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夏でも冷たい飲み物は飲まないとか、必ず湯船に浸かるとか、そんなマイルールは捨てちまいな

7月21日(木)

ワクチン接種後の痛みが続く左腕をかばいながら10時頃まで眠っていた。起きると左手指の先がじわあっとしびれていた。二日酔いのときと同じ症状じゃないか。

オートミールを切らしているので、レタスをちぎり、だいこんをおろし、ちくわをキッチンばさみで切り刻み、にんじんおろしドレッシングをかけたサラダを食べる。あとヨーグルト。

12時頃にのろのろと出かける支度をする。積ん読はたくさんあるけれど、本屋に寄って松田青子『女が死ぬ』の文庫を購入し、丸ノ内線に乗り込む。昨日の「プロミシング・ヤング・ウーマン」のことを考えていたらどうしても今買って読まねばという気になった。というか『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』もそうだけれど、どうして刊行から今までスルーしていたのか。しかし、読もうという気になって手にとって読んだときこそが、自分が読むべきときなのだろう、ということはいつも感じている。

中野富士見町駅で下車し、住宅街の中のギャラリー・ニュースタアに向かう。道に迷って炎天下その区画をぐるぐる歩き回ったので、溶けてバターになるかと思った。

イラストレーター・いとうひでみさんの個展「spece」にやってきた。去年の文フリでお話しさせていただいて、Twitterをフォローしたらイラストの色使いと、描かれる女の子の服や表情がすてきで、絵を生で見たくなったのだった。

ギャラリーにはご本人もいらして、いろいろ話をうかがえた。ある絵について、「この女の子はどうして膝を抱えているんでしょう」ときいたら、いとうさんが確定申告前に描いた絵だと教えてもらって、その気持ちがわかりすぎるくらいわかった。作者の状況を教えてもらってから絵の女の子を見ると、またあれこれ想像がふくらんで楽しい。
まっすぐ前を向いた女の子の絵が二枚並んでいて、ふたりは姉妹のようによく似ていた。全部の絵を何度かぐるぐる見た後、そのふたりの前に戻ると、よく似た雰囲気だけれど少し違う色のメイクや服をまとって違う表情をしていた。私が彼女たちを見ると同時に、私も四つの瞳に見られている。

ちょっと考えて、紫の服をまとった右の女の子に「私のうちに来る?」と問いかける。本当は「この子と友達になりたい」と思ったのだけれど、時間をかけないと友達にはなれないと『星の王子さま』のキツネも言っていたので。
幸せなことに、私は本当にその絵を連れて帰れることになった。新居の、自分好みにリノベーションしたお気に入りの場所には、すきな絵を飾りたい、と思っていたから、それが叶うことになってうれしい。いままでもこれからも同居人やペットは必要ないと思うけれど、元気な植物と素敵な絵は、私と同じ空間にいてくれたらいいと思う。

きらきらで見る方向によって絵柄が変わるポストカードとZINEも購入。

ギャラリーを出て、荻窪方面に向かうため今度は中野新町駅に向かう。丸の内線の、新宿で分岐した先がどうなっているのか、いつまでもよくわからない。
荻窪駅に着いて北口を出て、行ってみたかった本屋Titleに向かうべく、道なりに15分くらい歩いた。日陰がない。全然ない。

いろいろなZINEのある本屋さんで、『わたしが部屋にいるときは』を発見した。好きな書き手の方たちが参加していて、文フリのときから気になっていたのだけれど、著者紹介に中神円の名前があるのを見て、羽田圭介との惚気が書かれていたらどうしようと思ってしまい、手にとるにいたらなかった(ほんとうにすみません)。しかしそれから二ヶ月経ち、わたしもいろいろなことがあって成長したので、今日は手に取りレジに持って行くことができた。友人に読むと約束した山崎ナオコーラの新刊も購入。

レジ奥のカフェスペースで念願のフレンチトーストを頼む。トッピングのアイスものせた。友田とん『パリのガイドブックで東京の街を闊歩する』でによって、ここのフレンチトーストはなかなか食べられないものという印象が埋め込まれていたので、10分ほど待っただけであっけなく目の前に現れて驚いた。そして厚さとふわとろ加減に驚いた。


飲み物はアイスコーヒー。私はお腹を冷やさないために「夏でも冷たい飲み物は頼まない(酒以外)」というのを信条に生きてきたのだが、今年の夏は暑すぎるし私も年をとって丸くなったのでそんなマイルールはもうどうでもよくなった。
円筒型のガラスのグラスをもたげると、大きな氷がからから回る。涼しげな音。喉を通り抜ける冷たくてほろ苦い飲み物。真夏のアイスコーヒー、最高じゃないか。

帰宅して日記を書いてアップする。昨日寝過ぎたせいで夜はうまく寝付けず。あんなに話題になっていたのに買ったきりなぜか読むタイミングを逸していた『掃除婦のための手引き書』を読み始めた。真夜中にパックライスをあたためてとろけるチーズと梅干しを混ぜ込んだものを食べたら、ちゃんと眠くなったので寝た。


7月23日(金)

昼夜逆転するのがこわいので無理矢理8時前に起きる。明日は出勤する予定なので、今日は夏休みらしく愉快に過ごしたい。足裏のマッサージをしながら公開中の映画リストを眺めて何を観るか考える。

400g入りのヨーグルト、残りわずかだったのでパックからそのまま食べた。

日比谷で「17歳の瞳に映る世界」を観ることゆ。望まない妊娠をしたハイティーンの主人公が、いとこと一緒に長距離バスでNYに向かう。静かな映画で、いとこに対しても家族に対しても病院の問診やカウンセリングでも、主人公は最小限の言葉しか発しない。そんな主人公が、冒頭の学園祭かなにかのステージと、終盤バスで出会った男と三人で入ったカラオケでの二回歌うのだけれど、その歌に彼女の内側におしこめた感情があふれていてものすごかった。NYの病院のカウンセリングシーンで原題(Never Rarely Sometimes Always)の意味が明らかになるところで泣く。原形をとどめない、ゆるふわな邦題に腹が立つ。
手をにぎったり指をからめたりという動きを丁寧に撮っていたところがとてもよかった。
主人公が初めに訪れた地元の婦人科医の対応が本当にひどくて、でもたぶん日本でも同様の状況で(もっとひどいかも)、本当にしんどい思いをしている若い女の子が一人で苦しまずに適切なケアを受けられるようになってほしいと思う。

映画を見終わって赤坂に移動する。発酵食品を扱う定食屋でランチをしようと思っていたのだけれど、看板もなく店の中は何もなくなっていて、どうやらつぶれてしまったようだ。休日営業している店が少なく、しばらくうろうろした末「四川担々麺 赤い鯨」という店に入った。汁なしの担々麺を食べようと思ったのだが、結局くだいたナッツとパクチーに惹かれてあじあん濃厚まぜそばを食べた。

濃厚なつけだれが太めの麺によく絡んでおいしい。しかし、担々麺を注文して待っている人がみんなすり鉢を渡されて麺にトッピングするすりごまを作っていて、それがなんとも楽しそうでちょっとうらやましくなる。私もゴマすりたかった。

お腹いっぱいになって本屋・双子のライオン堂へ。久々の訪問だ。長々と店内を見て、本を一冊だけ購入する。ほかにも気になるものはたくさんあったのだけれど、自著を持ち歩いていたので荷物が重かった。

店を出る。夕方になってもまだ暑い。西陽をよけて帰り道に見つけたSeta.Akasakaという店に逃げ込むと、バーのようなレストランのようなカフェのような不思議なたたずまい。「大人のクリームソーダ」を頼む。三種類味があるうち、バタフライピー&シトラスを選んだ。

いつのまにか、紫色がすごく好きな色になりつつあることに気づく。上にのっているのはバニラアイスではなくレモンソルベ。どこまでもさわやかでさっぱりした味。夏だ。これこそ夏休みを満喫している感だ。
クリームソーダをすすりながら、家から持ってきた井口加奈・いとうひでみ『新しいドレッシング』読了。

帰宅して洗濯をする。久々に風呂に湯を張って入浴剤を入れて入った。私は、夏ばてと肩こり腰痛を予防するべく「夏でも必ず湯船に浸かる」を信条にして生きてきたのだが、このクソ暑いのにそんなこと言ってられるか、そんなマイルールは捨てちまいなということで、ここ一週間ほどはシャワーで済ませていたのだった。

風呂と洗濯を済ませて、あれの開会式を見る。ひたすら長い。地べたに座り込んだり飽きて自撮りしたり偉い人が話している後ろでジャンプしたりしている人たちの気持ちがよくわかる。紅白と同じく、テレビよりTwitter実況の方がおもしろいけれど、それをネタにおもしろがっていてはいけないのではとも思う。始まってしまえば熱中するとか感動するとかそんなことはない。おかしいものはおかしい。と思いながらも最後まで見て、終わってすぐ寝た。


7月24日(土)

七時半に起きて、出社するべく支度をする。しかし家を出る直前に通り雨が降り始めた。かなり勢いが強い。仕事行きたくない、と思うも今日は絶対行かなくてはならない。なぜなら、前回月曜に出社したときに家から持って行ったバナナ一本をオフィスの冷蔵庫に入れて、食べるのを忘れて帰ってきてしまったからだ。これ以上置きっぱなしにしていたらそろそろ腐るかもしれない。
よりによってなんで今スコール。空は晴れているのに。天気予報でも雨マークなんてないのに。日傘を持って行くか雨傘を持って行くか悩み、すぐやむことを見越して日傘をさして行く。晴雨兼用でない日傘なので、通り雨を浴びているうちに布地に水がしみこんできてひやひやした。

職場についてすぐ冷蔵庫を確認すると、バナナは無事だった。よかった。おやつに食べた。

午前中がっつり働いて退勤。T氏と合流して飯田橋サクラテラスでビリヤニプレートを食べた。

帰りに、お世話になった人に贈る焼き菓子ギフトを買うべく近所のケーキ屋へ。ものすごい人気でいつも行列している食べログ百名店的な店。自分でここのケーキを食べたことがなかったので、ギフトと一緒に自分のケーキも買おうと思い立つ。ショーケースに並んだ美しいケーキたちの中からショコラトラディショナルを選んだ。

帰宅して、彗星読書倶楽部さん主催の読書会にZOOMで参加。課題図書はサン=テグジュペリ『夜間飛行』。これを機会に初めて読んだ。ほかのひとの話を聞いているうちに、一人で読んでいるときには自分がまったく気にかけていなかった部分に目が向いたり、登場人物に対する見方が変わったりするのがとてもおもしろい。主催の森さんに当てられて発言することが多かったので、大学のゼミ形式の授業を思い出して少しどきどきした。やはりオフラインの方が気軽に発言できる。
読書会を終えてお風呂に入ったあとまた読書。『掃除婦のための手引き書』を読みきった。波瀾万丈な人生を送った作者が実体験を元にして書いた短編小説集で、エッセイや自伝とも違うオートフィクションというジャンルらしい。どの短編も観察眼とユーモアが素晴らしいのだけれど、私は特に、末期ガンの妹サリーとの交流を書いた作品群と、掃除婦として住人が死んだ家の片づけをする「喪の仕事」、刑務所内の文芸クラスが舞台の「さあ土曜日だ」がとても好きだった。本当に、なんで今まで積んだまま読んでいなかったんだろう。でもやっぱりきっと、今初めて手にとったのは、きっと今の私に必要だったからだ。
私は今、小説が書きたい。

気づけば夜だったので買ってきたケーキと紅茶を夕飯にすることに。貴族っぽい! ショコラトラディショナルって名前も相まって余計に!

光沢のある表面にうっとり。シンプルなチョコレートのケーキだけれど、お酒の香りがふんわりとただよってきて、甘すぎずしっとりしていてとてもおいしかった。
日記を書いて、就寝。



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