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きみどり色の薔薇

5月30日(火)

「会話をしただけで『頭が悪い人』だなと感じる相手の特徴」というツイートが回ってきて、そこには、唐突な固有名詞の登場、時系列で話したがる、複数の問題を潜在させる、などの項目が挙げられており、それを読んで、自分の日記も含めて、世にあふれるほとんどの日記はこれにだいたいあてはまるのでは、そしてそれは会話であっても文章であっても別に必ずしもマイナス要素になるわけではないのでは、という気持ちになった。医師と患者とか、店員と顧客とかの間でなされるような問題の解決をめざす会話において、ということなのかな。

今日も、唐突に固有名詞が登場し時系列でだらだら語り複数の問題が潜在するも特に何が解決に向かうわけでもない、つまりいつも通りの日記を編集して公開する。

5月31日(水)

出張で千駄ヶ谷へ。イベントのときに人疲れしてトイレに籠る癖、学生時代から変わらないなあ、と思いながら本日トイレに籠った時間、累計70分ほど(体感)。
夜はロッキーと新宿で飲む予定で、仕事が早めに終わったので歩いて向かうことにした。新宿御苑の外周をなぞりながら住宅街を歩いていると、ランニングしている部活ユニフォームの若者と沢山すれ違った。新宿御苑内の水色や紫の紫陽花を高いフェンス越しに見る。御苑の敷地内に植えられているのにフェンスの外を向いて咲いていたのだ。
しばらく歩くと高島屋のある大きな道に出る。オフィスビルの看板にキーマネジメント、という文字面を見てキーマカレーと空目する。

伊勢丹会館三階の串揚げ屋・串の坊へ。席でロッキーと合流する。出版決定おめでとうと言ってもらってうれしい。
たれや塩をのせる皿が細かく仕切られていてどこに何を入れていいやらとても迷う。

串揚げはお任せでどんどん運ばれてくる。

蟹の鱚巻きという串があり、鱚という字が読めなくて、なんの魚だろうねと言い合い、でも喜という字が入っているからおめでたい魚なんじゃないかなと思う。蟹の鱚巻きはふわふわと淡白ながら上品な味でおいしかった。鱚はきすだった。

6月1日(木)

最近また眠りが浅くて、2時頃はっと覚醒する。スマホを見たら「武塙通信」が届いていて、それを読んでああ、いいなあと思ってまたすうっと眠った。

今日は休みだ。でもいつも通りに目が覚める。通販や書店の発送作業をする。天気がまあまあよかったので、ベッドリネンの洗濯をして、冬用布団をしまうために干す。部屋の散らかりもほんの少しだけ片づける。
家事は祈りだ。私は祈る。私は家事が本当に苦手なので、時間と気持ちに余裕があるときしか祈れない。祈れるときに祈っておく。今晩の私が洗いたての布団で中途覚醒することなく眠れますように。明日の私がたまった洗濯物や食器を見てどんよりしなくてすみますように。

水色の単衣を着つける。帯は母が譲ってくれた夏用の作り帯にする。台紙が縫い付けてあったから一度も使っていなかったみたい。作り帯、楽ちんですばらしいな。
ずっと行ってみたかった、ときわ台の本屋イトマイさんへ。こだわり抜かれた美しい内装であることはネットで写真を見て知っていたけれど、実際に足を踏み入れたそこは心地よく静謐で想像や写真をはるかに超えた素敵な空間だった。そんな本屋さんに自分の本が何冊も並んでいることがしみじみとうれしい。ZINEのコーナーの上のほうのとても目立つ位置、大好きなくどうれいん『わたしを空腹にしないほうがいい』の横に、私の『ごはん味噌汁卵焼き』があって思わずじいっと眺めてしまった。

近くに武塙さんの『酒場の君』もいました!

私の手を離れて、こんなにすてきな場所にやってきたんだね。そこから誰かの手に渡っていくんだね(渡っていきますように。ぜひとも渡っていってください)。
本の雑誌編集部編『本屋、ひらく』を購入し、ドライフラワーと観葉植物がいっぱいの居心地いいカフェスペースにお邪魔して、早速イトマイ店主の鈴木さんの章を読む。高円寺のR座読書館の話が出てきて、私も好きなのでうれしくなる。
カフェでは、プリンと悩んだ末あんバタートーストと深煎りの珈琲を注文した。さっくりしていて単体でもおいしい厚切りのトーストにたっぷりのあんことバターがのっていて幸せな気持ちになる。

帰宅して原稿を書き、野菜を煮て食べる。そして、双子のライオン堂さんのオンライン読書会「岸波龍と読む『富士日記』の一年」に参加。一回の指定範囲が100ページほどで、今日は第一回なので上巻の冒頭部分の話。自分がまったく注目せずに読み飛ばしていた部分についてもいろんな話が聞けて面白かった。自分がうんこの出てくるシーンの話と飲酒シーンの話ばかりしていたことをとても反省した。

夜、なかなか寝付けず。むっくり起き出して奥山さと『ロビン』読了。ネットで読んでいた文章も多かったけれど紙の本で読めてよかったと思う。わかしょ文庫『うろん紀行』についての論考などなど。

6月2日(金)

仕事。「あ、こないだ泣いてた人だ。俺だって泣きたいよ」と、通りすがりに聞こえるように言われて苦笑する。まあ、私が仕事中に泣いてたのは事実だしなあ。こちらが動揺するのを面白がりたくてそういうことを言ってくるのだと思うので、何も対応せずにやりすごす。
これまでの人生、いくつもの所属コミュニティで、嫌われたり馬鹿にされたりしてきた。慣れているので、別にそれで落ち込んだりはしない。自分を肯定してくれる人、誠実に向き合ってくれる人を大事にする。そして、いずれ必要に迫られたときには自分を損なうものと徹底的に闘う心の準備をしておくだけのことだ。

雨の中、さっさと帰宅。小松菜と冷凍の鮭と生姜とネギをスープにする。小松菜の茎を切り落とすと断面が薔薇みたいに見える。きみどり色の薔薇。

原稿を書くつもりだったのに、取り扱い書店一覧を更新してツイートしたり発送作業をしているうちに夜になってしまう。ひどい雨だけど意外と体調は平気だなと思ったら、夜になってから一気にだるくなった。風呂上り、気づいたら床で30分ほど気を失っていた。

6月3日(土)

土砂降りの中、昨日に続いて、仕事着のワンピースを持ってジャージに素足で出勤。
通勤中に通りかかるビストロの店頭に置かれた植木鉢を見たら、雨粒が小さい針のような葉のひとつひとつの先端にくっついてビーズ飾りのようできれい。
職場に着いてみたら、エコバッグに入れて手に提げていたワンピースが雨でしっかり濡れていて、結局、しっかり濡れたジャージからしっかり濡れたワンピースに着替えることになった。無意味!

ここのところ、職場で人に悪意をぶつけられることが多いので、Twitterに上がっている自著の感想を見ると、「あっれれー、おかしいぞ。誰も私のことを悪く言っていないや」とつい思ってしまい、とにかく気持ちの寒暖差が激しい。温かい感想を寄せてくださったみなさん、本当にありがとうございます(もちろんこれは別に、ネガティブな感想を書かないでほしいという意味ではないです)。
寝ているときと人と飲んでいるとき以外少なくとも30分に一回はエゴサしているけれど、自著の感想ツイートを見つけてもしばらく時間をおかないとRTできない。パンを焼く前に寝かせるように、うれしさをじっくり発酵させている。

仕事を適当に進めて、帰宅して書店発送と原稿をやる。
レイトショーで「劇場版 優しいスピッツ」を観に行った。

WOWOWの放映も友人なこったーが録画してくれて観ていたけれど、映画館だととにかく大画面で音響もいいので最高。WOWOW放映後に収録した松居大悟とメンバーの座談会もよかった。マサムネは最後に部屋から退出するときに一人だけ座っていた椅子を丁寧にしまっていた。好き。
深夜に原稿を送る。

6月4日(日)

朝は日記の編集作業。昼過ぎに水色の単衣を着付けて、ビールと枝豆柄の帯を締めて家を出る。別の着物を着るつもりだったのだが、初めて広げてみたら、単衣だと思っていたそれが秋冬物の羽織だと判明したのだ。無知と思い込みってこわい。
着付けが完了したので江古田に向かう。江古田の百年の二度寝さんで「三酒三様」フェアを開催してくださっているのだ。途中でどうしても江古田シャマイムのファラフェルが食べたくなり、百年の二度寝と反対側の出口へ。ランチタイム終わりかけの時間でもとても混んでいて賑やか。無事に座れたのでファラフェルランチを食べた。小サイズでもベジタブルでも充分にお腹いっぱいになる。ピタパンもひよこ豆もお腹にたまる。

百年の二度寝さんに着いて河合さんにご挨拶。入ってすぐのところにある「三酒三様」フェアのブースを生で見て感動する。お客さんが途切れた時間にいろいろとお話しする。商業出版の件でも温かい言葉をかけていただく。
私にとって百年の二度寝さんは、様々な本や人との出会いをもたらしてくれる場所だ。思えば浅沼さんの『かわいいワンカップ手帖』を初めて手に取ったのもこのお店だった。それで読了ツイートしたのがきっかけで浅沼さんと相互フォローになって、浅沼さんが文フリに遊びに来て、武塙さんと私と三人で飲みたいと言ってくれたのだ。そう考えると、『三酒三様』という本がこの世に生まれたのも百年の二度寝さんのおかげである。

ふらりと入ってきたお客さまが、三酒三様フェアを眺めて、店内を一通り眺めて、それからまた三酒三様フェアの前に立った。私は別の棚を見ていたのだが、河合さんが「その本とっても切なくて良い本です」とその方に向かって言った。そのフェアに並んでいる本の中で切なさを前面に出した本なんて『恋の遺影』一冊しかないじゃないか!!
しばらくしてその人は『恋の遺影』をレジに持って行ってくれて、私はものすごくあわあわした。実はこの方が著者で…と河合さんが紹介してくれて、あわあわとお礼を言った。その人も困っただろうと思う。でも実際に人が自分の本を買ってくださる場面に居合わせることができたのはすごく幸せだった。
フェア特典のおつまみおみくじも引かせてもらってうれしかった。

河合さんにおすすめしてもらった江古田のカフェへ。コーヒーを飲むつもりだったけれど喉が渇いていたのでついうっかりハイネケンを頼む。さっき買ったばかりの『マッカラーズ短篇集』を読む。最初の中編からもうめちゃくちゃに面白い。

6月5日(月)

休日出勤して愛想を振りまくお仕事。無難に終わってほっとする。さっと退勤して高円寺へ。ちんとんしゃんというお店で、ふしぎちゃんと、ふしぎちゃんの同僚の酒好き女性と飲む。初めてお邪魔したこのお店、お着物を着た店主さんも、常連さんも本当にすてきで最高だった。
瓶ビールを飲み終えて山形正宗夏ノ純米を出していただく。

「草野正宗が好きなのでうれしい」と言ったら「楽器正宗」「山形正宗」もあります!と言ってくださったので両方飲んだ。楽器正宗ずっと飲んでみたかったのだ。

初対面のふしぎちゃんの同僚女性といろいろ共通点があってびっくりした。また会いたい人、また行きたい店ができてうれしい。なお帰宅時の記憶はまったくない。

6月6日(火)

明け方目覚めて風呂に入る。風呂で2時間ほどぼーっとしてから出社。ぼーっとしたまま午前の仕事をこなし、少ししゃっきりしたので午後はちゃんと愛想を振りまいた。

夜、日記を編集してアップする。

6月7日(水)

仕事で意味不明クレームを受けてヒャッハー(虚無)になる。私に対するクレームではないが私が受けたので私が報告書を書く。

退勤。T氏とおしゃれ焼き鳥屋に行ってお任せコースを食べる。前菜の茶碗蒸しがおいしい。塩とたれが交互に出てくるシステムだったけれど飽きが来なくていいなこれ。ワインが進む。

〆の坦々麺も美味しかったです。

二軒目、いつもの餃子屋。お腹空いてないと言いながら餃子を過半数食べる私。

6月8日(木)

仕事。とにかく体がだるい。何もする気が起きない。夕方退勤して原稿を書こうとするも全然進まない。
夜、汗を流せば気分転換になるだろうとキックボクシングのレッスンに出かける。小雨が降っていたので、レッスン中に汗を拭く用のタオルを頭からかぶって歩いた。あれ、今私ボクサーっぽくない?と思った。

6月9日(金)

雨のせいかとにかくだるい。夕方イレギュラーな仕事で金を稼ぎ、すぐ帰るもだるすぎて原稿できず。延々横たわってTwitterを見ていたが、こういうときには無理に何かを為そうとしないで、読めないなりに読めるものを読み、書けないなりに書けるものを書けば良いのではと思う。
そして『犬々ワンダーランド①』を読む。けらけら笑ってずいぶん元気になり、その後原稿の元になりそうな文章も書き進められたのでよかった。

6月10日(土)

自分の意見を表明する女に対して、とりあえず攻撃したり茶化したりしないと気が済まない人って本当にいるんだよね。ということを仕事中に思い知らされてどんよりする。

どんよりしながら退勤。渋谷ヒカリエに向かう。ばさばさの髪をハーフアップにしていたから耳に何かぶら下げたくて、ぷらぷらと長方形が揺れる金色のイヤリングを購入する。トイレで早速装着してから、四階テラスで開催されているポエトリーブックジャムに向かう。本屋さんや出版社さんのブースをじっくり見てあれこれお買い物。知っている方にご挨拶して色々しゃべる。混みすぎていない野外の文フリみたいで楽しかった。
その後ポエトリーリーディングのアーティストライブを観る。仕事で、人の言葉を受けとる気のない人たちに辟易していたタイミングだったので、私は受けとらなければ、とものすごい集中力で観た。
こういうイベントは生まれて初めて。バンド演奏と詩の朗読が一体化していてすごい!と思う。

宮尾節子さんの「女たちよ」すばらしかった。最初のMCの、控えめにお話ししていらっしゃった雰囲気から一変、いざ詩を読み始めたら佇まいも声もそして詩の中で繰り返される呼びかけも最高にロックでクールで。詩集を買おう。それにまた宮尾さん自身の朗読も聴きに行きたい。
それからトリの向坂くじらさん。白いワンピースをふわっとさせてステージに駆けこんできた瞬間からエネルギーに溢れていた。命は自分だけのものではないという詩のなかの言葉、命が美しいなんて当たり前のことを言い直さなくてはいけないような状況がおかしいというMCの言葉がずんと胸に大きな二つの塊としてのしかかってきて気づいたらばーっと泣いていた。私は今日もハンカチを持っていなくてそのままマスクに涙が吸われていった。
イベントが終わると喉はからからで空腹でふらふらだった。そういえば昼を食べていなかった。でも久々に体の内側からふつふつと力が込み上げてくる感じがあって、帰宅してばーっと原稿を書いた。

日記を読んでくださってありがとうございます。サポートは文学フリマ東京で頒布する同人誌の製作(+お酒とサウナ)に使わせていただきます。