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『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』映画の魅力は「視点による感情的体験」

映画の鑑賞前後では、様々な感情の変化がある。

落ち込んでいたのが、ミュージカル映画を観ることで明るい気持ちになることもあれば、元気だったのが戦争映画を観て落ち込んで食事が喉を通らくなってしまうこともある。

なぜそのような感情の変化が起こるかと言うと、多くは「感情移入」をするからだ。
自分が、ミュージカル劇団員の一員になったり、戦場の兵士になった気がしてくる。映画の登場人物にいつしか「憑依」し、あたかも自分が体験したかのような気持ちになる。

移動や立場、自分の生活を変えることなく、様々な感情的体験をすることができるのが、映画の1つの魅力だ。

その点、メキシコの麻薬カルテルの闇を描いた2015年公開作品『ボーダーライン』は非常によくできた作品だった。

詳しくはこちらのnoteに書いたが、
底なしの深い闇『ボーダーライン』|続編鑑賞のための予習
いつしか鑑賞者は主人公であるFBI捜査官ケイトの視点に立つようになり、メキシコ麻薬カルテルの底知れぬ闇を感じることができた。

『ボーダーライン』の続編、『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』は、正直「視点」が曖昧だったように思う。

今回の作品には、前回のFBI捜査官ケイトのような外部の人間がいない。
強いてあげるとすれば麻薬王の娘イサベルがそうなのかもしれないが、震えて恐怖しているだけで、かつ麻薬王の娘という特殊な立場なので感情移入がしにくい。
前作よりも、カルテルへの復讐に燃える暗殺者アレハンドロの感情にフォーカスされてはいるが、そもそも感情の起伏が表に出ない人物ということもあり、葛藤が見られずよくわからない。
復讐者としてのアレハンドロと、かつての娘がいた父親としてのアレハンドロの葛藤、それに絡むメキシコ麻薬カルテルの闇、という構図がもう少しあれば良かったのかもしれない。

「誰かの視点で何かを伝える」ということだけではなく、単純にエンタメ作品として見る向きもある。
確かに前作よりもド派手にドンパチ、それはアカンでしょ(笑)といったことも平気でやって観客を楽しませる要素もあるが、
それにしては題材がちと渋くはあるので振り切れていない。

まあとはいえ、脚本は個人的に最近推しのテイラー・シェリダン。
シリアスとエンタメのバランスを取るのがうまいので、楽しめる作品にはなっている。

『ボーダーライン』シリーズはもう一作あるらしいので(本作の最後は、続編を匂わせるカットで終わっている)、それに期待したいと思う。

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