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ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?———はい、百合は不滅です。

たとえ世界が滅んでも、百合は不滅だ———。あなたもそう思いますよね? そんなあなたにピッタリの本があります。

電撃文庫『ヒトの時代は終わったけれど、それでもおなかは減りますか?』(新八角/ちょこ庵)

お腹は減る。ヒトは食べないと生きていけない。そして人は、女と女がイチャイチャする物語を世界が滅んでも求め続ける。

1.あらすじ

24世紀。三度にわたる世界規模パンデミックやら何度かの世界大戦により、地上は荒廃しきっていた。そんな東京―――新名称《第三実験都市スコピュルス》の外れ、《アラカワ》では二人の少女が食堂を営んでいた。食堂の名前は《伽藍堂》。そこでは、今や幻ともいえる旧世代の料理が食べられることで有名だった。
ウェイトレスの少女はリコ。黒い妖犬(ヘルハウンド)と呼ばれ、界隈から恐れられる食堂の用心棒にしてウェイトレス。
コックの少女はウカ。豊富な知識で24世紀の食材を使い、旧時代の美味しい料理を作る天使。
ポストアポカリプス世界で繰り広げられる二人の少女の戦いと人情と旨い飯の物語がここから始まる。

2.見どころ

やはり作品のキモになるのはリコとウカの関係
端的に言えば相思相愛。ウカはリコのことを世界で一番愛しているし、リコもウカのためなら命を張ってどんな敵とも闘うほど世界で一番大切に想っている。そしてそれをお互いに包み隠さずに思いの内を言える関係。だからたまにケンカもするけど、最終的に二人の絆はより強くなる......そんな関係。爽やかさを感じるストレートな恋愛感情のぶつけ方は少年漫画のようなものを感じる。……いや、今日びここまでストレートに愛を告白するのは少年漫画でも見ないわ。大胆な告白は女の子の特権。そんな二人のスキスキ告白合戦をニヤニヤ読むのが、この作品の醍醐味です。

そしてポストアポカリプスな世界観設定もかなり好き。不死の薬PACによって地球環境が激変し、生体兵器の蜘蛛戦車、ドラゴンやスライムまでがいるSFとラノベファンタジーの良いとこ取りのごった煮な設定。それを上手いこと食材として食べる、という設定がまた面白い。1話目から大戦期に作られた生体兵器の蜘蛛戦車の中身を食べる話なのがまたぶっ飛んでる。バトル描写も多い王道バトルものでもあり、無法地帯となった世界なのでギャングや変な宗教団体との縄張り争いに巻き込まれたりもする。内容がごった煮だけど、最終的にみんな旨い飯を食べて円満に終わるのがとても爽やか。そんな欲張りセットが大好きな人には必ず引っかかる作品だ。


3.おわりに

一応補足というべき点を書くとすれば、登場人物には男も多数登場する(作品の男女比率は1:1くらい)。ストーリー上、リコやウカが男と喋るシーンや行動を共にするシーンもある。なので、男がいるの自体が認められないという方は一応ご注意を。しかし、この男どももかなり良いキャラばかりで、リコとウカの間柄もよく知っていて、彼女たちの惚気に「また始まった…」と呆れつつ温かく見守ったり「尊い…」と有難がったりする男たちなのだ。なので所謂「百合の間に挟まる男」ではないことも記しておきます。


最後に、この小説で一番好きなセリフを引用して終わります。こういう関係が好きな人は是非に読んでほしい。

「オレはさ、自分が、世界で一番ウカの料理をおいしいと思える人間だと思ってるよ」
「わたしも……世界で一番、リコちゃんにおいしいって思ってほしい」


(おわり)

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