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日本の寄付の系譜:④慈善と社会事業の寄付(明治)

明治になって国が大きく変わったように、現代でいう、ソーシャルセクターにも変化が生まれました。慈善活動家や社会事業家と呼ばれる人々の誕生です。その筆頭が岡山孤児院を創設し、児童福祉の父と呼ばれる石井十次です。その活動は岡山だけではなく、東海地方で起きた濃尾地震の被災児や冷害によって大凶作となった東北地方の孤児を引き取るなど、全国的な活動を展開し、多い時期には1200人の孤児が岡山孤児院で生活をしていました。明治時代には社会福祉制度が整備されていなかったため、個人の善意や寄付で福祉施設の運営がなされていました。石井十次の活動は、福祉活動の実践だけではなく、ファンドレイジング(資金調達)手法も素晴らしいものでした。孤児院運営のために、庶民から貴族からまで幅広い層の個人から寄付を受け付けていました。その他に、青年実業家だった大原孫三郎(倉敷紡績社長)からの支援や、小林富次郎商店(のちのライオン株式会社)の社会貢献活動による支援など、実業家や企業からの支援も受けていました。さらに、山陽鉄道の主要駅に募金箱を設置したり、孤児で結成した音楽幻燈隊による慈善公演を全国各地で開催したり、様々な方法で寄付を集めていました。今のNPOでも参考になる取り組みです。
石井十次のファンドレイジングの特徴の一つにキリスト教の精神による慈善活動があります。キリスト教を信仰していた石井十次はキリスト教関係者から多くの支援を受けていました。この時代の慈善活動の歴史を調べると、キリスト教関係者による取り組みが目立ちます。その裏には文明開化による西洋文化の輸入もありました。さらに、江戸時代の幕藩体制から近代国家への移行の中で、今までの地域内での共助・互助から地域を超えた全国的な支え合いが生まれてきました。

石井十次のような慈善活動家・社会事業家の他に、実業家による慈善活動、社会事業も注目される動きです。日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一は、現在のCSRの先駆けとなるような取り組みを数多く手掛けました。渋沢栄一は約500社の創業に関り、多くは現在でもその系譜が残っています。一方で、社会事業団体や学校、協会など約600もの団体・組織の設立に関わった人です。渋沢栄一は20世紀初頭に4回訪問したアメリカで実業家によるフィランソロピー活動に強い関心を持ちました。国や自治体が出来ない公益事業に対して、アメリカの実業家が率先して取り組んでいることや、それにより経済や文化の振興、人材育成に寄与していることを視察してきました。この渋沢栄一の渡米によるフィランソロピーの視察が日本の実業家や財閥に大きな影響を与えたようです。渋沢栄一自身の活動にも、この時代の実業家・企業によるフィランソロピー活動にも、寄付の取り組みが含まれています。

他に、この時代発祥のチャリティ活動があります。明治17年(1884年)6月12日から3日間にわたって日本初のチャリティーバザー「鹿鳴館慈善会」が華族や貴族の婦人会によって開催され、盛況だったそうです。明治33年(1900年)、小林富次郎商店によって慈善券が印刷された「ライオン歯磨慈善券付袋入」が発売されました。慈善券1枚につき、同商店が1厘の寄付をするというものです。今でいうベルマーク活動に近いものです。ライオンのWebサイトによれば、1年間でその当時のお金で10,000円の寄付になったそうです。
明治は、近代寄付の誕生の時代でした。
(寄付月間共同事務局 事務局長 山田泰久)

キーワード:
1)キリスト教の博愛主義(1870年代)
・ライオン(株)の前身の小林富次郎商店の慈善券(1900年)
2)文明開化(鹿鳴館)
・華族、貴族  ・初のチャリティバザー(1884年)
3)皇族の下賜金
4)渋沢 栄一(1840年~1931年)と石井十次(1865年~1914年)
5)実業家や財閥の勃興
・三井慈善病院(1909年) ・渡米実業団(1909年渋沢栄一、フィランソロピー)

関連する「ファンドレイジングスーパースター列伝」:
Vol.15 石井十次/岡山孤児院(1900年代)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1144
Vol.32 山室軍平/救世軍(1895年)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1171
Vol.50 渋沢栄一/関東大震災(1920年代)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1196
Vol.52 毎日新聞/本山彦一/大阪毎日新聞慈善団(1910年代)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1202
Vol.61 香淳皇后/結核予防会(1939年)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1215
Vol.71 山口玄洞/関西の寄付王(1901年)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1225
Vol.89 大山捨松/鹿鳴館貴婦人慈善會(1884年)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1263
Vol.100 小林富次郎/ライオンの歯磨き粉「慈善券」(1900年)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1278
Vol.211 歳末同情募金/募金(1910年代)
 https://blog.canpan.info/cpforum/archive/1462

【日本の寄付の系譜】
①寄付の潮流
https://note.com/givingdecember/n/naf8e996de880
②勧進から続く寄付の軌跡(奈良時代から鎌倉時代)
https://note.com/givingdecember/n/n9290f125f478
③共助と互助に現れる寄付の実践(江戸時代)
https://note.com/givingdecember/n/n7f85d80acd7d
④慈善と社会事業の寄付(明治)
https://note.com/givingdecember/n/n4bcd947193b0
⑤制度による寄付(明治・大正・昭和初期)
https://note.com/givingdecember/n/nf428db9df0e8
⑥戦後復興期と昭和の寄付(昭和)
https://note.com/givingdecember/n/nc4695eff6328
⑦現代の寄付
https://note.com/givingdecember/n/n34a268796955

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