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ブランディングのための「タッチポイント戦略」 〜数×種類からの脱却〜

商品のイメージをつくり価値を高める「ブランド」。そのブランド形成においてもサービスデザインの波は及んでいます。これまでの “物を創って売る” 時代から、“市場を開拓し育てる” 時代への変化に伴い、その考え方も変わってきています。

今回は、その中でも、カスタマーとブランドの接点である「タッチポイント」について、この波をとらえ、戦略的に設計していくためのポイントを考えます

カスタマーとの大事な接点「タッチポイント」

そもそもタッチポイントとは何か。それは、サービス(ブランド)とカスタマーとの接点です。カスタマーが見るもの、聞くもの、触るもの、使うもの、関わる人。あらゆる種類がありますが、カスタマーがサービスについて接する役割を担うものは全てタッチポイントと捉えます。

提供側が意図的に設計し発信する広告やメディアもあれば、意図しないところで起こっているカスタマー間の口コミ、譲渡などもタッチポイントと言えるでしょう。

これまで、サービスのマーケティング戦略によって、カスタマーとのタッチポイントを増やしながら、タッチポイント上で効果的なコミュニケーション(インタラクション)が行えるように、さまざまな工夫が行われてきました。現在では、さまざまな「チャネル」が創られ、カスタマーの周囲をとりまくように世界が創られています。

必要なのは、タッチポイントの特性を、ストーリーに活かすこと

では、これからのサービスデザインの時代では、どのように捉えればよいのでしょうか?

サービスデザインの原則を解説した記事(前半後半)でも取り扱いましたが、カスタマーの行動は連続し、それぞれのサービス要素は有機的に繋がり合っています。一つひとつの体験の和ではなく、体験の相乗効果によって、ブランドのイメージが創られるならば、タッチポイントは、個別に考えるのではなく、全体を観ながら戦略を練る必要があるのではないでしょうか。

ブランドとはすべての顧客とのタッチポイントに広がったストーリーである
by Jonah Sachs

理想的なタッチポイントを考えるには、理想的なブランドイメージを考えよう

それでは、どのようにタッチポイントの特性を捉えれば良いのでしょうか?その問いを考えるにあたり、まずは、以下の問いについて考える必要があります。

どんな「ブランド」にしたいのか?

いつでも手が届く場所にありながら気軽になんでも相談できる相棒のような存在にしたいのか?逆に、扱いにくく距離があってなかなか手が届かない高値の花のような存在にしたいのか?ブランドのイメージってありますよね。そのイメージを明確にする必要があります。

通常、モノのデザインをする時にはあたり前に考えることですが、なぜかしらサービスをデザインしようとすると、ついつい忘れてしまいがち。ブランドイメージを明確にし、その上でそれに適したタッチポイントの内容と量を考えていく必要があります。

ブランディングに影響する3つのタッチポイント特性

それでは、タッチポイントを考えるポイントとして、ブランディングに影響しやすい3つの要素を挙げ、解説していきます。

1:接触する機会の多さ(数×種類)

タッチポイントの数や種類によって、もたらされる「機会の多さ」です。接触する機会が増えることで、特定の社会の中での「認知度」をあげることができます。カスタマーによっては、認知度が高いものを「信頼できる」「安心できる」と判断されることもあるので、わかりやすく効果をあげることができます。

一方で、パワフルで濃厚なサービスの場合は、その機会が多くなってしまうと、カスタマーは、お腹いっぱいだと感じ、飽きやすくなってしまうケースもあります。接触の機会を増やすという、端的なゴール設定だけでは危険。サービスの内容によって、最適な量に調整をしていくことが必要です。

2:接触の難易度(心理的距離/物理的距離)

タッチポイントに接触するまでの心理的な距離や物理的な距離によってもたらされる「接触の難易度」です。簡単に接触できるか、接触するのが難しいのかを指し示します。

オープンでアクセスしやすいものは簡単に接触でき、人が集まりますが、玉石混交。逆に、クローズドでアクセスしにくいものは接触が難しいため、特定の意識の高い人を集めます。人がサービスを選ぶのか、サービスが人を選ぶのか、コントロールすることになります。

3:接する情報の向き(プル型/プッシュ型)

どちら側からアプローチして接触するのかを表す「情報の向き」です。単純に、情報の知らせ方として捉えることもできますが、時に、双方の立場や関係性を感じさせることがあります。「わざわざ出向くのか、来てもらうのか」では、大きく印象が違います。

また、この情報の向きは、サービスの内容やタイミングによって、最適な方向を選択することが求められます。知らせるべき時に確実な情報をプッシュし、個人差のある要求を吸い上げる時にはプルで情報を取りに行くなど、文脈に応じた選択が必要です。

このように、サービスコンセプトとターゲットカスタマーの特性にあわせて、タッチポイントを戦略的に考えていくことができるのです。

タッチポイントでつくるブランドイメージ

また、先にも述べましたが、ブランドのイメージをつくるのは、個別のタッチポイントの合算ではなく、タッチポイントの相乗的なストーリーです。体験の流れ全体を捉えながら、この「接触する機会」「接触の難易度」「接する情報の向き」3つのタッチポイントの要素をうまく組み合わせて考えていくと、ブランドのイメージを演出しやすくなります。

例えば、接触する機会は多く、接触の難易度が高く、情報の向きがプル型の場合は、ツンデレタイプの高値の花を演出することができます。もちろんそこまでしてでも手にいれたいという中身があって成り立つ戦略です。

また、例えば、接触する機会は少なく、接触の難易度が低く、情報の向きがプル型の場合は、隠れ家的存在の演出ができます。「ここにあったか!見つけたぞ!」という発見の価値を高めるタッチポイントです。さまざまなこだわりのサービスがあって成り立つ戦略です。

こんな風にタッチポイントを多面的に捉え、文脈に沿って設計していくことで、“数撃ちゃ当たる戦法” から脱出し、ユニークなサービスを考えられるようになっていきます。戦略的にサービスを考えていくことが、もっともっと面白くなってくると思いませんか?

もちろん、目に見えるモノや環境のデザインが、ブランドイメージに与える影響の方が大きいかもしれません。しかし、目に見えないものは、長く体験すればするほど、ボディーブローのように、確実に体に印象を与え、効いてくるのではないでしょうか。

(三澤)


注1:タッチポイントは自発的に生まれるケースもあり、サービスデザイナーがコントロールできないものも存在します。しかし、具体的な「インタフェース」や「チャネル」の設計をしていくためにも、「理想的なタッチポイントのあり方」を考える必要があると考え、本記事ではあえて「タッチポイント戦略」という言い方をしています。

注2:本記事は、店舗など物理的なタッチポイントをもつブランドの戦略を想定しています。ウェブ上のみで完結するサービスデザインではこの考え方は適用できない可能性があります。

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