gladdesign

i'm graphic designer.

gladdesign

i'm graphic designer.

最近の記事

【BOOK】『孤狼の血』柚木裕子:著 暴力と欲望、その果てにある信頼と正義

昭和の終わりの広島の、仁義なきヤクザ社会の抗争とそれを「必要悪」として生かさず殺さず手玉に取る悪徳刑事・大上。目的のためなら手段をいとわない強引な違法捜査に呆れながらも、次第に大上の刑事としての「孤高の矜持」に惹かれていく新米刑事・日岡。警察とは、男とは、命とは何か。何もかもが薄汚れていて、何もかもがまぶしく見えたあの時代。男と男の魂のぶつかり合いに心揺さぶられる前代未聞の警察小説。 広島が舞台かと思いきや、主な舞台は呉市である。作中では「呉原」という地名になっている。 時

    • 【BOOK】『お台場アイランドベイビー』伊予原新:著 見えない鎖をひきずって生きてゆく

      首都直下型地震が発生し、首都東京が壊滅的なダメージを受けた平行世界の日本が舞台。 刑事を辞めていまはヤクザの用心棒をやっている巽丑寅は、不思議な黒人の少年・丈太と出会う。 震災を機に見かけられるようになった「震災ストリートチルドレン」を追ううちに、政治家、ヤクザ、謎のアナーキスト、あらゆる外国人労働者たちが入り乱れ、沈みゆく日本の中で雄叫びを上げる。 圧倒的筆致で描き出す「震災後の落ち行く日本」の姿がリアルに迫る傑作だ。 首都直下型地震のリアル本作は第30回横溝正史ミステリ

      • 【BOOK】『永遠についての証明』岩井圭也:著 世界で最も美しい数学と友情の物語

        なんという美しい物語なのだろうか。 数学の世界の純粋性と人が人を想う真っ直ぐな純粋性との完全なる調和。 森に代表される自然界の摂理と深遠さ。 自然と宇宙との運動に身を任せることで得られる圧倒的な世界への手がかりが脳内で煌めく瞬間の、なんと饒舌なることか。 「21世紀のガロア」とも呼ばれた数学の天才・三ツ矢瞭司と、その天才に嫉妬しながらも憧れ、愛したもう一人の数学の天才・熊沢勇一の、数理の世界でしかつながり合えなかったふたりの友情に胸が締め付けられる。 「数学」は「言語」であ

        • 【BOOK】『蹴りたい背中』綿矢りさ:著 裏のアオハル群像劇

          2003年第130回芥川賞受賞作。 当時最年少での芥川賞受賞ということで話題になった。 「青春期特有の視野の狭さ」と「自分の立ち位置を確認したくて仕方がない心理」つまりアイデンティティへの渇望と模索を描いた「裏の」青春群像劇、として読んだ。 「青春期特有の視野の狭さ」というのは、読んで字のごとく青春の日々は何かにつけて盲目的であり、自覚はないが視野が狭く、小さな世界が世界の全てだと考えて行動してしまうことを指している。 生まれてから乳幼児期を経て、やがて思春期に差し掛かるこ

        【BOOK】『孤狼の血』柚木裕子:著 暴力と欲望、その果てにある信頼と正義

        • 【BOOK】『お台場アイランドベイビー』伊予原新:著 見えない鎖をひきずって生きてゆく

        • 【BOOK】『永遠についての証明』岩井圭也:著 世界で最も美しい数学と友情の物語

        • 【BOOK】『蹴りたい背中』綿矢りさ:著 裏のアオハル群像劇

          【BOOK】『東京ホロウアウト』福田和代:著 運んでいるのは信頼

          「HOLLOW OUT(ホロウアウト)」とは、直訳すると「凹(くぼ)める」「決(さく)る」「抉(えぐ)る」という意味らしい。 ニュアンスとしては、ある一定の領域に対して中央付近だけを取り除く、欠落させる、といった感じだろうか。 東京一極集中が進む中、2020年二度目の東京オリンピックが開かれる直前、トラックに青酸ガスを仕掛ける事件が発生。 単なる嫌がらせでは収まらず、高速道路やトンネル、ガソリンスタンド、東京湾にかかる橋にまで事故が頻発。 さらに首都圏を直撃する台風によって、

          【BOOK】『東京ホロウアウト』福田和代:著 運んでいるのは信頼

          【BOOK】『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ:著 「家族」の必須条件

          血の繋がらない親子。 という設定だけを聞くと、お涙頂戴物のイメージが先行してしまうが、どうもそうでもない気がする。 2019年の本屋大賞を受賞。帯にも「著者会心の感動作」とある。 だが、私にはそういう感想はあまり沸かなかった。 どこにそんな感動ポイントがあったのか分からず、しばし悩んだほどである。 「家族」のアンチテーゼ主人公・森宮優子はいつも愛想が良く、誰からも嫌われないように行動できる上、自分の機嫌を自分でとれる人なのだなと思った。 年齢の割には妙に大人びているにも関わ

          【BOOK】『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ:著 「家族」の必須条件

          【BOOK】『ミッドナイトジャーナル』本城雅人:著 嘘を見抜く目、嘘をつかない矜持

          「それはジャーナルなのか?」 忙しさで目が回る毎日の中で、いかに芯に情熱を持ち続けることが出来るか、お前にはそれがあるのかと問われている気がした。 他紙に抜きつ抜かれつするスクープ合戦は、時として上司の命令に背かなければ得られないこともある。 中央新聞さいたま支局の関口豪太郎は連続少女連れ去り未遂事件を取材する中、七年前の連続幼女誘拐事件での誤報を思い出す。 単独犯で結審したが実はもうひとり共犯者がいるのではないかと気づいていたにも関わらず、報道しなかったことで次の事件が発生

          【BOOK】『ミッドナイトジャーナル』本城雅人:著 嘘を見抜く目、嘘をつかない矜持

          【BOOK】『ラストワンマイル』楡周平:著 腐らず次の一手を常に模索することの意義

          「安定は情熱を殺し、緊張、苦悩こそが情熱を産む」フランスの哲学者アランの言葉は、全ビジネスマンの胸に届くべき言葉だ。 宅配最大手の『暁星運輸』広域営業課長・横沢は、郵政民営化により郵便局が宅配事業者とガチンコ対決となる中、ネットショッピングモール最大手『蚤の市』から法外に安い運送料金を迫られる。大手コンビニチェーンの宅配事業も奪われ企業存続の危機に陥る。起死回生の一手は「出店料無料のネットショッピングモール」事業の立ち上げ。『蚤の市』vs『暁星運輸』の戦いの横では、『蚤の市』

          【BOOK】『ラストワンマイル』楡周平:著 腐らず次の一手を常に模索することの意義

          【BOOK】『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成:著 月の裏側もまた、月である

          就職活動という、人生においてもっとも嘘をつき、嘘をつかれ、自分を欺き、美辞麗句の海で溺れる経験ができる貴重な機会において、本当の自分とはどんな自分なのかを問い、追い詰められていく六人の大学生たち。 二転三転、良い人だと思っていた人が実は腹黒いところがあり、でもやっぱりあとから良い面が見えたり。 月の裏側のように、人が人を見ているのは、ほんの一面に過ぎず、人間とは実に多面的な存在であることを、巧みなストーリーテリングで描ききった快作だ。 嘘つきな大学生は以下の六人。 九賀 

          【BOOK】『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成:著 月の裏側もまた、月である

          【BOOK】『二重らせんのスイッチ』辻堂ゆめ:著 アイデンティティは環境によってつくられる

          「僕が僕であるために」という歌があったが、自分が自分であるということを証明するには、自分以外の「モノ」が必要である。だが、やってもいない事件の証拠が、ことごとく「それは自分である」と告げていたら、いったいどうやって自分が犯人ではないことを証明できるのだろう。 社会問題に翻弄され、自己のアイデンティティが揺らぐ。人間とはなんと儚い存在であることか、と思わざるを得ない。 だが、言葉に出来ない違和感が確信に変わる時、自分が自分で信じられなくなる瞬間に立ち会うことになる。 著者、辻

          【BOOK】『二重らせんのスイッチ』辻堂ゆめ:著 アイデンティティは環境によってつくられる

          【BOOK】『犬を盗む』佐藤青南:著 人と動物の暗くて深い溝を越えるもの

          犬を中心に、殺人事件や動物虐待、保護犬の問題、前科者への偏見、ネット上の誹謗中傷など、さまざまな社会問題が複雑に絡み合い、物語が一つに収斂していく。 人の裏の顔と動物の純粋さの狭間にある、暗くて深い溝を越えられるのは、一体何なのだろうか。 高級住宅地で資産家で一人暮らしの老女が殺害される事件が発生。 飼っていたと思われる犬が現場から忽然と姿を消した。 なぜ老女は殺されたのか。そして犬はどこに行ったのか。 犬好きの下山と犬嫌いの植村の刑事コンビが事件を追う。 コンビニ店員の

          【BOOK】『犬を盗む』佐藤青南:著 人と動物の暗くて深い溝を越えるもの

          【BOOK】『アナザーフェイス』堂場瞬一:著 厳しさと優しさのもうひとつの顔を持つ刑事

          「もうひとつの顔」は、誰にでもある。 家庭での顔、職場での顔、周りの人間関係によって様々な顔を我々は無意識に使い分けている。 そして、それは自分以外の人には「見せられない顔」とも言えるのだ。 子どもが誘拐された内海夫妻に、ある違和感を感じる刑事総務課の大友鉄は、自分自身の「もうひとつの顔」との狭間で揺れ動きながら、事件の真相に迫っていく。 警察小説史上、最も優しい(かもしれない)シングルファーザー刑事の、慈しむ視線が事件を解決へ導く、切ないラストに胸が痛む。 タイトルの『

          【BOOK】『アナザーフェイス』堂場瞬一:著 厳しさと優しさのもうひとつの顔を持つ刑事

          【BOOK】『じんかん』今村翔吾:著 人間の根源を問う大河浪漫

          これはもはや「大河ドラマ」である。 読み始めてすぐにそう感じた。 ひとりの男の一生を追う物語は、波瀾万丈と表現するだけでは決して表せない、重く太く深い何かがある、そう思わせたのだ。 「人はなぜ生きるのか」生涯をかけて問い続けた、その答えを、松永弾正久秀は見つけたのか。 本作は、人間とは何かを突きつける、今という時代に読まれるべき慟哭と賛美の書だ。 本作の主人公・松永弾正久秀は、従来の史実では、主君である織田信長に対して二度も謀反を起こし「裏切り者」と言われ、室町将軍の暗殺に

          【BOOK】『じんかん』今村翔吾:著 人間の根源を問う大河浪漫

          【BOOK】『罪の声』塩田武士:著 過去を振り返るだけではない未来へつながる希望の物語

          実際にあった「グリコ・森永事件」をモチーフとした傑作長編小説。 もちろん本作はフィクションだが、犯行声明や事件発生日時など、可能な限り史実に基づいて描かれている。 これはフィクションの皮を被った、限りなくノンフィクションに近い犯罪の記録と、過去を振り返るだけではない未来へつながる希望の物語だ。 グリコ・森永事件が、単なる製菓企業への恐喝による現金奪取が目的ではなく、毒入り菓子をばら撒くことで上場企業である大手製菓メーカーの株価操作が目的だとしたとしたら、という説を軸としてい

          【BOOK】『罪の声』塩田武士:著 過去を振り返るだけではない未来へつながる希望の物語

          【BOOK】『金の角持つ子どもたち』藤岡陽子:著 自ら飛ぶための力

          5年続けてきたサッカーで選抜メンバーに選ばれなかったことから、中学受験をして夢を叶えたいという少年・俊介と、現実とのせめぎ合いの果てに子どもを応援する親と、信念を元に子どもたちに勉強を教えてきた塾講師・加地が見たのは、子どもたちが自らの力で勝ち取った「金の角」という武器だった。 中学受験を巡る親と子と塾の世界で巻き起こる、希望と再生の物語。 母・菜月菜月の父親が腎不全で人工透析を受けなければならなくなり、高校を中退させられた。 当時の高校の担任教師が親を説得してくれたものの

          【BOOK】『金の角持つ子どもたち』藤岡陽子:著 自ら飛ぶための力

          【BOOK】『転々』藤田宜永:著 人生を振り返り前を向く東京散歩

          井の頭公園をスタートし、ゴールだけを決めて東京を東へ散歩するロードミステリー。 借金を抱えた青年・竹村文哉と強面の男・福原愛一郎。 「百万円をやるから一緒に散歩をしろ」という奇妙な提案を受け、文哉は福原とともに歩き出す。 東京散歩を縦軸に、文哉の純愛物語を横糸に、偶然に出会う人々と、さらに絡み合う福原の謎、文哉の人生と家族の謎。 短いけれど切ない人生を振り返り、再び生き直すための散歩は、衝撃の結末を迎える。 東京を散歩するということ「散策に一番適した場所は東京なんだ」と福原

          【BOOK】『転々』藤田宜永:著 人生を振り返り前を向く東京散歩