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人類は滅亡しました【怪獣黙示録・プロジェクトメカゴジラ読書感想文】

ゴジラは普通に好きだ。
特撮……怪獣映画が好きと言えば無条件にオタクでディープな話ができるのでは、と思われるかもしれない。けれど、特撮怪獣作品全部を舐めるように何度も鑑賞したことは無いし、なにかディープな知識を持ってるわけでも、フィギュアを集めてるわけでもない。「オタク」と呼べるほどの深い知識は無い。「普通に好き」くらいのスタンス。他にもいろいろ好きなコンテンツがあるので、そこまで深入りしてゴジラにのめり込んだことは無かった。
それでもやはりゴジラは好きなので、アニメ版ゴジラ(以下アニゴジ)の上映日は楽しみだったし、第一章は個人的に楽しめた。
観終わった後、Twitterやらで感想を検索していたら、たどり着いた。「怪獣黙示録」という本に。どうやらアニゴジ本編までの前日譚らしい。すぐに電子書籍で買い、読んだ。読んですぐ、この本の虜になった。
これだ。こういうのが読みたかったんだ。今までゴジラ映画を観てきたのはこの本を読むためだったんだ。当時そう思ったし、今でも思っている。

あらすじ/人類は滅びました

2048年、人類は地球を捨て宇宙へ飛び立った。怪獣から、ゴジラから逃げるように……。

アニゴジの始まりは人類が怪獣に蹂躙され、地球を追われて十数年が立ったところ所から始まる。
人間が居住できる惑星を求めて宇宙に出たものの、先行きの見えない旅に船員達は疲弊しきっていた。このままあるかもわからない惑星を目指すより、ワープ航行によって時間が経過して環境が変わった地球に戻る方が良いのでは? そう考えた、主人公サカイ・ハルオはゴジラを確実に倒す方法を研究し、それを上層部に打診する。ひとまず地球を偵察をすることで合意し、派遣チームを編成。2万年近く経って変わり果てた地球へと降り立った……。

作品のここに惹かれた

①設定にめちゃくちゃ心惹かれた。
今までのゴジラの映画では、なんだかんだで人類はゴジラに勝っていた(もしくは引き分け)。街が壊滅的なダメージを受けても、人はしぶとく生きてて、怪獣に生存圏を奪われることは無かった(FINAL WARSだと全世界壊滅状態だったけど結局人類生き残ってたっぽいのでノーカン)。
それが今度は「人類は怪獣に、ゴジラに敗北し宇宙に逃げることを余儀なくされた」がスタートライン。人類が敗北した後から始まるストーリー。こういうのを私は見たかった。アニメというある種本筋の特撮映画から離れているという距離感によって、こういうSF設定が出来たのかな。

②文体、口頭証言形式に惹かれた
本編の最初のモノローグでしか触れられなかった人類敗北までの歴史が細やかに書かれている証言レポート。怪獣と遭遇した一般市民、あるいは交戦した軍人をインタビューしてそれをほぼそのまま載せるというレポート。人の口から「語られる」という切り口から怪獣の恐ろしさを伝えるというのがリアリティというか、ドキュメントものを読んでいるようでとても惹かれた。たぶん、ドキュメンタリーものが好きなんだろうとここで自分の趣向に気づいた。

③過去の怪獣映画に出てきた怪獣、用語のオンパレード
ヘドラにビオランテ、ジャガーが戦闘服となっていたり、スーパーX、モゲラなどなど知っていればニヤリとする用語で過去作を見てきたオタク心をくすぐる仕様。過去作名シーンのオマージュもあり、ただ文字の羅列で出てきているわけではないのも得点が高い。

④絶望と希望が描かれてる
現実の世界で世界的な混乱が起こる度に、この本を手に取るようになった。架空の出来事を描いた小説なのに、「これからこんなことが起きるかも」と思わせるリアリティがあるからだ。混乱する群衆、難民であふれかえる国境、いつまでも協力しない国々。まさか自分が死ぬことは無いだろうという根拠のない驕り。そんな人間の有様が詳細に描かれてて、現実で起きていることを楽観視できなくなる。
ただ、この小説は人類がただ滅亡されてくだけの話ではない。次の世代に希望を繋ぐために、絶望的で過酷な世界に挑む人々の姿と願いが描かれている。小説の主人公サカキ・アキラもその一人だ。
絶望的な状況の中でも決して諦めず希望を明日に繋ごうとする人々の姿勢が、何より自分の励みとなる。だからこの小説が好きなんだ。

おわりに/お気に入りの本を見つけた喜び

言ってしまえば、ゴジラは「オタクの必修科目」として見ていた部分が多分にある。もちろん好きではあるけど、過去作品を観ることに少し義務的なものを感じていた。作品の中で「頭からつま先まで大好き」という作品を見出せず、長い間「俺はゴジラが本当に好きなのか?」という気持ちが燻り続けていた気がする。
そんな時に出会ったのがこの小説だった。しかし、この本も過去関連作品を観ていないかったら、この小説の魅力は半減していただろう。今まで履修してきたのがこの作品と出合うためだったと考えると、なんと人生は数奇なんだと感じずにはいられない。

この作品が出版されてから随分経ってるけど一度自分で感想文として書いときたいと思い、したためた次第。たぶんもう特撮ファンやゴジラを観た人なら読んでいるとは思うし、散々感想も書かれてるだろうけど、それでも自分は書いてないなら書いておきたい。それくらい好きな本です。面白い本の話は何度やってもいいじゃんね?

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何度だってするし、何度でも聞いてくれ

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