとなる相手が信頼している人から紹介してもらえば良いのです。但し、簡単に紹介はしてもらないので、そこに時間と労力や人脈をかける必要があります。

そんなプロセスを省いて名刺を交換して知り合いになった感覚でやり取りを開始しても華人相手の商売では通用しないのです。

さて、華僑の意味ですが、中国共産党政府が定義しています。この定義は日経新聞にも何度も掲載されていますが、中国共産党の華僑の定義は「中国大陸・台湾・香港・マカオ以外の国家・地域に移住しながらも、中国の国籍を持つ漢民族」を指す呼称です。それが華僑の定義なのです。

マレーシアで生まれ50年住んで、マレーシアのパスポートを持っているいる帝王は、華人であり華僑ではないのです。マレーシア人なのです。中華人民共和国からの出稼ぎ労働者というニュアンスを持っている華僑という言葉は、帝王にとっては出稼ぎ人と言われていると感じ納得できないのです。自分のアイデンティティーを破壊されるような発言なのです。


2つの中国問題についても記載しておきます。

台湾に行くと2つの中国問題ということも注意が必要です。私は2年半台湾に駐在していましたが、理解不足からとんでもない発言をされる日本人の方を多く見かけました。

台湾の方のパスポートには中華民国と書かれていて自分が中国人と普通に思われています。台湾の方と話をしていて中国と言えば、中華民国と中華人民共和国の2つがあるので、日本人のあなたが台湾で中国と発言するには、使い分ける必要があります。

台湾で台湾人に中国・中国と何度も発言し、その発言した中国が実は中華人民共和国のことだった・・・そんな背筋がゾッとするような発言を、台湾に営業に行って平気で話す方がいます。そんな見込み客のアイデンティティーを傷付けるような営業マンは失格です。

台湾の方は、自分は中国人と思っていて、中華人民共和国のことを「大陸(タールー)」と言います。

そのため台湾で中華人民共和国の話をするときは大陸と話すことが基本です。台湾で中華人民共和国を大陸と呼び、中華民国を台湾と呼ぶことは問題ありませんが、中華人民共和国を中国と呼び、台湾を台湾というと非常に嫌がられてしまいます。初めて台湾に営業に行って、初対面の台湾の人と話すときは特に配慮が必要です。

台湾で日本食品を手広く取り扱うディストリビューターの社長と懇意にしています。私は2003年に台湾から帰国したので既に17年経ちますが、毎年幕張メッセで開かれるフーデックスのときに彼は来日してきますが、毎回食事を一緒に取っています。台湾では日本の大手菓子メーカーや大手調味料メーカーのディストリビューター・代理店をしていますが、当時は先代の社長と仲良くさせていただいており、ご子息であった現在の社長とも付き合いが続いています。

先代は1990年代には台湾の日本食品の最大手ディストリビューターであったため日本で食事するときは接待で料亭や高級飲食店でばかり食事をされていました。以前来日された際に、私が日本の居酒屋チェーン店にお連れしたら、こんな店に初めて来たとたいそう喜ばれ、息子をよろしく頼むと話をされたのを思い出します。

その先代も亡くなり、現在はご子息が立派に後を継がれています。そして毎年元気な顔を見せてくれ、中秋の名月の時期には決まって月餅を送ってきてくれます。華人の方は信頼していただき仲良くなると本当に義理堅く、色々な人をどんどん紹介してくれます。そんな華人の世界でビジネスをするには最初に本くらい読んでから海外に赴任するように当時は教えられてきました。

私が海外に赴任する当時は、こんな本を読むことを義務付けられました。こんな華人の基本知識なしに、華人と商談する、中華人民共和国・台湾・香港・シンガポール・タイ・インドネシアなどに商談に行っても問題を起こすだけです。

ぜひ、読んでみてください。「グワンシ(関係)」、「中国人とうまくつきあう実践テクニック」アマゾンのリンクを付けておきます。

「食品輸出の学校」で様々な情報提供をしています。ご確認ください。

図8

株式会社グローバルセールス 代表取締役 山崎次郎

食品輸出の学校 学校長



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?