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ゴリラの日常はドラマにあふれている


ここ最近、ゴリラのことで頭がいっぱいである。

ゴリラ。

ゴリラを初めて見たのは子供の頃……あれはいくつの頃だったろうか。
親に連れられ某動物園で見たゴリラは、コンクリートでできた狭い檻の中にいた。大きくて毛むくじゃらで怖い顔をした三人(あえての人)のゴリラがこちらを見ている。
客側の柵とゴリラの檻の間には堀のような溝があり、ごみだとか餌のカスだとかいろんなものが落ちている。子供だった私をことさら恐怖に陥れたのは、柵に取り付けてあった注意書きだ。

「ゴリラが糞を投げることがあります。ご注意ください」

ビクビクしながらゴリラを眺めていると、信じられないことがおこった。
一人のゴリラがもりもりとうんちを出し始め、そのホカホカのうんちを直接手のひらで受けると、口に持っていきむしゃむしゃと食べているではないか。


その後長らく、私の中のゴリラのイメージはうんちを投げたり食べたりする怖い動物だった。


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大人になって、そのゴリラのイメージは大きく覆されることとなる。

動物園で私が一番長く見てしまう動物は、なんといってもゴリラだ。気づいたら二時間たっていた、などということもザラにある。
広々とした緑豊かな運動場で思い思いに過ごしているゴリラたちは、あまりにも人間くさくて、見ていて飽きることがない。

休日のお父さんのようにごろんと横になって、なぜか足の親指を握りしめて寝ているゴリラ。山のてっぺんに座り、近くに飛んできた鳥を哲学者のような表情でじっと見つめているゴリラ。カラフルな布をスカーフのように頭に巻いているおしゃれなゴリラもいる。
ゴリラ同士の距離感もいい。お互い空気を読んでいる感じも人間に近い気がする。

近年の動物園は、動物たちがなるべく自然に近い状態でストレスなく暮らせるよう配慮するようになった。野生のゴリラのように群れで飼育し、運動場も緑豊かで客の視線がストレスになりづらい構造になっている。

思えば私が子供の頃に見たゴリラの飼育環境は今とは比べようがないほど悪かった。あれではうんちを客に投げつけたくもなるだろう。
(うんちを食べるのはなんか理由があるみたいです)



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そんな具合で、私の中で三本の指に入るほど好きな動物であったゴリラ。
しかし、年が明けてからなんとなく一本のゴリラ動画を観てしまったのがいけなかった。
まさかこんなにゴリラ沼にズブズブとはまることになってしまうとは―――

ゴリラ一家の動画、これもう、超絶におもしろいんである。

2024年現在、群れで暮らすゴリラのいる日本の動物園は三つ。
私は今、この三つの動物園のゴリラ動画を毎日のように見続けて時間を溶かしている。


東京・上野動物園

オランダ生まれ、オーストラリア育ちのワイルドなシルバーバック(大人の雄は背中の毛が銀色なのでこう呼ばれます)・ハオコがお父さん。
モモコ、トトの二人の奥さんと、モモコの子供たち四人の七人家族。
トトには子供がいないが、子供たちから慕われるよきおばさん的存在。

ハオコ家のアイドルはなんといっても1歳のチビゴリラ・スモモちゃんだ。お姉ちゃんやトトおばさんの背中やお腹にしがみついて移動する姿が超絶にかわいい。

スモモは生まれたときお母さんモモコの体調が悪く、人工哺育に切り替えられた。人工哺育で育ったゴリラは小さいうちに群れに戻してあげないとゴリラ界になじめなくなってしまう。
ゴリラ界への復帰を目指し、ゴリラエプロンをつけた飼育員さんの手でミルクを与えられ、柵越しに他のゴリラたちと面会しながらすくすく育ったスモモ。

9か月後、いよいよお母さん・モモコと同居することになる。

モモコとスモモを隔てる柵についている小さな出入り口が開くと、モモコは精一杯手を伸ばしスモモを引き寄せようとする。やがてスモモに手が届くとこちら側に引っ張り、モモコはしっかりと小さなスモモを胸に抱いて愛おしそうに見つめたのだ。

この動画を観て私は号泣した。
タイタニック」では1ミリも泣かなかった私がゴリラで号泣した。

それほど感動的な名シーンであった。



名古屋・東山動物園

イケメンゴリラとして有名なシルバーバックのシャバーニは、上野にいるハオコの弟。そのイケメンぶりでネネとアイの母娘を二人とも妻にしてしまうナイスガイだ。
ネネは私と同世代、国内最高齢ゴリラ。垂れたおっぱいが味わい深い。
キヨマサとアニーは年が近い兄妹で、いつもじゃれ合っている。
アニーは母・アイがうまく育てられなかったため、人工哺育ののち群れに戻っている。

ゴリラは10歳くらいで大人になる。野生のゴリラは大人になると自ら群れを離れ、結婚相手を求めて新たな群れを作る。
思春期まっさかりのお兄ちゃんゴリラ・キヨマサは、父シャバーニによく挑んでいる。じゃれ合っているときもあるし、それが本気のケンカに発展することもある。シャバーニはキヨマサを鍛えているようにも、じゃれ合いを楽しんでいるようにも見える。
そんなふたりの様子を心配そうに見守るキヨマサの母・ネネや妹のアニーがけなげでいじらしく、巨人の星の姉ちゃん的な存在に感じる。

まだまだシャバーニにはかなわないが、キヨマサはいつかシャバーニを超え、自分の家族を持つ日が来るのかもしれない。


京都市動物園

若きシルバーバック・モモタロウは上野にいるモモコの長男。
姉さん女房のゲンキとの間にゲンタロウ、キンタロウの二人の息子がいる。

モモタロウは生まれる前に父を亡くしたせいか、ちょっと愁いを帯びた表情が印象的だ。群れで暮らした経験がないので人間(ゴリラ)関係がちょっと不器用で、餌を独り占めしたり、子供たちとの接し方にとまどったりと、子供っぽい一面がある。
ゲンタロウは母・ゲンキの乳の出が悪く人工哺育で育ち、無事群れに復帰。大人の階段を上っている真っ最中で悩み多き年頃。
キンタロウは元気いっぱいのちゃっかりもの。やんちゃざかりでお兄ちゃんと取っ組み合いしたり、パパにちょっかい出して怒られたりしている。

モモタロウ一家の精神的支柱はお母さんのゲンキだ。

京都生まれのゲンキは10歳で上野にお嫁に行った。
ゲンキは雄のビジュとラブラブになるが、上野にはライバルの雌たちがいた。イギリス紳士のビジュは雌たちに平等に接するが、ゲンキは大好きなビジュを独り占めできないさびしさを味わうことに。
さらに、後からやってきた奔放なイケイケ女子ゴリラ・モモコがビジュに急接近。失恋した上に雌たちとの関係が悪化したゲンキはストレスで自傷するようになってしまい、京都に戻ることに。

ところが、ゲンキが京都に戻る直前に事件が起こった。
シルバーバックのビジュが急死してしまったのだ。
傷心のゲンキを母ゴリラのヒロミは優しく迎え、母のもとでゲンキは次第に元気を取り戻していく。

時は流れ―――

何人かの雄と暮らしたものの赤ちゃんには恵まれなかったゲンキのもとにやってきたのが、10歳の雄・モモタロウ。
彼は大好きだったビジュの忘れ形見だった。
ゲンキの恋敵だったモモコはビジュの子供を身籠っていたのだ―――。
父親を知らずに育ったモモタロウは成長し、ゲンキの住む京都にやってきた。ビジュの面影を宿したモモタロウを気に入ったゲンキは、やがて彼との間に二人の子供を授かり、幸せな家庭を築いていく。

ゴリラ界の昼ドラとでもいうべき波乱万丈な経験をしてきたゲンキ。
今ではすっかりたくましく愛情深い母ゴリラとなり、子供たちをやさしく見守っている。



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ゴリラたちの日常は良質なホームドラマのようだ。

遊ぶゴリラ。
眠るゴリラ。
モリモリ食べるゴリラ。
恋するゴリラ。
育児するゴリラ。
じゃれ合うゴリラ。
荒ぶるゴリラ。
気まずいゴリラ。

そのひとつひとつの物語に、私は親近感を覚え、感動し、目を細めている。

ゴリラたちを見ながら、幸せって何だろうとよく考える。
その答えはまだわからないけれど、ゴリラたちはただただ、「生きること」の尊さを私に教えてくれる。






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