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【琴爪の一筆】#15『娼婦の本棚』鈴木涼美⑤

本なんて大量に読む必要はないし、忙しければ読む時間もないだろうし、読まないで済むこともたくさんあるけれど、少なくともカラダに悪いことばかりしてきた私の青春に色彩を足し、ぬかるみから掬いあげてくれるものでした。

『娼婦の本棚』鈴木涼美著
中公新書ラクレ 2022-04
p253より引用

この本からの素敵な一文の引用も早いもので5回目、最終回です。

読書体験とはどのように表現すればよいのでしょうね。明確なテーマが見えなくても、その作品が醸し出すトーンや空気感というものを自然と感じとります。それは物語でも学術でも、文字の隙間にどこかしら現れてくる。そしてむしろ生身の作者とは切り離れてそこにあり続けています。本を読むという行為は、いわば読者だけが入れる純粋で不可侵な、作家の分身と密会する小部屋のような空間であると考えます。

私が思うに、著者にもそのような空間がすでに幼少のころからいくつもあって、それぞれがそれなりに居心地のよい場所だったのではないでしょうか。だからこそ彼女の心は、その秘密の小部屋に、うっとりと紅潮するような彩りや、感涙に潤う瑞々しさというものを置き得た。その時々の現実が本人にとってはろくでもないものだったとしても、意識の中には素敵な帰れる場所があった。などと言ったら大げさでしょうか。

そのような著者の素敵な「小部屋」の数々のうち、いくつかの扉を開けて中を見せてくれているのがこの本です。主には悩める女の子向けというコンセプトですが、私のような壮年のオジサンでも非常に興味深く読める本となっていて、紹介されていた本は実際にいくつか購入しました。それはまた改めて紹介できればと思います。

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