「言葉」が社員の自信をつくる。ファインディのユーザーサクセスに学ぶ、言語化の力
「おしごと2.0図鑑」は、スタートアップ企業が生み出した、これまでの世の中にはない「新しい仕事」を通じて、未来のビジネスを生き抜くヒントを探るシリーズです。
ファインディ株式会社には「ユーザーサクセス」という耳慣れないポジションがあります。「カスタマーサクセス」はよく聞きますが、「ユーザーサクセス」とは一体…?
ユーザーサクセス部門を2022年12月までチームを統括していた河村佳太さん、チームメンバーの大友雪慧さんに話を伺うと、チームの心に火をつける「言葉の力」が見えてきました。
エンジニアの人生に伴走する、ファインディ独自の仕事
──「ユーザーサクセス」の業務内容を教えてください。
河村:私たちはエンジニアと企業をマッチングする転職サービス「Findy」をはじめ、エンジニア向けのさまざまなサービスを提供しています。ユーザーサクセスは、このエンジニアの方々に向き合うポジションです。
一方で弊社には「カスタマーサクセス」のポジションもあり、こちらはエンジニア採用を行いたい企業に向き合います。toCのユーザーサクセスとtoBのカスタマーサクセスは、連携しながら業務を進める協力関係にあります。
ユーザーサクセスの業務内容は2つあり、1つはエンジニアの方々とのキャリア面談です。弊社では「ユーザーサクセス面談」と呼んでいますが、ここでキャリア軸の整理やエンジニア転職のトレンド共有、必要に応じて具体的な求人の紹介も行っています。
もう1つは、面談後のフォローです。選考に進まれる方には、職務経歴書の作成や面接対策、選考後のフィードバックなどを行っています。なお、この「ユーザーサクセス」という職種名は弊社が商標を取得している独自のポジション名です。
大友:ユーザーサクセスは無理な転職を勧める仕事ではありません。あくまでエンジニアの方の中長期的な「ありたい姿」を実現するために伴走するお仕事です。人材業界ではよく、求職者が特定の会社に入社することを「決める」と言いますが、私たちはこの言葉は使いません。あくまでエンジニアの方が自分の意志でキャリアを「選択する」ためのお手伝い、というスタンスなんです。
表面的な「名前」にとらわれていた時期も…
──「ユーザーサクセス」は、転職エージェントやキャリアカウンセラーの仕事に近いように感じます。こうした呼び方ではなく、あえて「ユーザーサクセス」という言葉を作った理由をお伺いさせてください。
大友:2018年ごろ、エンジニアの方に弊社サービスへのフィードバックを直接いただく取り組みをしておりました。代表の山田やCTOの佐藤が直接話を伺うというものです。時にはエンジニアの方のオフィス近くまで赴いて生の声を伺い、プロダクトに反映させていました。そこでキャリアについてのご相談を多く受けるようになり「これをサービスとして提供していこう」と、今のユーザーサクセス面談が始まったんです。
──元々はキャリア以外のことも含めて、エンジニアの方から意見をもらう場だったわけですね。だからこそ「転職エージェント」や「キャリアカウンセラー」などの名前にならなかったと。
大友:そうです。私はもともと人材業界の出身なのですが、そういった意味ではユーザーサクセス面談と人材系の会社がやる面談とは、生まれた経緯がまったく異なるのかなと思います。
──御社のnoteを拝見すると、チーム内でユーザーサクセスの仕事について議論されたことがあるようですね。自分たちの仕事や役割を言語化してみて、働く方の意識や姿勢に変化はありましたか。
河村:とてもあったと感じます。かつて私たちはユーザーに寄り添うという点にものすごくフォーカスを置いていて、「転職エージェントとは違います」というスタンスを必要以上にとってしまっていました。転職エージェントとユーザーサクセスを対立する概念として捉えていたんですね。
ですが、エージェントがやっていることと、ユーザーサクセスがやるべきことを全部言語化した際に「本当にユーザーの方が求めていることであればやるべきだ」と考え直すことができました。人によっては「転職活動する背中をぐっと押してほしい」とか「もっと選考に入り込んでほしい」とか、そういうニーズは当然ある。ユーザーの成功を目指すなら、こうしたアプローチも必要だと気づけました。いわばユーザーサクセスは、エージェントと対立するのではなく、エージェントとしての役割も一部含んだ仕事なのだと。
──エージェントとユーザーサクセスの違いを明確にすることで、逆説的にユーザーサクセスにも「エージェント的な動き」が必要だと気づけたというわけですね。
河村:はい。ユーザーの方が本当に求めていることをやるためには、守りだけではなく、エージェントに近い「攻めのアクション」も取るべきだと確信をもてるようになりました。
「深い言語化」で、芽生えた自信
──自分たちの役割を考え直す議論を経て、現場ではどのような変化がありましたか。
大友:ユーザーサクセスのメンバーは、バックグラウンドが本当に様々です。河村さんは広報ですし、私は医療系の人材業界。化粧品会社から来た方もいます。そうしたバラバラの出自を持つ方がいるなかで、「ユーザーサクセスって何なのか」「ユーザーの『成功』って何なのか」を議論することで、チームで向かうべき方向のすり合わせができたのは大きいです。
具体的な支援の方法は各人に任せられていて自由度があるんですが、だからこそ、ユーザーサクセスが目指すゴールを共有できたのは働きやすさに繋がりましたね。ユーザーにとってポジティブなことであればやっていい、と積極的に動きやすくなりました。
河村:自分たちの役割を言語化した結果、「ユーザーサクセスの仕事っていいよね」と心から思えるようにもなりました。ファインディが世の中へどう役立っているのか改めて自覚することができたので、自分たちの事業自体にも自信がついたという実感があります。
大友:あと、ディスカッションの場を通じて、日頃の会話で使われる言葉の認識をそろえられたのも良かったですね。弊社ではユーザーサクセスが意識すべきあり方を「俯瞰(Fukan)」、「フラット(Flat)」、「ファクトベース(Fact base)」の頭文字を取って「3F」と呼んでいるのですが、こういった言葉が日常的にチーム内でも自然に交わされるようになりました。
言語化で意識すべきは「具体と抽象」の質問
──日々のユーザーサクセス面談でも、エンジニアの方の思いを「言語化」することに挑まれているかと思います。キャリア像など、ぼんやりとしがちなものを言葉にするコツはあるのでしょうか。
大友:大前提として、私たちは「ユーザーの中に答えがある」と考えています。ユーザーの思いをその方の言葉でお話しいただいて、あくまでユーザーの中にあるビジョンを言葉で引き出すお手伝いをしている、という立場です。
そのために意識しているのは「具体と抽象を行き来する」こと。たとえば「大規模な組織」という言葉を100名くらいと捉える方もいれば、1万人規模と考える方もいらっしゃいます。そこをそのままやり過ごさず「大規模とは何名程度をイメージされていますか?」と具体化する質問をさせていただいて、イメージを固めていただいています。
逆に、抽象化した質問でユーザーの思いを確認することもあります。たとえば「スタートアップを希望するのは、スピード感をもって仕事をしたいからでしょうか? 経営の近くで仕事をしたいからでしょうか?」などのように、なぜその働き方を志向するのかを考え直す質問もしています。
こうした抽象化と具体化を繰り返して、「こういうことを自分は思っていたんだ」と自分の言葉から気づいていただく体験をユーザーサクセス面談では目指しています。