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東京サイドストーリー

ビル風を受けて 彼は黄昏てた
あれは仕事にも慣れてきた頃
眺めが良いとはいえない
ホテルの壁しか見えないロフト付きワンルーム

乗り込む満員電車を上手く降りられない
この街でやってけるのか不安だった

何度季節を越えてきたのだろう
素敵な巡り合わせもハプニングも
特段なかった でも未だに期待してる
流行り廃りの様な感情抱えて

駅に向かう彼女は昨日のことの様に
駄作であろう短編のことを思い出してた
自分史上最下位に近い彼のことを
アパート探しでいえば
間違いなくハズレ物件の彼を

乗り込むタクシーは見覚えある通りへ
この商店街にまた来ることになるなんて

何度季節を越えてきただろう
絶好機を外し続けた哀れな彼のこと
その悲惨で悲哀に満ちた結末を憐れむ
でも彼はまだ期待してるんだね

そんな冷たい目よく出来るもんだ
タクシー料金上乗せされるぞ?

お互いの車窓に映り込むは
過去の名場面 そろそろ
新規項目追加でお願いしたいものです

何度自分を超えてきただろう
懲りない男でも分かってる
このままじゃあかんってことに
尽きない思い出し尽くそう

彼女はタクシーを降りた
彼に会わないことを祈りながら
でも運命は酷な方を準備してた
こういうハプニングは期待してない

ドラマだったらここからまた
何かが始まる でもリアルは
そんな訳ない お互い無言で通り過ぎる
史上類をみない芸術的なすれ違い
史上類をみない美しいスルー技術

でも元気そうで良かった
彼には彼女が微笑んでる様に見えた
やっとさよならできた バイバイ
彼女も不思議と気まずくない
会えて嬉しかったみたい

一言くらい話したかったな
っていう未練がましい想いもなくはない
でもこれで良かった はず

何度季節を越えてきたのだろう
正論では片付けられない鬱々とした
想いがある でももう消え去った
流行り廃りの様な感情抱えて

お互い燻ってた火が完全に消えた
これから物語はそれぞれの主流へ

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