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「市場規模より…」IT事業経験のあるGPが、スタートアップ投資で大切にしたいこと【GB社員インタビュー】

グローバル・ブレイン(GB)で情報発信を担当している岡本です。

キャピタリストとしての長いキャリアを持ち、メガベンチャーでのIT事業経験も持つ都 虎吉(ドー・ホーギル)さんが新たにGPとなりました。その都さんに、前職の経験をどのように業務に活かし、また今後GBにどう貢献しようとしているのか話を聞きました。


IT事業で学んだ「顧客」へのこだわり

──GBに入社されるまでの経歴を教えてください。

新卒で楽天グループに入社し、M&Aチームに配属されました。当時はアメリカでもいろいろなIT企業が勃興していて、楽天もM&Aの全盛期。私自身も20件以上のIT企業のM&AやPMI(Post Merger Integration:合併・買収後の統合プロセス)に携わり、ITビジネスとは何かを学びました

その後、異動したのが楽天市場のマーケティングチームです。楽天市場のアプリ化が進められていた時期だったので、アプリにトラフィックを寄せるさまざまな施策をやりました。「アプリを使うとポイント2倍」のようなキャンペーンをやったり、広告営業をやったり、楽天市場の店舗のユーザーにどうアピールするか各部署と交渉したり。Eコマースやインターネットサービスについて事業部側から深く知れた時期でした

しばらくして楽天ベンチャーズの立ち上げをやってほしいという話があり、ベンチャーキャピタリストのキャリアが始まります。出自がIT事業ということもあり、その次の職場であるZホールディングスのZ Venture Capitalでも、現在のGBでも、ITサービスへの投資をメインに行ってきました。

都 虎吉:IT分野を中心に幅広い領域でのベンチャー投資と支援を行う。楽天とZ HoldingsでのM&Aや事業開発経験を活かし、様々なステージのスタートアップのプロダクト、組織開発、ビジネスモデルに関する支援を数多く実施。アクセラレータープログラム「XLIMIT」の責任者も担当している。

──IT事業の経験は、キャピタリストの仕事にも活きていると感じますか?

そうですね、特に「顧客解像度」へのこだわりは強く活きていると思います。スタートアップへの投資を検討する際、市場規模やTAM(Total Addressable Market:対応可能な全体の市場規模)はもちろん大切ですが、より重視すべきは顧客への視点です。

事業を作る際は、顧客をベースにプロダクトを作り、Go To Market戦略が生まれ、その先にどのくらいの市場が見込まれるかという順番で考えます。しかし投資判断となると最初に「市場があるか」を気にしてしまいがちです。「市場規模」の前に、そもそもそのスタートアップが「顧客の課題」を正しく捉えるポテンシャルを持っているかを見る必要があると思っています。

あくまでも起業家が主役

──顧客の課題を捉えられるスタートアップかどうかは、具体的にどう判断しているのでしょうか?

私自身がスタートアップの顧客にインタビューをします。営業に同席することもありますね。顧客の反応も見られますし、顧客のやりたいことを聞き取る“あるべき姿”の営業をされているかも確認できます。

顧客や環境の変化に適応していく「アダプトする力」も投資で重視している要素です。「事業を着想してからどれぐらい経ったか」「デモやプロトタイプを通じてどの様に効率的に顧客ニーズを検証できたか」「サービスをどう変えてきたか」など、試行錯誤するスピード感や頻度についての質問を行い、地道にPDCAできる本質的な力がある起業家に投資をしています

逆に言うと、いわゆるモメンタム投資のような、トレンドの商材だからというだけでの投資はしていません。しっかりテクノロジーを使って、求められるビジネスを作ろうとしている起業家を支援したいと思ってます。

──投資をしたスタートアップにはどのような支援をしていますか。

PMFできる顧客セグメントを捉えているか、事業成長のために1番重視すべき指標をどこに置くべきか、などを起業家とともに考えていきます。

ここで意識しているのは、質問者でいること。私があれこれとアドバイスをするのではなく、私からの問いかけに対して起業家が自分で気付いていくというプロセスが大事です。

たとえば「エンプラ顧客の獲得数をKPIに置いている」というスタートアップには、「エンプラとはどのような企業を指しますか?」と問います。「従業員300名以上の企業です」という回答なら「なぜ300名以上の企業をエンプラと定義したのですか?」とさらに問います。このように深掘りをしていくと、事業成長の指標としてどのようなものを置くべきか起業家自身で考えを深められる。この問いを立て続けることが私の役割だと思ってます。

──あくまでも起業家の意思決定を後押しするというスタンスですね。

はい。その精神は私が関わっているアクセラレータープログラム「XLIMIT(クロスリミット)」でも共通しています。XLIMITに採択された起業家には、たくさんの知見ある人や正しい情報と出会ってもらって、そこから自分に合うものを選んで成長してほしいと思っています。

XLIMITでは多くの先輩起業家との交流の機会を設けています。過去には上場を経験したラクスルの松本さんやBASEの鶴岡さん、ベースフードの橋本さん、シリーズAを終えたばかりのカウシェの門奈さんなど、さまざまなフェーズの起業家を招いてきました。またGBの中にいる事業戦略や採用、知財、PRなどの支援チームがナレッジを共有する場もあります。

XLIMITの採択企業は同じスタートアップといえど、各社の課題ややりたいことはさまざまです。少数のキャピタリストの知見だけを提供するのでは、すべてのスタートアップのポテンシャルを最大化できません。起業家が必要な時に、必要な情報や人と出会える環境づくりを行う。この信条はXLIMITだけでなく普段から抱いています。

“GBだから”できるスタートアップ支援を

──会社についても聞かせてください。今後はGPとして組織づくりにも関わるかと思いますが、都さんから見てGBはどんな会社だと感じますか?

ひと言で言うと「調和」です。現在社員は120名以上いますが、キャピタリストも支援チームも、バックオフィスのメンバーも、これでもかというくらい異なる経歴や専門性を持っています。にもかかわらず、それぞれが協力して物事を前に進めることができている。誰かが傍若無人に我を出すシーンは見たことがありません。それくらい人が調和しているのがGBの強みです。

実はその点が私の入社の動機にもつながっています。以前から友人関係だったキャピタリストの立岡さんから「GBは人数が多いけれど、みんなで協力しながらやっているよ」と聞いていて、魅力を感じました。私が入社した頃から変わらず続いているカルチャーですね。

──異なる専門性を持つ人が多くいるからこそ「正しい情報を届ける支援」もできると。

私自身が投資先スタートアップの営業や、開発や、採用を支援するのも不可能ではありません。ただ、やはりプロフェッショナルな目線からでは見えている世界も違いますし、できる支援の質も異なります。なので採用に困ったスタートアップにはGBHR(採用専門支援チーム)をつないでいますし、営業や開発に困っていたらValue Up Team(事業戦略やグロース、開発の支援専門チーム)を紹介しています。私1人でできる支援にとどまらず、GBの中の専門家を適切につなぎながら支援を続けたいですね。

起業家もLPも、羽ばたけるように

──今後起業家やLP(Limited Partner:ファンドの出資者)の皆さんに向けて、どのような価値を発揮していきたいと考えていますか?

「いい会社に投資・支援してリターンを出す」ことに尽きるかなと思います。そのためにはスタートアップだけではなく、LPの皆さんへの支援も重要です。彼らがスタートアップへの投資や共創で成果が出せるよう支援するのも大きな任務の1つです。

LPさんへの支援でも大事なのは課題の見極めです。たとえばうまくいっていない状況があれば、なぜうまくいってないのかという自己診断を行い仮説を立て、解決のためのアクションを作り、結果を検証する。王道ではありますが、スタートアップやLPさんの皆さんにもPDCAで支援していきたいです。

──ありがとうございます。GBは海外スタートアップへの投資も多く、また日本のスタートアップの海外進出も後押ししています。海外との関わりという観点で取り組みたいことはありますか。

海外と日本とでは顧客の状況が変わるケースが多くあります。たとえば、韓国は法人の数がそもそも少ないのでSaaS市場というもの自体は大きくは見込めません。ですが、韓国という市場だからこそできるSaaSビジネスも当然あるはずです。

市場や顧客が違うからといって諦めるのではなく、投資先スタートアップが各国のビジネスやテクノロジーに適応していけるよう支援したいです。楽天でクロスボーダーのM&Aや企業投資をやっていた際に海外のIT企業やマーケットも多く見てきたので、その知見も活かして様ざまな海外展開の支援をしていければと思います。

いずれは、海外でも戦えるほど顧客の課題を深く解決するスタートアップ自体を生み出すこともやってみたいです。最近日本では「社会が発達し、色々なプロダクトが存在しすぎて大きなペインが残っておらず、スタートアップも生まれづらくなっている」と言われる場面もありますが、私はそんなことはないと思っています。

世の中の事象をよく観察すると、表面的には大きなペインがなくても構造的な改善余地のあるものはたくさんあります。ラクスルは印刷工場のオペレーションを変えて新しい価値を生み出しましたし、チャットコマースのZEALSはLINEが普及した現代でなければ生まれなかったサービスです。

まだまだスタートアップが台頭できる世界だと思っています。世の中への鋭い観察眼を持つ起業家が国を超えて羽ばたけるよう、今後も支援していきたいですね。


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