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100%アイドル、そして炭酸泉で僕を愛撫

8月4日(日)

旅行三日目、朝7時頃。あげは嬢宅の客間で寝ていたら、起きだした一歳児が私の布団にやってきた。昨晩遅くまで飲んでいたのでまだ眠い。一歳児を抱っこで捕まえていっしょに寝ようとするが、寝たくない様子ですぐ立ち上がってぴっと居間の方を指さすので、手をつないで一緒に居間に行ってローテンションで一緒に遊ぶ。すぐに飽きて客間に戻ると、今度はタンスをぴっと指さす。引き出しにはベビーガードがついているし、人の家のタンスを勝手に開けるわけにもいかないので「ダメよ」と伝えると、みるみるうちに目から大粒の涙をこぼした。まだことばを喋らない一歳児の、意思を伝える力、すごい。こちとらことばらしきものを使い始めて三十年以上経つのに、どんなに言葉を尽くしてもこの子の三分の一も自分の思いを伝えられている気がしない。ぬいぐるみなどの子供だましでなんとかなだめようとしているうちに猛烈に眠くなってそのまま二度寝した。ほんとごめん。

十時頃起き出すと、あげは嬢がガラスのコップに入った麦茶を出してくれる。一歳児は自分のストロー付きコップそっちのけで、ガラスのコップを小さな手ではさんでゆっくり飲もうとしていてかわいい。

朝ごはんにはトーストとブラックコーヒーを用意してくれて至れり尽くせり。あげは嬢は婦人会のごみ分別という昭和の遺産的会合に出かけていったので、その間一歳児とパズルやブロックで遊ぶ。パズルに描かれた動物やカラフルなブロックを次々に指さすので、私はその都度動物の名やブロックの色を答えていく。動物をひとしきり指し終わると必ず父親を指さすので、一歳児にとってはパパも動物と同じくくりらしい。

一歳児が自分の小さな口元に小さな人差し指を向ける。私は頬を触りながら「○○ちゃん!」と答える。

次に私のことをじっと見て指さす。じっと見返して「ぐりちゃんだよ」と伝える。

あなたは誰。私は誰。あなたはここ。私もここ。それを確認しあうだけの原始的なやりとりを途方もなく幸福に感じる。飽きるまで繰り返す。

この子のことはまだあげは嬢のお腹にいるときから知ってる。いわばオタの中でも最古参である。生まれたての写真を見た。生後一ヶ月には会いに行った。そうして定期的に写真を送ってもらったり年に何度も会って抱き上げたりしていればどうしたって愛着はわく。やっぱり、存在してくれて嬉しい。どんどん大きくなっていくのが楽しみ。まじで推し。何の責任もないからこそと言われればそれまでだが、見返りも特にいらないしこんな風に育ってほしい的な期待もなく(自分の子でもそんなの押しつけたくないけど)、無条件に愛して見守れる存在がいるのは幸せなことだなと、親しい友人や弟の子に会う度に思う。
全然覚えていないけれど、自分だって子供の頃は、そうしてたくさんの人に愛されて見守られてきたのだろう。ありがたい。おかげでぐりこはここまですくすく育つことができました。もうすぐ三十二歳になります。

あげは嬢が婦人会から解放されて帰ってきた。しばらくするとTIFのハロプロ研究生のステージが始まるというのでみんなでテレビで見た。誰のことも知らなかったのだけれど、ステージに立った五人はみんな激しく踊るし顔かわいいのに大人っぽい声で歌うしお腹はきゅっと締まってるしそして何よりめちゃめちゃきらきらしていて本当に最高だった。曲の途中で一歳児が遊ぼうアピールをしてきたけれど「ごめんちょっと待って!」とふつうに言ってしまった。いやほんと推しごめん。

腹の中にいるときから知ってる友人の子の最古参オタになる話とのつながりで考えると、ハロプロも研修生推しの人の気持ちはわかりすぎるくらいわかってしまう。わかるよ、卵から成長見守りたいよね。ってか研修生の段階でこんなにクオリティ高かったらデビューしたらもうどうなってしまうんだ。

支度をしてみんなで車で出かける。八丁味噌の味噌蔵に併設されたフードコートで、焼きカレーと味噌からあげとサラダとドリンクのセットを食べた。

からあげはみんなのセットについてきていた。からあげの皿だけ金色の縁取りがしてあって、やたらとラグジュアリーだった。カレーの鉄板が熱いので、私は一歳児から一番遠い席に座ったのだが、遠くにいても目が合う度ににこにこと手を振ってきてとてもかわいい。さすが私の推し、100%アイドルである。

味噌かき氷は気になったものの、実物は山盛りの氷に茶色い液体がかかっていてどう見てもう○○だったし、○○この頂点には謎のピンクのハートの物体が載っているし、食べている人たちが誰もおいしそうにしていなかったので注文するのはやめた。

車で最寄りのJRの駅まで送ってもらう。一歳児がチャイルドシートを指さしてロックをはずせと無言で主張してくるが、「ダメよ」と伝える。今度は泣かれる前に思いだして大きなビーズでできたシュシュを渡した。放り投げることもなく両手でかちゃかちゃしながらじっと眺めている。前回もこれを気に入っていたんだから、似たようなのを探して買ってきたらよかった。古参オタ失格だ。

あっという間に駅前に着き、車が止まる。シュシュを返してもらって、「じゃあまたね」と子に手を振る。さっきまではとびきりの笑顔で手を振ってくれていたのに、このときは不思議そうにこちらを見つめるだけだった。私がうまく笑えなかったからだろうか。

次はいつ会えるかな。

東京の自宅までは18きっぷで在来線を乗り継いで六時間弱で到着する。夜七時には着く算段だが、まっすぐ帰る気になれず平塚で途中下車。東海道線駅近のサウナを検索して発見した太古の湯グリーンサウナに立ち寄った。

せっかくヴィヒタもテントサウナも実施日だったのに間に合わず残念。それでも十九時半のロウリュと数種類の風呂は満喫した。ぬるめの炭酸泉(ソーダ風呂)に寝ころべるスペースがあって快適すぎた。炭酸泉の説明書きには

「体についたソーダのような泡を指でなぞってはがす感覚を是非楽しんでください」

とあったので、郷に従う私は言われた通り試しに両腕の表面をなぞってみた。指の動きと一緒に、しゅわしゅわした泡が体の上を滑っていく。気持ちいい。これはえろ気持ちいい。なんというか下手な愛撫より俄然気持ちいい。人目もはばからず全身に指を這わせたくなるがさすがに思いとどまった。

次回はぜひヴィヒタとテントサウナリベンジしたいが、ロウリュサウナと炭酸泉だけでも入りに行く価値があると思う。

こうして毎日サウナや大きなお風呂に入ったおかげで疲労もなく、私の二泊三日18きっぷ旅は幕を下ろしたのであった。

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