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基山瑣末
2023年3月15日 07:24
あなたが亡くなってからもう十年が過ぎました。この十年は、私にとって何も意味のない期間でした。振り返れば十年過ぎていた、ただそれだけです。これは、私が惰性でここまで生きてきたことの証左であるように思います。 私がこれから書く文章もまた、同様に意味のないものです。生きている私にとってそうなのですから、死んだあなたにとっても無意味であることは自明でしょう。これは、惰性の集大成なのです。 あなたがあ
2023年3月22日 08:00
1. 大家が兄の遺品を引き取ってほしいというので、私はこのアパートに来ていた。 兄は突然自ら命を絶った。一枚の絵を描き上げたあとに。遺品というのはその絵、即ち兄の遺作である。 大家から鍵を受け取り、私は兄の部屋へ向かった。 扉を開けた途端、私は思わず後ずさった。部屋の真ん中に、歪んだ蜘蛛のような黒い影が根を下ろしていた。全く実体を持つ影であった。キャンバスがイーゼルに立て掛けられて
2023年3月30日 12:23
1. スマホに表示された日付で今日がゴミの日であることに気付いた私は、急いで体を起こした。 まだハッキリとしないままの頭を覚ますために、カーテンを開けた。朝日が目に沁みる。「アァ」 その鳴き声を聞き、私は身震いした。窓から下を覗くと、ゴミ捨て場にカラスが群がっている。私は即座にカーテンを閉めた。そして、今日ゴミを捨てることを諦めた。 私はカラスが怖いのである。 今のように、ゴミ捨