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日本の寄付の系譜:③共助と互助に現れる寄付の実践(江戸時代)

江戸時代、「江戸の八百八町」「京都の八百八寺」と並び称されていた大阪の「浪華の八百八橋」。大阪には約200の橋が架けられていました。そのうち、幕府が建設費用を出した「公儀橋」はわずか12橋で、残りは全て町人が生活や商売のために自ら費用を持ち寄って架橋、管理する「町橋」でした。現在の大阪の地名にもなっている心斎橋や淀屋橋も町橋でした。「大坂の陣」後の復興を担った岡田心斎が掛けた心斎橋、江戸時代の豪商・淀屋が掛けた淀屋橋となります。
江戸時代は共助や互助の形の一部に寄付が組み込まれています。幕府に頼らず、町民や農民が協力し合って自分の地域をより良くするために寄付の仕組みが使われていました。

江戸時代には、現在の助け合いにつながる共助・互助の取り組みが実践されていました。秋田藩御用達商人那波三郎右衛門祐生が中心となって設置した「感恩講」が有名です。1829年、那波祐生は自ら多額の私財を提供するととも有力町民に声をかけ、今でいう基金を立ち上げました。献金者は191名にもなったそうです。集めた資金を元手に収入を得る事業を手掛けるとともに、普段は困窮者救済を行い、飢饉の時には飢餓に苦しむ人々の救済のために活用されました。継続的に活動を行うために毎年の収入の一定額を蓄積することにしていました。
他にも、困窮した農民の救済用貸籾の備蓄制度である「社倉」や、災害や飢饉に備えて米などの穀物を農民より徴収したり、有力者から寄付をもらい、貯蓄・運用するための「義倉」という制度が各地で設置されました。義倉は民主導で設置されたのに対して、社倉は藩主導で設置されていたようです。
さらに、江戸時代には頼母子講や無尽講という助け合いの金融が発達しました。数十人単位のコミュニティによる互助が仕組み化されたものです。一定の期日ごとに構成員が決まった金額を出し合い、くじや入札で決めた当選者に一定の金額を渡し、全員がもらい終えるまで続けるというものでした。現在の寄付の形とは違いますが、助け合いの精神をお金で仕組み化したもので、地域の発展や運営に寄与するという日本の寄付に繋がるものです。山梨では、この仕組みの名残として仲間内で飲み会や旅行を行うための費用を積み立てる「無尽」という制度がまだ残っています。

この時代の共助・互助文化の礎になったのは、仏教でも儒教でも大切な教えとして出てくるのが「徳」です。仏教では善行を行う「徳を積む」という教えや、儒教では「仁・義・礼・智・信」からなる五徳という教えがあります。江戸時代に共助・互助が積極的に行われたのも「徳」の精神の実践からだと思われます。この徳の教えの中に「陰徳」の精神があります。陰徳とは、人に知らせずひそかに善行をすることです。「陰徳陽報」という四字熟語があり、「陰徳あれば必ず陽報あり」ということを意味しています。中国・前漢時代の哲学書『「淮南子 (えなんじ) 」人間訓』に出てくる言葉で、人知れずよいことを行う者には必ず目に見えてよいことが返ってくるという意味です。他にも、近江商人の教えに「陰徳善事」というものがあります。善い事を行うことは他人のためだけでなく、自分のためにもなるということで、「情けは人のためならず」の本来の意味の実践が、地域の助け合いを支えるものになっていたようです。
(寄付月間共同事務局 事務局長 山田泰久)

キーワード:
1)町衆・会合衆・大坂商人 →都市型 
  ・公儀橋vs町橋
2)無尽講 頼母子講 報徳思想 
3)七分積立金 義倉 社倉 囲米
4)儒教、仏教
  ・陰徳陽報(いんとくようほう) 「陰徳有る者は、必ず陽報有り」

関連する「ファンドレイジングスーパースター列伝」:
Vol.366 陰徳の美(1980年代)
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Vol.14 江戸時代の大阪の町人/浪華の八百八橋(江戸時代)
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Vol.34 那波祐生/感恩講(1828年)
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Vol.59 河相周兵衛/一般財団法人義倉(1800年)
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Vol.85 懐徳堂/現在の大阪大学(1724年)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1259

【日本の寄付の系譜】
①寄付の潮流
https://note.com/givingdecember/n/naf8e996de880
②勧進から続く寄付の軌跡(奈良時代から鎌倉時代)
https://note.com/givingdecember/n/n9290f125f478
③共助と互助に現れる寄付の実践(江戸時代)
https://note.com/givingdecember/n/n7f85d80acd7d
④慈善と社会事業の寄付(明治)
https://note.com/givingdecember/n/n4bcd947193b0
⑤制度による寄付(明治・大正・昭和初期)
https://note.com/givingdecember/n/nf428db9df0e8
⑥戦後復興期と昭和の寄付(昭和)
https://note.com/givingdecember/n/nc4695eff6328
⑦現代の寄付
https://note.com/givingdecember/n/n34a268796955

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