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「らしさ」を感じるサービス提供方法を考えよう!~岩手県遠野市で実践した観光施設のサービスデザインプロセスより~

「民話のふるさと」として有名な岩手県遠野市にある2つの観光施設(風の丘水光園)。これらの施設で、提供するサービスのあり方を設計するプロジェクトにグラグリッドが参画しました。

各施設はすでにオープンしている状態で、来訪されるお客様に、その施設らしい体験をこれまで以上にしてもらいたい、との経営者の思いから始まりました。

グラグリッドは、各施設でのサービスのあり方をスタッフの皆さんと一緒に考えるためのプログラムの立案と実施のファシリテーションを担当。
このnoteでは、その過程と工夫したポイントについてご紹介します。

STEP1:事前課題
他施設の体験から「その施設『らしさ』とは何か?」を考える


今回のプログラムに参加されるのは、各施設のサービス提供に関わっているスタッフ全12名の皆さん。

普段は、レジや受付などの接客や、バックヤードでの商品管理や棚卸し、お食事づくりなど、お客様が快適に施設を利用できるためのお仕事をされている方々です。

グラグリッドでこのプログラムを設計するにあたり考えたことは、お客様がサービスを受けたときに、なぜ「その施設らしいと感じるか」のメカニズムを、皆さん自身の経験と紐付けて理解できることを重視しました。

そこで、プログラムの事前課題として、参考になりそうな施設を事例として、その施設「らしい」サービスを受けた経験を記述してもらいました。

スタッフの皆さんが共通して知っている施設を条件に、「ユニクロ」を事例として設定。ユニクロの店舗で、自分がユニクロらしさを感じるモノやコトをできる限り挙げていただきました。

事前課題で、店舗でユニクロらしさを感じるモノやコトについて記述

この課題は、自分がお客様として施設へ行く立場になるので、お客様視点で物事を捉えるトレーニングの意味も含めたものになっています。

STEP2:オリエンテーション
施設らしいサービスを提供するためのメカニズムを理解する


各自で実施した事前課題を持ち寄ってのオリエンテーションは、オンラインで開催。

オンラインでのオリエンテーションの様子

事前課題で記述したユニクロらしさを感じるモノやコトの一つひとつが、一連の店舗利用体験の中に組み込まれていることを、グラグリッドから解説しました。

また、架空のホテルを設定して、下図を参考にお客様側と施設事業者側がそれぞれ何を意識しているか、その理解を深めるべく施設事業者役とお客様役に分かれてオンライン上での寸劇を実施。

お客様と施設事業者の接点を可視化したサービスブループリントにしたがって、
双方の役を演じての寸劇で「顧客接点」の理解を図った

伝えたかったことは、お客様が接する一つひとつのモノやコトが、「顧客接点(タッチポイント)」と呼ばれていること。その顧客接点でのお客様の体験が、その施設「らしさ」を感じる重要な瞬間になっていることでした。

ふりかえりのコメントをみると、顧客接点の重要さが、スタッフの皆さんご自身の感覚で、捉えることができたようです。

オリエンテーション後のスタッフの皆さんの感想

顧客接点の重要さを理解した上で、自分が所属している施設を対象に、「顧客接点」は何か?を考えるワーク。

実施してみた結果、普段、あまり意識していなかったモノ・コトが、顧客接点としてあぶり出され、皆さんのサービス提供に対する解像度が一段高まったようでした。

顧客接点というスタッフの皆さまには聞き馴染みのない用語ではありましたが、一度、具体的かつ客観的に捉えられる事例(ユニクロの事例)で理解し、それを自分の領域(自身の所属施設)に置き換えるプロセスがあったことで、顧客接点について咀嚼することができたのだと思います。

STEP3:ワークショップ
極端思考でサービス提供のあり方を考える


顧客接点の理解を踏まえ、いよいよ各施設でのサービスのあり方を考える、2日間のワークショップを開催。

サービスのあり方を考える2日間のワークショップの様子

大まかな進め方は、次の通り。
1.各施設の代表的な顧客接点のチーム内で共有する
2.各顧客接点での、あるべきサービスが提供された状態をイメージする
3.サービス提供のあり方として、サービスカテゴリごとにまとめる

ポイントは「2.各顧客接点での、あるべきサービスが提供された状態をイメージする」の部分。

はじめから「あるべき施設らしいサービスの提供のあり方」を問うても、仮に出てくるそれらしい意見は、どうしても批判的に議論することが難しく、意見を広げたり、深めたりすることがしにくくなる恐れがありました。

そこで、「極端思考」のアプローチを採用
参考:極端思考からはじまる創造的アイデア
(塩瀬ら;計測と制御、第51巻第8号、2012年8月号)

サービス提供における「最悪な○○(例:最悪なスタッフ、など)」から出される意見には、簡単に批判ができ、議論が活発化するだろうとの考え方から、はじめに最悪のサービスのあり方から考えることにしました。

また、さらなる工夫として、グループで共有しやすいように可視化する「最悪TP(TouchPoint)カード」を考案し、顧客接点ごとに一人ひとり作成していきました。
※UXデザインのメソッドで使われるKAカードを参考

最悪なサービスを提供している状態とは?
その時のお客様の心の声は?

例えば、風の丘で提供している、遠野名物メニュー「バケツジンギスカン」を例にみてみましょう!

最悪TPカード:タッチポイントにおける最悪なサービスの状態とお客様の心の声を記入
最悪TPカードを記入している様子

最悪TPカードの作成が終わったら、それを見ながら、最悪の状態を打ち消したときのお客様の心の声とサービス提供の状態を書き出す「最高TPカード」を作成します。

最高TPカードで、最悪な状態を打ち消す最高のサービス提供の状態を考える

これによって、顧客接点ごとに、どのようなサービスを提供すればよいのかが見えてきました。

そして、グループごとに作成された約40枚程度の最高TPカード。

5つのサービスカテゴリ(情報発信や接客、など)別に、サービス提供の考え方が類似した最高TPカードをまとめていき、結果として、各施設としてのサービス提供のあり方を特定することができました。

最高TPカードを統合している様子
サービスカテゴリ別のコンセプト一覧(イメージ)

また、これら一連のワークを通して、副次的な効果も見られました。

スタッフの皆さんが最悪TPカードを書き出している時でした。

「実は、私自身が最悪な対応やふるまいをしていました。」

各所からそのような声が聞こえ、明日からの仕事を見直そう、と仕事への意識を改める方が多くいらっしゃいました。

ワークにおいて内省を進めながら、自分の施設のサービスのあり方を出せたことは、自分ごととして結果を捉えることができたのではないでしょうか。

これからの実践でも、現場での様々な局面で思い出してもらえるのではないかと思います。

STEP4:ストーリーボード
シーンを設定してたサービスのあり方の可視化


ここまでの2日間のワークショップを通じて、施設でのサービス提供のあり方を出すことはできました。

しかし、実際の現場で具体的にどう行動すればよいのか?イメージできないと、なかなか動き出すことは難しく、せっかくのワークが机上の話で終わってしまいます。

そこで、具体的な行動がイメージでき、それをきっかけに応用的な行動を発想しやすくするための土台として、サービス提供のあり方を実施している具体的なシーンを、イラストを用いたストーリーボードとして作成。

作成したストーリーボード(イメージ)

なぜこのシーンで、このサービスの提供をするのか、をストーリーに組み込んでいるので、実践で応用するための研修テキストのような役割として活用していくことができます。

今後、スタッフの皆さんは、このストーリーを下敷きに、自分なりのストーリーを現場で作り出していくべく、実践編のプログラムに進んでいきます。


さて、ふりかえると、事前課題から、ワークショップ、ストーリーボードの作成まで、約3ヶ月に渡る取り組み

この期間を通じて、サービス提供のあり方を設定することと同時に、スタッフの皆さまのサービスに対する考え方も、お客様の立場で考える視点の切替が、より進んでいったように感じ取ることができました。

スタッフの皆さんの真摯な姿勢に、「風の丘」「水光園」の提供するサービスは、より一層お客様の満足度を上げることになるでしょう。
これからが楽しみです!

皆さまも、遠野へ行く機会がありましたら、まずは遠野観光の玄関口となる道の駅「風の丘」へ。宿泊は、ほっと安らげる遠野の時間が過ごせる「たかむろ水光園」を、ぜひご利用ください!
(尾形)


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