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それは最高のアイデアですか?デザイナーに必要な提案力とは

「アイデアを出すのは得意なんですが、選ぶことができません。」
「先生によって、良い、悪いの基準が変わるから、何が良いのかわかりません。」
美大でサービスデザインを教えていて、何度か聴いたことがある悩みです。

では、良いアイデアって、いったい何なのでしょうか?

「アイデアの良し悪しは、顧客が決める」。それが、人間中心デザインでの考え方です。ターゲット顧客に当てて確かめていくことで、より良いアイデアを見つけ出していく方法論です。しかし、顧客に当てることだけが術ではありません。

「筋の悪いアイデア」は、検証の土俵に挙げるだけ無駄になるし、「顧客がなんと言おうがやるべきアイデアだ」という状況に直面したことは何度もあります。良いアイデアには、アイデアの要件以外にも、別のバランス感覚が必要なのだと感じていました。

そんな折。美大のサービスデザインの授業で、体験のアイデアを考えてもらっていた時のことです。とても悩ましいことがありました。

「こんなものあったら面白いよね!」「ウケる!」「ありだね。」

さまざまな思いつき、さまざまなダジャレネタ。自分の好きな世界での勝手な展開。自分だったらどうするかという限定的な妄想。
なかなかアイデアとして、提案できるものになっていきません。ゴールイメージをうまく伝えられなかったことで、みんなを迷路に誘い込んでしまったようでした…。

そこで、
そもそもアイデアってどういうものか?
何を考えるべきなのか?
どのくらいの意気込みでつくるものなのか?
しっかり伝えなくてはいけないと思いました。

針の糸を通すよりも難しいけど、めちゃくちゃいいアイデアと出会えると電撃が走ること。それしかないっていうものに出会うまで粘ることの大切さについても。

良いアイデアとは何か?

その時、あわててつくったのスライドの一部を紹介します。

最初に伝えたかったのは、「自信を持って提案できるかどうか?自分に問いましょう。」ということ。実際は、最高かどうかなんてわからない状況がほとんど。でも、自分が信念をもって「これ最高の提案です!」と言えるかどうか。それが試されています。真剣に向き合っていれば、自然と態度に出てきます。

実は、ビジネスの現場では、この態度こそ一番見られていると思います。

そして、いくつかのチェックポイントを示しました。

1つ目は、本当にそのアイデアの中に面白いと思える体験があるか?今回はサービスデザインのコアになる「体験のアイデア」を提案してもらうのがミッションでした。物のアイデア、ネーミングのアイデア、環境のアイデア、ではNGなのです。時間の流れを含む体験としてのアイデアであること。そして、その体験の主人公が「これがあったら嬉しい!」と本気で思えるようなものであること。

ちなみに、体験価値と読んでいるものの中には、機能的価値と情緒的価値、両方を含んでいます。
「〜できる」「〜が有利になる」などの機能的価値と比較して、「〜という気持ちになれる」「〜に感謝できる」などの情緒的価値は、ないがしろにされてしまいがち。しかし、サービスデザインの新しいコンセプトでは、情緒的価値に注目した方が、業種を越境する共通目標が描きやすくなる傾向もあります。感性的な指標を活用することも大切です。

そして、次が最もデザイナーとして、研ぎ澄ますべき感覚。「コンセプトの筋」です。筋が通っているものは、すべてが一つの方向性にしっかりとまとまっていきますが、筋が通っていないものは、提案の内容も理解しにくく提案性がほとんどありません。

では、筋ってなんでしょう?

コンセプトの筋が通っているとは、「価値」「人」「体験」の3つが最高の相性であることです。「この人だから、この体験なんだ!」「この体験があるから、この価値がだせるんだ」という、いわば必然性の発見です。

そして、その「価値」「人」「体験」に、いろなものがゴテゴテついている状況ではなく、シンプルでミニマムに研ぎ澄まされている状況でなければいけません。それが、存在理由にもなるからです。

最後の条件は、独創的で提案性があるかどうか?前例がなく、メッセージがあるもの。世界的に前例があるものは、デザインの提案としては価値がなくなってしまうこともあります。そのためにリサーチし、新規性があるか?また、特徴となっている部分を明確に伝えられているか?そこまでが提案です。

提案力のあるデザインをするために

これらの「良いアイデア」の考え方は、今回の授業のために整理したのものなので、すべてのアイデアにマッチするものではないかもしれません。しかし、新しいものを提案する時には、多かれ少なかれ何かの参考になるものだと思います。

・自分が自信をもって提案できるもの
・体験のストーリーがあり、その中に価値が見えるもの
・価値とターゲットと体験の関係に、必然性があること
・シンプルでミニマムな状態であること
・独創的であり提案性があるもの

良いアイデアを決めるのは、定量的な基準でも、チェックリストでもありません。そして未来のものの良し悪しは、すぐにはわからないこともあります。だからこそ、デザイナーは、たくさんの身体知と感情知をもって、主観力を磨いています。感性をフル稼働させながら多くの豊かな経験を積み、蓄積し、良いと思えるものを自分のビジョンと共に抱いてもらいたいと感じました。

リベンジ成功の図

(三澤)

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