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【読書記録】常野物語 恩田陸

恩田陸作品の中でも好きなシリーズの一つ
常野(とこの)シリーズについて書きます



常野物語読む順番


全部で3作あるシリーズは刊行順に読むのがおすすめです。

『光の帝国』1997年 短編連作

『蒲公英草紙』2005年 長編

『エンド・ゲーム』2006年 長編



『光の帝国』

膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、近い将来を見通すちから
「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。
不思議な優しさと淡い哀しみに満ちた、常野一族をめぐる連作短編集

光の帝国 集英社 あらすじより一部抜粋

ふつうの人とは違う様々な能力を持つ人たち。
超能力系のファンタジーは大いにその能力を発揮して物語を展開していく作品が多いけど、これは違う。
私たちの日常に溶け込んでいる。だから惹かれてしまう。
読後は、この現実世界に常野一族がひっそり生活していたらな~なんていう想像をして、ワクワク、ホクホクする後味を残してくれる。
短篇だけど繋がっていて一篇、一篇読んでるうちにさらに物語の世界が広がっていく感覚。哀しく温かい。

『しまう』や『裏返す』『草取り』という能力を使うときの言葉のチョイスも面白い。
恩田陸の頭の中は一体どうなっているんだろう。と毎回思う。

いつかその流れに恐怖を覚え、立ち止まることもあるだろう。
どうすればいいのかと悩み、後ろばかりを振り返る時もあるに違いない。
その時帰ればいい。みんなが待っている。あの広い世界。



『蒲公英草紙』


不思議な能力を持つという常野一族が東北の農村の旧家槙村家に訪れる。
槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。いまを懸命に生きる人々。懐かしい風景。待望の切なさと感動の長編。

蒲公英草紙 集英社 あらすじより一部抜粋


一作目である光の帝国の中の登場人物、春田一家が出てくる。
彼らは『しまう』という能力の持ち主
優しい語り口で展開され、雰囲気もゆったりと穏やかだが、過酷で残酷な現実が待っている。そのコントラストが哀しく切なく胸に迫る。

自分が幸せであった時期は、その時にはわかりません。
こうして振り返ってみて初めて、ああ、あの時がそうだったのだと気づくものです。

次々とやってくる新しいものに浮かれている一方で
葬り去るには懐かしく心地よいものがたくさんあるような気がするのに
否応なしに流されていく。



『エンド・ゲーム』


『あれ』と呼んでいる謎の存在と戦い続けてきた拝島時子。
『裏返さ』なければ『裏返され』てしまう。『遠目』『つむじ』など特殊な能力を持つ常野一族の中でも最強といわれた父は、遠い昔に失踪した。
そして今、母が倒れた。一人残された時子は、絶縁していた一族と接触する。親切な言葉をかける老婦人は味方なのか?『洗濯屋』と呼ばれる男の正体は?緊迫感溢れる常野物語シリーズ第3弾!

『エンド・ゲーム』  集英社 あらすじ

前作の二つとは雰囲気が変わって、穏やかではない。
『裏返す』能力を持った人は怯えて、戦い、生きていく。
全く想像できない世界が展開されているがどんどんのめり込んでいってしまう。
文庫本あとがきでは「常野物語」はまだ続きます。とあった。
いつかまた、常野一族に会えるのを楽しみにしている。

世界は単純で、目の前には開かれた未来が広がっている。
自分は若く聡明で魅力的で、そんな自分を待ち受けるのは輝かしい未来に違いないという根拠のない自信に溢れている。
懐かしい愚かさ。いとおしき愚かさ

誰かのために生きること。誰かとともに生きること。
それがこんなにも充実した、歓喜に満ちた素晴らしいことだとは思わなかった。

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