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カメラを構える


今日は、父の命日です。

父は、写真を撮るのが趣味でした。

基本、着る物にも食べる物にも無頓着な性格で、高級な食べ物よりも、屋台のとうもろこしと五平餅が好き。老眼鏡は、母のおさがり。ヅラだと一目でわかるヅラを、それはそれは大事に使っておりました。

服も脱ぎっぱなしだし、ご飯はポロポロ落とすし、踵は汚いし、ティシュは使い回してボロボロだし、、、


そんな父ですが、自分のお店とカメラだけは、いつも丁寧に磨いていました。



風景写真が多かったです。鳥も、好きでした。


重たいカメラを最低2つはぶら下げて、三脚を担ぎ、暑い日も寒い日も、自分のお店が休みの日はいつも写真を撮りに出掛けていました。




父の病気を知るわずか2週間前、3人姉妹とその家族で、両親の傘寿のお祝いをしました。海の見える小料理屋に集まって、内緒でサプライズ。とても驚いていました。


食事会も終わりに近づいた頃、突然父が無言で立ち上がり、カメラを構えました。

窓の外へカメラを向けて、何も言わずにシャッターを切り続けます。

大きな窓から見えたのは、青空を飛ぶ飛行機。

夢中でカメラを構えるその姿は、何故だか切羽詰まっているように見えて、誰も言葉を発せずに、一緒に窓の外を見ていました。


あの瞬間は何だったのでしょう。


今でも、父のその立ち姿を憶えています。


脇をしめ、膝を少し曲げ、猫背で構えるいつもの姿。けれど、いつもより神々しく見えました。



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二人の姉は、父は厳しかったと言います。

私にとっては、厳しくも甘くもなくて、なんて言うか、父親らしくないなぁと思っていました。

家や車の鍵はすぐに無くすし、酒を飲むとあっという間に真っ赤になってお猿さんみたいになるし、声はでかいし、酔ってなくてもお猿さんみたいだし、、、


そんな父ですが、カメラとフイルム以外にお金をかけているのを見たことがありません。毎晩カメラを触り、自分の撮った写真を床に広げては、

『どれがいい?』

と聞いてきました。

私は、父の写真が好きでした。




今日は父の命日です。

見出しの写真は、水族館でカメラを構える父。

数少ない、父が写った写真です。


おわり