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とこしえのうたかた

──思い出してみて 

たとえばそう
あなたの胸を濡らした木漏れ日のこと
たとえばそれは
時間がまだ止まっていたあの日のこと
たとえばそれは……

他愛のない らくがき
脈絡のない ものがたり
陰(かげ)のない
あたたかな気持ちに包まれて

「あなたが好き」

そんなふうに素直に気持ちを表現できていたころ

あの夏の日はきっとまだ
あなたの胸に薫るはず

さあ ペンを手に 見えない川を渡ろう
わたしのなかに 降り積もった言葉
星座のように インクで繋いだら
あなたのこころのなかへ流れていけるかな

もしもさ この世界がゲームだったとしたら
ひとつだけのあらすじ デザインされた友達

あなたとわたしのために用意された
特別なハッピーエンド

出会えたかもしれない
たくさんの友達

あったかもしれない
いくつものエンディング

その存在は少しも音を立てない
その存在は少しも香らない

セーブとロードを繰り返して
何度でもやりなおせる世界

そんな世界が本当に幸せ?

耳をすませてみて
聴こえるでしょうたくさんの声
風の流れを感じてみて ほら
遠いあの日 どこかで咲いていた花の香りがする

今日のあなたがいるのはそんな場所
かつてあった何か 
あるかもしれなかった何かが
交差する点に立っている

記憶はあなたのこころが繋いだ
あなた色のすじがき
あなたが蒔いた種に力を与える
希望の光

力は他人(ひと)を説得するための道具じゃない
力はあなたのあらゆる可能性
種子のなかに秘められた記憶の結晶
それはあなた自身のために使われるべきもの

ほら 肩にひとひら 落ちてきた木の葉は
あなたの記憶から光を浴びて
あなたの記憶から水を与えられ 
あなたの中に堆積した言葉の養分を吸って

太古から吹いてきた風を受け
いまそこに生まれ落ちた

わたしたちは連綿と紡がれてきた
大きな物語のなかに(それは宇宙と同じくらい) 
息づく生命のひとつとして
毎分 毎秒 またこの瞬間にも
産声をあげ続け 名を与えられている

そして無限に枝分かれした未来のひとつを選びとり
物語を書き進めていく著述家になる

人は精神的にも肉体的にも
環境に溶け込もうとすればするほど
かえって自分らしくなっていく

宇宙の涯で起きた風と繋がっている
そうあなたが感じられているとき
あなたの声は(それがどんな言葉で語られようと)
あなた特有の 唯一無二の声となる

あなたの胸の奥底から湧き上がる
幾千の宝石をみんな融かしこんだようなラヴァ

宝石のひとつひとつを個性と呼ぶのならば
混ぜ合わせ 固有名を失くしたあとの
その塊もまた個性と名づけることができる

自由の名を持つもの
秩序と混沌の世を往来するわたしたちの素のまま

愛という名を持つもの
それを良しとするまなざしを注ぐもの

豊かで穏やかな感情 静かで透き通るこころ
それこそが鋭い知性を育む母胎に他ならない

詩は永遠の大河を渡る舟
旅に終わりはなく ただ進むか止まるか
円環は閉じられず 螺旋を描き昇ってゆくだけ

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