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台北旅行記

8月2日㈬

5時25分に飛ぶ予定の飛行機はゆうに一時間遅れ、ターミナルで朝焼けを拝み、空が完全に明るくなったところでようやく機内に乗り込む。離陸する頃には眠りに落ちていた。昨日の昼マーブルのカレーを食べて、夜は納豆を食べただけだったので空腹だったけれど、タイガーエアは機内食が有料らしく、メニューを持ったキャビンアテンダントがうろうろするだけで永遠に食事も飲み物も運ばれてこない。お腹が空いたなあと思いながらまた眠る。到着までにこまぎれにだが三時間くらいは眠ることができた。

あっという間に到着したので桃園国際空港に着いても感慨はそれほどない。職員も日本語で案内してくれたりするし。無事入国し、ATMのような機械で両替も完了。MRTに乗り込み、台北駅を目指す。
Wi-Fiをつないでみたけれど、旅行中は必要最低限しか人と連絡をとらないと決めている。SNSも投稿しない。なるべく日常から距離をおきたい。それができないなら異国の地まで来ている意味がない。
駅で、「月台」という表示があって何かと思ったらプラットフォームのことだった。美しい名前だ。三番線ホームは「三月台」。おもちゃみたいな切符代わりのプラスチックコインをポケットにしのばせる。

車窓の外を見やると、雨が降ったりやんだりしている。降っていないときには陽も出ている。台風が近づいているらしいからその影響だろうか。
台北駅に着いて、まずは滞在するホテルを目指す。スーツケースだけ置かせてもらおうと思ったのだ。でも、午前中だからか入口に鍵がかかっていて中には誰もいなくて入れず。ならばコインロッカーに荷物を預けようと思ったけれど、駅に戻って地下街をうろうろしてみたけれどコインロッカーが見つからず、やっと見つかったと思ったら満杯で入れられず。
多分空腹と寝不足で判断力も鈍っていたのだと思う。誰かに訊くことも思いつかず、へろへろのまま、店のシャッターがしまった薄暗い地下街をひたすらうろうろした。人気が少なく、冷房も切ってあるらしく蒸し暑い。日本のアニメの映像だけが壁に設置された液晶モニターから流れ続けていた。

泣く泣く、チェックインの時間までスーツケースを持って移動することにする。雨と照り付ける日差しが交互におそいかかってくる。台北は四日間ずっと雨予報となっていたので、雨具は持っていたけれどUVパーカーや日焼け止めはスーツケースの底だ。スーツケースを引いて迪化街へ向かう。10分ほど歩いたがとにかく蒸し暑い。空腹と疲労のあまり途中で見かけた食堂に飛び込み、おかみさんが台の上で作っていたサンドイッチを指さして「それください」と目で訴えた。店の奥で食べていいかジェスチャーで聞くと、いいということだったので、座って、買ったばかりのサンドイッチを食べてやっと人心地がついた。

空腹補正もあると思うけれど、このサンドイッチがめちゃくちゃおいしかった。きゅうりとハム、卵、ひき肉をペーストした餡とごく普通の具材なのにものすごくおいしい。ひき肉餡が甘めの味つけで、ハムの塩気と相まって絶妙なハーモニーを醸している。生き返った心持で歩きだす。

目指すは霞海城隍廟。このあたりまでグーグルマップのナビを頼らず、ガイドブックのマップの記憶を頼りに目的地をめざしていたのだが、目的地に近づいているはずなのに全然たどり着けず、ひたすら同じような場所をぐるぐる回ってしまい、ああこれは無理だなと悟ってグーグルマップを開いたらあっという間に目的地に連れて行ってくれた。前に海外旅行したときには紙の地図があればなんとかなったのに、いつの間にかグーグルマップなしでは知らない町を歩けない体になってしまった。かなしいが仕方ない。文明の進歩を寿ぎ、退化した己を受け容れようと思う。

霞海城隍は寺院。

スーツケースをここに置いていいよと言ってくれた年配の女性スタッフに「日本人? 縁結び? それならこれを買って。50元」と線香と金紙のセットを手渡される。「縁結びと一口に言っても私は狭義の恋愛成就的な意味の縁結びを祈願しているのではなく、私は仕事や友人関係や自身の生業とする文筆活動において良縁に恵まれて自分や他の誰かの人生がよりよくなるような出会いの道が切り開かれることを志向しているのです」などと伝えられるはずもなく。
大学では第二外国語で中国語を学び、大学受験も大学院受験も英語の試験を課されたはずなのに、私は中国語も英語もまったく話せないし聞き取ることができない。中国語で話しかけられているのか英語で話しかけられているのかわからないくらいだ。
言葉が通じない場所にいると、自分の内に生じるはずの葛藤もあいまいな感情も全部表現する手段がなくて自分の存在がとてもシンプルになる感じがする。
参拝の方法がよくわからず案内板を見ていたら日本語のできるスタッフが近づいて来て丁寧に説明してくれた。お守りセット250元を購入する。
まず屋外の燭台で線香に火をつけて、香炉前に行って空を仰いで住所と生年月日と名前を伝えて天の神様に祈ること。個人情報必要なのね。なお、このときはまだ香炉に線香を立てず、火の灯った線香を持ったまま寺院の中に入って中央の城隍爺→月下老人(縁結び)の順に3回お辞儀して自己紹介して祈りを捧げる。「まずは中央からです」と順番をやたらと強調されたが、中央の神様を無視して縁結びの神様にしか祈らない人とかいるんだろうか……。右側の部屋に移動した後、義勇公・城隍夫人・観音菩薩にも同様に祈りを捧げ、外に出て、今度こそ香炉に線香を立ててお祈りをする。お茶をいただく習慣があったそうだが、コロナで中止しているため、代わりに、良縁が叶ってお礼まいりに来た人たちが供えていったというお菓子をもらった。金紙を城隍爺前に供え、コインと赤い糸をお守りの中に入れてもらい、最後にそのお守りを香炉の上にかざして時計回りに3度回して終了!

迪化街は問屋街らしく、市場もあり飲食店も多くてにぎわっていた。建物はレトロな洋館風で面白い。「納豆劇場」という劇場があってとても気になった。なっとうではなくなどうと読むらしい。

細い路地を入るとバイクがぎっちり停められていて、鉢植えの観葉植物もたくさん置かれていて、その様子に心を惹かれて何枚も写真を撮った。アーケードのある店や住居が多いので、時折雨がいきおいよく降ってくるとその軒下に入ってしのいだ。傘をささなくてもそれでなんとかなるのだった。
先ほど道に迷っているときに見つけたカフェに入ることに。

エアコンが効いていて生き返ったような気持ち。英語のメニューを見せてもらって、胡麻入りのラテを頼んだ。ほんのり甘くてしっかりゴマの香りがする。

すりつぶした黒胡麻が入っていてコーヒー粉を食べているみたいで楽しい。石川ナヲ『台湾でしたいこと』を読む。旅先で同じ場所を旅した人の文章を読むのはよい。フィクションがさしはさまれ、旅行記と言い切れない不思議な旅行記でおもしろかった。
『レオン』『ブエノスアイレス』のポスターとビカクシダが飾られたおしゃれカフェだった。

しっかり涼んで元気になったので、スーツケースを引いて中山駅まで歩いていく。雨で水たまりになって歩きにくいところが一か所だけあったけれどそれ以外は快適。中山駅からすぐのところにある誠品生活南西へ。日本橋の店舗は好きで何度か訪れていたけれど本場の誠品に来られて感慨深い。酒屋が入っていたので立ち寄ると、ワインひとつひとつについて丁寧に説明してくれた。中国語だから全然わからないのにどんなワインか分かった気がする不思議。酒を飲みたそうな気配を察したのか、ビールの試飲もさせてくれた。汗だくの身体にビールが染みわたる。しかしスペインのビールだったので購入はせず。
2階から4階まで雑貨屋やファッションストアを見て回り、正三角形をいくつもつないだブレスレットに一目ぼれして購入。配色とデザインが好みすぎた。かわいくてうれしくてその場で店員さんにつけてもらう。私がはしゃいでいたら店員さんも一緒に「カワイイ~」と言ってくれた。

5階の書店エリアへ。日本の雑誌がたくさん売られているし台湾の雑誌にも日本語が多く見られる。日本文学は棚3つ分くらいを占めていて、ひとつの棚はほぼ村上春樹だった。山本文緒の本がたくさんあって心がぎゅっとなる。漢字表記のタイトルを見て、だいたいどの本かわかる中で『渦蟲』はなんだろう?と思ったら『プラナリア』でした。

すごくそれっぽいフェアをやっていた

それからホテルの近くの大稻埕魯肉飯へ行ってランチ。

オーダー表で魯肉飯(小)と大根スープにチェックを入れて渡す。「目玉焼きつける?つけるよね?」とチェックを追加される。


喉が渇いていたのでまずは大根スープをすくって飲む。うー旨い。腹の底に染みわたっていくおいしさ。こんなに汗だくなのに温かいスープを飲んでみるみる元気になるのだからすごい。煮崩れず歯ごたえのしっかりある大根がごろごろ入っていて、それも夢中で噛んで食べた。魯肉飯は豚の脂身多め、たれはさらっとしていてぺろりと食べられた。

チェックイン時間より30分ほど前にホテルに着いたけれど、フロントの人が親切に案内してくれた。PC画面でGoogle翻訳でホテルの利用案内を日本語に変換してひとつひとつ見せてくれる。
ホテルの廊下や階段の壁がファンシーでかわいかった。

フロントで「あなたがとった部屋はとっても狭いけれど大丈夫? ちゃんと予約画面の写真見た?」と何度も確認されたけれど、入ってみたらダブルベッドだけでなく小さなデスクもあって、シャワールームも独立していて私にとっては充分だった。
昨晩空港に向かうときからずっと汗だくで自分から異臭がしていたので、即シャワーを浴びる。そして30分ほど仮眠をとった。

夜は九份と饒河街夜市に行くツアーを予約していた。はっと目覚めて、化粧をし直して、慌てて集合場所の台北駅東一門へ向かう。私のホテルはMRTの桃園機場線の台北駅からすぐだったのだが、他の地下鉄路線の台北駅まではかなり距離があった。さっきの地下街を通っていたらまた道がよくわからなくなって焦った。地下街は午前中とは打って変わってにぎわっていたのでそれはよかった。

バスに乗り込む際、これまたひとり旅の女子と隣の席になる。最初だけあいさつをして、特にしゃべったりはせずに過ごした。
日本語がぺらぺらの愉快な現地ガイドさんの九份案内を聞くうちにバスが到着する。夕食付のツアーもあったのだが、茶芸館にも行きたいしこの後夜市もあるしということで夕食なしのプランにしていた。九份の商店が立ち並ぶ路地に向かう狭い階段を登っていくと、階段脇の商店ではジブリグッズが販売され、「千と千尋の神隠し」のBGMが流れていた。そこ、寄せていくんだ……。
まだ空は明るいけれど、ちょうどランタンに明かりがともったところで歓声が上がった。

「千と千尋の神隠し」で湯婆婆の油屋と外観がそっくりだといわれる阿妹茶樓へ。行列が少ないから今がチャンス、とガイドさんに促され、同じツアーに参加していた人たち10人で大きな円卓に案内されることになった。バスで隣の席だった女の子とここでも隣になり、ちょっとしゃべる。運ばれてきたお茶は店員さんによってものすごい勢いでびゃんびゃん淹れられていく。お茶は香りがよくておいしい。落雁に似たお菓子は口の中の水分を持っていく系だった。

階段を上がって商店が立ち並ぶ路地へ。着いてすぐのところにある、ガイドさんがおいしいとすすめていたパイナップルケーキ屋に行ったら試食をすすめてくれて、そのできたてが本当においしかったので購入する。
そのまま右手にまっすぐ進んでいくと展望エリアに出た。空が紫がかっていて、その雲の合間から燃えるような夕陽が見えていて、山影が海に映って、麓の街の明かりも見えて幻想的な光景だった。

たぶん台風の前兆でしたね

紫色の空に赤い提灯も映える。

露店を見て回る。猫や犬があちこちにいた。犬は悠々と店内に寝そべっている。猫はみんな日本の猫よりしゅっとしていて、カメラを向けるとものすごい速さで逃げていった。

バスに戻る頃には空はもう真っ暗になっていた。さっきまでまでお茶していた阿妹茶樓も完璧にライトアップされていた。


ひとりで来たら帰りの交通手段が気になってこんなにじっくり夜の九份を満喫することはできなかっただろう。ツアーに参加してよかった。

夜市に移動する間は隣の席の女の子とあれこれ話した。でも夜市に到着したらさっと別行動。
夜市に入ってすぐ、ガイドさんがチャレンジすべきといっていた臭豆腐を食べることにした。ルーロー飯が好きで、都内でもしょっちゅう食べているのに、せっかく台湾に来てそればかり食べているのももったいないなと思い直した。これまた避けてきた鴨の血も挑戦してみるかということで、鴨血臭豆腐というメニューを頼む。

鴨血はもつとかレバーを食べているときのような感覚。ぷるぷるする。慣れたらきっとおいしいと思う。臭豆腐の匂いはそれほど気にならなかった。もつ煮のような味付けの煮込みで、その香りで紛れたのかもしれない。酒がほしくなる。
少し夜市を見た後、入口すぐの行列している胡椒餅の店に並んで購入する。生地はハードなパンのような食感。あんはねぎと肉のペーストで胡椒がしっかり効いていてとてもおいしい。ずっしり重かったけれどぺろりと食べてしまった。
帰宅して軽くシャワーを浴びてすぐ寝る。

8月3日㈭

途中で何度か目が覚めたけれど、その都度眠りに引き摺り込まれて、計10時間ほどどろどろ眠る。

昨日のツアーのときに玄さんから、台風6号の影響で明日台北市内の店舗は休業するところが多いと聞いていた。そんなに強い台風なの?と半信半疑で外に出たら、ときどき強めの風が吹き、雨がざっと降るくらいで、昨日とそれほど変わらない天気。それでもホテル併設のカフェは休業していた。

雨足が強まる前に、と思って龍山寺駅へ。駅に着いて朝食の店を探す。西園橋下という鹹豆漿の店があり、そこは営業していた。10人ほどの行列ができている。人気店らしい。店の前の路上で酔っ払いが寝ていた。営業妨害すぎる。

こんなに並んでいるのに注文にもたついたら申し訳ないと思い、列に並んでいる間に「鹹豆漿 小&油條 内用」とスマホのメモに打ち込んで、自分の番が来たときに見せた。ちゃんと通じてうれしい。

鹹豆漿は油條がどかどか浮いていた。お酢が入っていないのかいつまでも固まらずさらさら飲めた。手に待った揚げたての油條もすばらしく美味しかった。同じテーブルのおじさんが新聞を読んでいた。

龍山寺は休業していたので門の外から写真を撮った。周辺を散策すると朝市があったので見て歩いた。朝市は通りすぎるだけでも元気になるかんじがする。美観地区のようなエリアがあったがそこも台風休業だった。ここに来てようやく、これ、今日はどこの観光施設に行っても休業しているのではと気付き始める。

煉瓦造りで入り口上にタイルが使われた美しい建物があって、何かと思って近づいてみたら書店だったのでうれしくなる。

コンビニ(セブンやファミマ)やスーパーはやっていたので、観光客向けの土産雑貨屋はやっているかも?と思って、事前に調べていた雑貨屋のある東門駅へ。しまっている店も多かったけれど行きたかった店のひとつは開いていた。

かわいい文具や雑貨やお茶をいくつか買い、これで、帰国してから人にあげるお土産は大丈夫、とほっとする。
この街には傘屋さんがやたらとあって、かき氷の店は行列していた。私が行きたいようなカフェは閉まっていた。

台北101へ。ショッピングエリアは閉鎖されていた。展望台の方に行ってみるもこちらも閉鎖されていた。それも仕方ない。折り畳み傘をさしていると何度もひっくりかえるくらい風が強くなってきた。

おとなしく台北駅に帰ることに。一縷の望みを託して台北駅近くのルーロー飯屋へ行ったらやっぱりしまっていた。近くの麺料理の店はやっていたので、部屋で飲みながら食べようと思って焼きそばを買った。鉄板からとった麺と具の春雨や野菜を厚手のビニール袋にぽんと直に入れていく店員さん。最後にスパイシーオーケー?と言ってピンクのソースをびゃっと袋の中に入れた。私も自炊だと皿使わない系なのでわかります。でもゴミにしか見えないんよ。

ちゃんとおいしかった

ビールとサワー、金門高梁酒、麻辣ピーナッツをセブンで買って部屋へ。

日記と原稿を書きながら飲む。缶二本で猛烈な眠気に襲われ数時間寝る。空港で徹夜したのがこたえている。起きたら全身に湿疹ができていた。

起きてシャワーを浴び、高麗酒を水割りして飲んでまた寝た。

8月4日㈮

朝食はホテルのカフェで。いつもフロントにいる女の人がカフェにいた。顔見知りの人に会った安心感。

魯肉飯じゃない米メニューも食べたいなと思って適当に頼んだら、「唐揚げのせオムカレー」としか言いようのないものが出てきた。

食べてみたら卵の下のライスがガーリックのきいたチャーハンだったので、唐揚げのせオムカレーチャーハンか。それから冷たい豆乳ももらった。甘くないやつ。

昨日に引き続き、朝の龍山寺リベンジ。今日は無事に中に入って参拝できた。

まだ8時台なのにすごい賑わい。教本のようなものを見ながら歌を歌っている人がたくさんいて、ぽわーんぽわーんと聞こえる。一曲終わると次の曲へ。座ってるだけの人も声をそろえて歌っている。床にぺたっと頭をつけて祈っている人も。順番に神様に挨拶。月下老人たちとは2日ぶりの再会だった。

北投温泉へ。最寄りは新北投だったのにうっかり北投駅で降りてしまい20分歩く。しかしここであの有名なルーロー飯のチェーン店・鬍鬚張魯肉飯を発見する。

金沢に店舗があると知っていつか行ってみたいと思っていたけれど先に本場台湾で出会えるとは。開店が11時だったので、温泉に入った後に行ってみることに。

温泉は龍乃湯。水着着用でなく、日本と同じく裸で入る男女別のタイプ。必要最低限の銭湯というかんじ。11時から清掃に入るらしく、その前に着けてラッキーだった。2人先客がいた。

洗い場で汗を流して早速入る。小さい方が熱湯大きい方がぬる湯とあったがぬる湯でも44.2度。ぬる湯とは? 入った瞬間ばちばちに決まり、全身にたまった冷えと疲労がばーっと体から溶け出ていく感覚がある。泉質はかなり刺激が強く傷口にぴりぴり染みる。フロントで顔を湯に漬けるなと言われたのもうなずける。こんな湯が目に入ったら目がムスカになる。

3分ほど湯に浸かってシャワーで水浴びしベンチで休憩を3セット。ごわついて痒みが出ていた肌がぴかぴかのつるつるになった。うちから電車で30分だったら毎週通うが?

鬍鬚張魯肉飯へ。モバイルオーダーをありがたいと思ったのは初めて。写真を見ながら慌てずゆっくり選べるのがいい。トッピングなしのルーロー飯小と、四神湯という薬膳のスープを注文する。

魯肉飯はしっかり八角が香って甘く、豚の顎肉がとろける味わいでおいしい。スープも薬膳独特のいい香りがしてハト麦や豚のホルモンがたくさん入っていて夢中で食べた。蓮の実と山芋がほくほくしておいしかった。

市街に戻るMRTで爆睡した。華山地区という最近できたらしいおしゃれタウンに向かう。青い鳥というブックカフェへ。エアコンがない中、アイスコーヒーを飲んで本に囲まれてぼっとする。ガラスのストローがカラカラ鳴って風鈴みたい。本を鳥に見立てて天井から釣るのはどうかと思う。

もう買い物はいいやという気持ちになり、せっかくだから占い街に行くべきでは、と思い立って行天宮へ。占いの前にちゃんと参拝もする。みんな地面に置かれた台にひざまずいて額と両手をつけて祈りを捧げていたので、私もやるか、と思ったら、スタッフの人が実演しながら英語で説明してくれた。
この旅の間中、私が何か人に尋ねたり助けを求めたりする前に現地の人が近づいてきて助けてくれたりあれこれ教えてくれていた。「困っている人がいたら助けましょう」みたいな教えは日本にもあるけれど、こちらの人たちは困っていそうな人を見つけて親切を行動に起こすまでの時間がとにかく短いと思う。

教わった通り、頭を3度床につける礼拝を3セット、それを全ての神様に向かってやった。

行列に並んでお祓いもやってもらう。名前を言って線香の煙を体中に当ててもらう。「アタマ」と言われて首を垂れると頭の上で線香を回す。
拝観料もないのに、お祓いもただでやってくれるのすごい。

それから地下の占い街へ。日本語が話せるおじさんにブースに招き入れられ、全部乗せプランの法外な値段を請求されるも、手持ちの現金が全然ないのでことなきを得る。あーそれしかないならそれでいいわ、というかんじで手相を見てもらった。あなた真面目ね。彼氏いないの、ほしいでしょ?と言われて、おお、またそれ来たか、という感じ。

ガイドブックに載っていた茶芸館に行きたくて忠孝復興駅へ。しかしその店に行ってみると、超高級茶葉を売っているだけでティールームは見当たらず。中山駅まで歩いて三越のカフェで台湾茶のミルクティーを飲んだ。

それからクラフトビールが飲めるという61noteへ。歌薫というすてきな名前のクラフトビールを飲みながら、太田明日香『言葉の地層』を読む。言葉のわからない旅先で読むのにぴったりで我ながらいい本を持ってきた。

それからまた歩いて寧夏観光夜市へ。まだ明るいけれど人で賑わっていた。

端から端まで歩いて、排骨と水餃子を買う。歩きながらソルトペッパー味の排骨をふたつみっつつまんで食べた。コンビニで台灣ビールのクラシックも買って部屋に戻る。

ホテルの近くに、ラウンドアバウトのように円形に見える交差点があった。Googleマップでいつもこの交差点を目印にしていた。旅の間中いつも、ここまで歩いてくれば、すぐに泊っているホテルにたどり着けるという安心感があった。
と思ったらその交差点で曲がる方角を間違えてホテルが遠ざかる最終日の夜。

ホテルで酒を飲んで排骨と水餃子を食べる。

シャワーを浴びて早く寝ようと思ったら全然寝付けず。初日の徹夜が響いて体内時計がおかしくなっている。2時頃までミシェル・ウエルベック『服従』を読んだ。

8月5日(土)

日本に帰国する日。最後の朝食なので、ホテルのカフェでないところで食べたいと思い中山駅の方に歩いて行く。『台湾の朝ごはんが恋しくて』に載っていた店が近所に二か所あったのだがどちらも休みだった。そこで、さらに歩いていって同じ本に載っていた可密達Comidaへ。ダブルチーズのサンドイッチ・卵半熟と紅茶を注文する。炭火で焼いたパンととろけてはみ出る二種類のチーズ、とろんとろんの半熟の卵とほんのりレモンの風味がさわやかな豚肉。ものすごく美味しかった。

帰りに雙連朝市へ。ここまでの旅程でかき氷やタピオカなどのスイーツもフルーツ類も全スルーしてきてしまったなと思い至り、朝市で50元で売られていたカットパイナップルを買った。さらに、朝市のそばのお粥の店で全部のせの粥も買った。ホテルの部屋に戻って二度目の朝食。まずはお粥、ピータンとしらすとピーナッツと挽肉餡と肉でんぶがのっていて、ドライセロリもトッピングしてあって、なんだその不思議な組み合わせは、と思ったけれどどこをとって食べてもとてもおいしい。


パイナップルはあまり得意ではなくてビュッフェなどでも滅多に食べないのだけれど、歯の隙間によく挟まる筋々したところがまったくなくて甘くてとてもおいしかった。

食べすぎて案の定お腹を下したけれどもう帰国するだけだからいいのだ。

スーツケースをパッキングして部屋を出る。フロントには誰もいなかったから併設カフェのほうに顔を出したらいつものあの人がいた。カードキーを返してチェックアウトを告げる。シーユーバーイ、と言って彼女は私のリュックの背中を軽く触った。私はこの旅で初めて「再見!」と口にした。再見台北!再見!

駅に向かう。毎日歩いてさすがに慣れた地下通路をスーツケースを押して歩く。今は薄暗いけれど、11時には店が開店してエアコンも入って人でにぎわうことを私はもう知っている。桃園空港行きのMRT乗り場を通り過ぎて、まっすぐ進んでいく。駅の中にある盲人マッサージを受ける。私が膝丈のワンピースを着ていたので、目の見える案内女性が緑色の布で足をぴったりくるんでくれた。

足つぼ30分400元。激痛というほどではないがごりごりと痛い。施術者から見えないのをいいことにめいっぱい顔をしかめる。終わったら足がほかほかした。終わって施術者に1000元を渡すと、500元と100元を左右のポケットから出して渡してくれた。
予定通りの時間に空港に到着。免税店も土産屋も見る気がせず、お腹もいっぱいだったので、搭乗開始まで待合席でじっと日記を書いていた。
飛行機が離陸するときにまた急激に眠気がやってきて爆睡してしまう。これ、気圧の関係なのかな。高度が上がり切ったところで起きて機内でミシェル・ウエルベック『服従』を読んだ。読後感が『一九八四年』と同じやつだった。

成田空港に到着。税関を抜けるとTが迎えに来てくれていた。海外旅行から帰ってきて、こうやって迎えられるのはいいものだ。成田エクスプレスで缶ビールで乾杯して、品川駅アトレのメキシコ料理屋に行ってナチョスで赤ワインを飲んで、帰宅。

家に帰ったら、家の床に何もものが落ちていなくて、掃除機もかけてあって、ふだん家に帰ったときより明るい気持ちになる。疲れもちょっと抜けた気がして、出発前に必死で片づけた私グッジョブ、と思う。きれいな床でうたた寝した後、風呂に入ってちゃんと寝た。

日記を読んでくださってありがとうございます。サポートは文学フリマ東京で頒布する同人誌の製作(+お酒とサウナ)に使わせていただきます。