さらば、うたよみん。
ド文系、かしこくも理系を詠む。
今ここで殺されたなら五万年後も化石になって貴方に会おう
会いに来て博物館に二万年経ったら化石のわたしが待つから
九・八メートル毎秒毎秒で落ちてく恋に落ちろ地獄に
イニシャルがSとNでも引かれ合う力生まれぬ恋の力学
ひからびた君を宇宙で抱きしめて永遠の愛の蓋然性知る
羈旅
川柳|《かわやなぎ》揺らす風さえ藍色に染まるデニムの町に夏立つ(岡山県倉敷市美観)
みほとけの心象のまま空は澄む我の悩みは置きざりに秋(神奈川県鎌倉市)
住江のまつと言ふなら百代の月を飽かずに眺めし君か
花葬
花なんぞ猫は喜びもしないけどそれでも棺に入れようと買う
花花花花に囲まれ君はゆく花咲く場所へ僕を失くして
もうここはいたくなくて花花花花に囲まれ遠くへゆく春
もうここにいられないのと花花花花に囲まれどこへゆく春
人生最期の日は最高の日
雨音と君の寝息を聞きながら箱船に乗り遅れた週末
「終末は雨です。別涙次第では、雨量は五百ミリの所も……」
箱船があればほんとのふたりきりつくれるような氾濫の夜
パステル ラブ
桜より早くに花の咲いた爪薄水色は片恋の予感
指先に春を纏ひて嗚呼君は初めての恋知つてしまつた
水色の恋ならよかった雨の日と煙草ばかりの恋は灰色
さあここで共犯者の恋をしようミントブルーの風が吹いたら
六月がけぶる雨のヴェール編み純白の夢彼女は見てる
目の前を薄くれないが横切ってあなたに会おうか花曇りの午後
恋する詩人
鳥さえも恋をすれば歌うのにあなたはタイトルさえ教えない
呼吸するくらい自然に恋をして言葉紡げばあなたも詩人
息をするくらい自然に恋をしてうまれた言葉を詩|《うた》と呼ぶ日々
泣かないで
頑ななつぼみのように閉ざされた目蓋に雪水春はすぐそこ
こぼれだす涙が凍らないように等しく春は来るのだろうか
死にたがりの夏
ひまわりの海で溺れて耳の無い男の幻影ひらめく葉月
うなだれた向日葵涸れた水焦げた影死の気配だけする真昼
本の虫の知らない話
触れないで貴方はわたしに熱すぎる雪の女王に成り損ねたの
飾るための鱗など脱げ人魚さえ二本の脚で立つと選んだ
サンダルを脱ぎ捨てわたし人魚になる肺呼吸の恋に破れて
海底に還れないのと嘯いて人魚の髪解く冬生まれの君
さいわいを質す胸の箱庭に青き羽根の散る散る満ちる
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